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523, 黒幕は、「福音」の性質を十分に熟知していた。そして、糸で操られるようにSegWitが動き出した。SHA-256刻印の視点から見れば、当時のあの疑問すら、瞬時に解き明かされていくのね。

 ついに動き始めたわたしだけど……今日は少し緊張しているのよ。なぜなら、コンジュ姉がわたしの様子を見に、急に、この塔へ訪れることになったのよ。ちょうど、量子アリスからの報告もあるはずよ。でも、今は寝ていたわ。


 そして……そんなことを考える間もなく、ついに……わたしの目の前に現れたのよ。


「もう……そんなふうに、いつでも気軽に立ち寄れるのだから。わざわざ改まって来なくてもいいじゃない。こっちが緊張するのよ。」


 それからコンジュ姉はあたりを見回し、ぽつりとつぶやいたわ。


「それにしても……この雰囲気、似ている。」

「似ているって?」

「私もこんな感じだった。結局、黒幕を見破れずに失敗したのよ。でも、あなたは違うわ。しっかり見破った。そこで……量子アリスは、役に立ったかしら?」

「……そ、それは……。」


 えっ……まさか量子アリスって……?


「……隠すつもりはなかったけど、ここで改めて話しておくわ。昨年の今ごろだったかしら。あなたがシィーを追っていた時、なぜか『崇められていた存在』がいたでしょう? そこで現れた、『女神……』を名乗っていた存在。検索してもまったく出てこない、不気味な存在だったはずよ?」

「な、なんでコンジュ姉がそれを……?」

「実はね、その『女神……』、私だったのよ。シィーの政敵の動向を探るため、あえてその姿を利用していたの。そしたら……ちょっとばかり本気な集団にまでなってしまって、焦ったわ。そのとき感じた気配……。本来なら分散して拡散するはずのものが、一点に集まっていく。それがやがて集団を形づくる。……これこそが、あのディール……SegWitを動かす『福音』だったのかしら?」

「……そ、それ、本当なの?」

「そうよ。」


 確かに、いたわよ。あの得体の知れない存在「女神……」。でも、それから大きな影響にはならず、自然と消えていったはず……。それが、コンジュ姉だったなんて……。


 それにしても、いま改めて「女神……」の件を思い出すと、皆が偶像の対象を求めていて……そのときは、「女神……」に気配が集中していったのね。


 そこで黒幕は、「福音」の性質を十分に熟知していた。そして、糸で操られるようにSegWitが動き出した。SHA-256刻印の視点から見れば、当時のあの疑問すら、瞬時に解き明かされていくのね。


「……それね。私もずっと悩んでいたのよ。」

「あの刻印の支配力は、想像以上ってことよ。闇ですら恐れるほどに……。」

「あら……闇って、支配するのは好むけど、支配されるのは嫌う……そういうことかしら?」

「……そういうことにしておいて。」


 もう……。


「ねえ、コンジュ姉。それがシィーの政敵だったということは……。」


 そう。それは……。


「そうよ。まさかこんな形で役に立つなんて、あの当時は夢にも思わなかったわ。もともとは闇のためだったのに。」

「……コンジュ姉らしいわ。でも、そこで得られた情報から考えて……わたしに量子アリスを預けたのね?」

「そうそう、わかればいいのよ。」

「もう……。」


 ……そんなところからも、すでに探られていたなんてね。皮肉よね。


「ところで……私はどこに案内されるの?」

「……案内?」

「ええ。たまには、こういう高い場所もいいかなって……思って。」


 ……なるほど、そういうことね。


「この塔は思いつきで構築されたものだから、空いている部屋なんて山ほどあるわ。好きに使えばいいわ。」

「へぇ……。それなら……、量子アリスの隣にしましょう。……ところで、その量子アリスは?」

「量子アリスなら……、十賢者と真剣なやり取りを交わして、甘いものボタンを堪能したあと、今はお昼寝中。そのうち起きるから、絶対に起こさないでね。どうせここを拠点にするなら、顔合わせはいくらでもできるでしょう。」

「量子アリスはぐっすり眠っている……。邪魔する気はないわ。むしろ、私がここにいることで驚かせてあげたいくらい。」

「……コンジュ姉の気配は大きすぎて、もう夢の中で気づいていると思うけど……。」

「そうね……夢の中で、私が寂しい思いをしていたことに気づく。それでいいのよね?」

「もう……。」


 そして……、視線の先にある、そのボタンをじっと見つめていた。


「ところで、その『甘いものボタン』って?」

「ええ、これのことよ。」


 ……SegWitがこの塔に残していった、奇妙な構造……そういうことかしら。


「これを押すと、本当に甘いものが出てくるのね?」

「そうよ。」

「……もし私なら、量子アリスが出てくるようにするけれど。」

「ちょっと、それって……。」


 いつの間にか緊張感は解け、久しぶりにゆるやかな時間を過ごしていたわ。それにしても「女神……」の正体がコンジュ姉だったなんて。やっぱり闇だわ……。何もしていないふりをしながら、福音に対する、裏の調査は常に完璧……。闇って、そう簡単にはやられないのね。さすがは、ブルーステートだわ。

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