538, 演説の間、誰も席を立つことはなかった。やっぱり……みんな心の底では、あの「買いの容認」を恨んでいたってことよね。
……演説を終えたSegWitは、わたしをじっと見つめてきたわ。わたしは無言のまま、うつむいてしまった。だって……。
たしかに「買いの容認」が今の現状を招いたのは間違いないわ。その影響はノイズなどでは済まず、あらゆるものを破壊していった。物価が上がっていく、その原因も……間違いなく「買いの容認」よ。それは各地域一帯を任された大精霊の責任ではなく、闇の勢力によるものだということは、もう明白だったの。そしてこれをやったのは……SegWitの前任、あのシィー。もう……。
そんな恐ろしいことを「マジックショー感覚」で闇はやっていた……。それも間違いないわ。その点では、このSegWitの主張は一貫して合っているのよ。そうよね、雇用という重要な指標すらあんなポンジな状態で平然と出していたわ。それは見るからに「闇とあれらはグル」だった。そうよ、SegWitはそう言いたいのよね。
これを何とかするには、たしかに……きずなが絡む利率を下げていく。それにより平常化して、元の生活に戻っていく。そうね……。
それでも……、その平常化プロセスが本当にうまくいくのかしら? ううん、そこがSHA-256刻印通りになっていくのよ。足りない分は、本当に刻印通りに実行することで「補填」される。それにより、利率を下げていっても覇権を維持できるだけの価値相当が買われ、通貨の価値を保つことができる。それもまた「刻印に保証されている」ってことよね?
うまく考えられている……本当に、よく考えられている。SegWitは、あたかも勝利を誇示するかのように自慢げに語っていたわ。たしかに、あの覇権が崩れたらどうなるのか。そんなの、わたしだって恐ろしいわよ。そこまで短期間で変えてしまうのは勇気ではなく無謀。つまり受け入れるしかない状況まで、緻密に計算した上で、このような事象が起きるよう刻印に刻んであった……ってことかしら? そしてそれを仮想通貨に積極的にSHA-256を採用することで「確実にした」って感じかしら? うん、矛盾がない。逆に矛盾を探したくなるほど綺麗に整っていて、逃げ場すらないわ。
こんな考えを巡らせている間に、コンジュ姉の表情が強張っていたのを確認してしまった。ここまで闇に否定的な演説だもの、そうなるわ……。
そのあとSegWitは、無言なわたしから目をそらし、力強く演壇を降りたわ。……そして、その演説の間、誰も席を立つことはなかった。やっぱり……みんな心の底では、あの「買いの容認」を恨んでいたってことよね。
……そうよね。元の生活に戻す。それが大事よね。わたしは、それを平和の神託で、ごまかそうとしていただけかもしれないわ。そして、この神託には……力はあるのかしら。
そんな落ち込んでいるわたしの傍に寄り添ってきた存在……それは使い魔と、そう……フィーだった。