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516, その言葉と同時に、ネゲートが少しだけ肩を預けてきた。あれほど毅然としてきたのに、ふっと甘えてくる瞬間。……さすがに、胸にくる。

 クリプトの概念に疎い俺でも……この状況は、相当にやばいと感じているよ。


 刻印だっけ? その通りに、何もかもが動かされている。それが良い方向ならいいけど……こんな傀儡、良い方向なわけがない。もちろん、そのように動いているのは「時代を創る」役割を担う、あのディール野郎の行動が刻印通りだからだろうな。あれだけの影響力を持つ彼がそんな動きを見せれば、周りはついていくしかない。自然と、刻印の意図通りになってしまう。……こりゃあ、とんでもない場所に俺は呼び出されてしまったらしい。さすがに非現実的過ぎて……。どうせ呼び出されるなら、スローライフとか……って、それは言ってはいけないお約束だな。


 でも、最もきついのはネゲートだろう。これじゃ……「女神として覚醒」とか、そんな次元では追いつかない。えっと、何だっけ。あれからネゲートに愚痴られた単語……そう、CBDC。合ってるよな? これは……本当にやばい。まさにこのクリプトの塔をCBDCの塔に書き換えれば、神話に似つかわしい、人間の傲慢を象徴する完全支配型の構造に置き換わる。


 ただ、クッションが必要だった。いきなりCBDCでは強い反発があるのは当然、それで仮想通貨を挟んで、ワンクッション置いて、いずれは全部をCBDCに移行させるつもりだったんだろう。けどさ……単なる「同じように使えます」では、みな動かない。よって、仕掛けが必要になる。


 それで思い出した。俺が前に暮らしていた世界でもよくあったよ。「不審な物が見つかった」とか……、わざと見える場所に置かれ、既成事実化される。そして、それが「歴史を変える力」にもなる。それは、今回も同じだ。この刻印がそれだよ。量子アリスが量子演算で暴いたからこそ、まだ手を打つ余地が残された。……本当に、良かった。けれど、もし知られないまま預言の成就を迎えていたら……その瞬間に、刻印があらわになり、そのままCBDC完全移行の筋書きになっていただろう。


「ねえ……。」

「なんだよ? まあ、なんだ。ちょっとは女神らしくなってきたんじゃないか?」

「……。でも、あれでは……。今のところ、わたしたちにつながれていた糸が、切れただけよ。」

「それでも十分な前進だろ。」

「……うん。」


 その言葉と同時に、ネゲートが少しだけ肩を預けてきた。あれほど毅然としてきたのに、ふっと甘えてくる瞬間。……さすがに、胸にくる。


 けれど相手はすでに動き始めている。ああ……、あれから任期を含めた細かな事情を量子アリスから聞いた。本来なら今期で終わりのはず。しかし、その任期を粉砕し、恒久の玉座をかけて……本気で来るだろう。ただ、ブルーステートも黙ってはいない。なぜなら、存続がかかっているからだ。


 これは……、本来は平和のための賞が、なにか変な糸につながると、取り返しのつかない事態へと発展する。つまり、平和賞に振り回されているとも解釈できる。


 ……その瞬間だった。量子アリスが、例の甘いものボタンを押した。そこだけはゆったりしている。……ほんの少しだけど、心が落ち着いたよ。

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