531, まてまて。おまえが魔女になったということは、俺は何になるんだ? ……パンチにオールバック、ダブルスーツで身を固めた使い魔にでもなって、フラッシュローンでも提供しろっていうのか?
そうね……さすがは預言されていた今年の十月。情勢は、よろしくないわ。いよいよ注目はAggWitに移り、その行動は……、すでに暴君と揶揄されるほどよ。……なんというか、表情ひとつ変えず、的を狙うかのように、次々と破壊していく。そんな姿になってしまった。
刻印の解析で覚悟はしていたとはいえ、こうして映し出された現実がこれだなんて……。しかも、きちんと十月を守ってくるのよね。それこそ、敵対する勢力がどんなに煽ろうとも、前月の九月には決して本格的には動かない。……そう、預言は必ず守る。その強い意志が、確かにそこに刻まれていたわ。
……。女神で何とかできないのか……。そうよね、誰もがそう思うでしょう。でもその手段は……刻印によって封じられてしまった。もっと早く気づいていたなら……。
しかし、そんなことを悔やんでも仕方がない。今できることは限られているわ。いまは……「敵の敵は味方」という原理で、闇の勢力がわたしの側についている。それならば、その事実を最大限に利用して、影響を最小限に抑えるしかないわ。……これよ。
そこに……のんきに現れた、あいつ。どうやら高い場所には、すっかり慣れたようね。
「おい、ネゲート。女神のことを魔女と呼ぶ奴らが急増しているらしいぞ。」
「そうよ。……って、今ごろ気づいたの?」
「まあな。こんな所に閉じこもっていれば、そうもなるさ。」
「……たしかにそうね。でも、それは覚悟の上よ。わかっているでしょう? あんたも同席していたのだから。」
「……ああ、あいつか。そんなことを言い出したのは。」
「そうよ。魔女は危ない、魔女は危険な存在、魔女は常に何かを企てている……。そんな内容を吹聴しているわ。」
「ああ、なんてひどい話だ。それでも効果はあるのだろうな。」
「そうよ。それは古の時代が証明しているわ。魔女から逃れるための『奇跡』を買うために、すべてを捧げた……そんな話がね。今の価値観からしたら信じ難いけれど、結局、構造は同じ。ただ中身をすり替えて、この時代にも繰り返されているってことよ。」
「……その次元かよ。思っていたよりずっと根深いな。」
「そうよ。本当に、こんなのばかり。」
「それなら……。」
えっ、なにかしら?
「まてまて。おまえが魔女になったということは、俺は何になるんだ? ……パンチにオールバック、ダブルスーツで身を固めた使い魔にでもなって、フラッシュローンでも提供しろっていうのか?」
「へぇ……?」
……、それはよくわからない概念だけど、「フラッシュローン」という響き……。つまり、そういう冗談なのね?
「あ、いや……その……。」
「……大変だったのね。」
「えっ?」
「あんたがよく言う『信用全力』。結局、吹っ飛ばしたあと、そこまで首を突っ込んでしまった……そういうことね?」
「あああ、さすがにそこまでは……ちゃんと損切り、できていた……はず。いや、そんなことは……。」
「隠さなくていいのよ。」
「……いや、ほんと、そこまでひどくはない……はず。でもな……最後の俺って、どうなったんだろうな。たしか、全力で買い建玉を持ち越して……。でもさ、あれは妙にそういう気分にさせられるんだよな。」
「……ほら、やっぱり。」
もう。もしそれが本当にフラッシュローンだったのなら、最後の約定は破棄されて、結局は「なかったこと」で済んだでしょうに……。まあいいわ。こんな時期にそんな取引をしたら、本当に「使い魔」のお世話になってしまうところね。
……あいつなりに、冗談で和ませてくれたのかしら。肩の荷がすっと下りたわ。これだけでも随分と楽になる。ずっと張り詰めたままでは、わたしだって持たないもの。