522, 市場に放たれたサメたちを意のままに操り、銛で突き刺す者……それが「黒幕」だとは、わかっていたわ。でも、まさか……こんな形で現れるなんて。たしかに「正体不明」こそが、好都合だったのよ。
わたしネゲートは、壊れかけた市場を何とかするために、この地に女神として現れたのだと、ずっと思い込んでいた。女神として昇格したその瞬間こそが、まさに「役割」の始まりだったから。これまで辿ってきた出来事を振り返れば、それは明らかだわ。
そのとき、一つの経路が見えてきたの。自然発生したように見えながらも、サメたちを巻き込み、そして「黒幕」だけが助かることを示唆する経路。
そう、サメ。それは……市場に現れる、飢えた象徴。満たされぬ腹で、何もかもを丸呑みにしていく存在よ。
そんな、市場に放たれたサメたちを意のままに操り、銛で突き刺す者……それが「黒幕」だとは、わかっていたわ。でも、まさか……こんな形で現れるなんて。たしかに「正体不明」こそが、好都合だったのよ。
そう……その者こそが、不安定な市場からCBDCまでを統括していた「黒幕」だった。
黒幕は助かる? 冗談じゃないわ。助かるどころか、この舞台の主催者だったなんて。その策略は圧巻よ。あの邪神が率いる闇さえ手玉に取り、レッドステートを焚き付け、たったひとつの刻印……SHA-256で、すべてを操っていた。こんな芸当、後にも先にも二度とないわ。
そして気づいたの。わたし自身も女神として振る舞っていたつもりが……とんでもない位置にまで達していたことに。仮想短冊に込められた価値を危うく誤って解釈し、このままCBDCと絡められた平和賞に、女神としての神託をつなごうとしていた。
思い返すだけで震えが止まらない。だって、わたしの神託は「平和のため」だったのよ。偶然? ……いいえ、それは偶然じゃない。わたしの心すら操っていた。それが黒幕によって仕組まれた刻印だった。
でも……今ならわかる。わたしの女神としての役割は、この刻印を無効化すること。SegWitは現れ、刻印ガチャだと言い残してこの塔を去ったわ。そこに、AggWitは準備中……そういうことよね。けれど、もう大丈夫。わたしにつながれた糸は、量子の刃で断ち切られたのだから。
あとは……、わたしの……女神としての神託をWeb3へとつなぐだけ。たったそれだけのこと……。だけれど、それがどれほど難しかったか。
それでも……わたしはやっぱり、運がいいのよ。タイムリミットは刻印の示す通り、今年の十月。そう、来月に迫っていたのだから。
その前に訪れた、たったひとつの希望。数多の量子的検証が導き出した、SHA-256刻印の破砕。無数の「赤黒い糸」が次々と断たれていく。……そう、これでみんなが「自由」を手に入れられるのよ。
ぎりぎりで間に合わせる。それこそが、女神としての力。……まあ、そういうことにしておきましょう。ねぇ、Satoshi。