498, 刻印の傀儡
それから……、十賢者を交えて話をしたわ。そういえば、量子アリスは、あいつと何やら楽しそうに話していたわね。それで、あいつが反応していたくらいだから……量子の話ではなさそう。いったい何の話やら……。
「これはこれは、女神ネゲート様。大精霊フィー様。ご機嫌麗しゅうございます。」
「この塔に組み込まれたという噂は、本当なのですね。つまり、この塔の演算能力を……。」
「大精霊フィー様、さようでございます。ありがたく活用させていただいております。その代わり、量子アリス様は……なかなか手厳しいのでございます。」
量子アリス……そうよ、量子。もう、なめてはいけない存在だと痛感しているわ。
「ちょっといいかしら? ……わたしは猛省しているのよ。量子を軽く見過ぎていた。これはね、なめてはいけない存在だったのよ。」
「あ、あの……。たしかに急でした。三十年から百年は早まったのではないか、そんな噂すら立つほどですから。」
「……そうね。こんな状況で女神だなんて呼ばれる。もう、情けない気持ちで一杯よ……。」
「……いえ、致し方ないと存じます。とにかく急がねばなりません。」
「それなら……これを見てもらえるかしら?」
そこで十賢者に、SHA-256刻印の話をしたの。もちろん、彼らは驚いていたわ。でも、決定論的に浮かび上がらせられるのだから、確認してもらった。
……もう、あまり見たくはなかった。あの不気味な「ふたりの証人」が、こんなところに浮かぶなんて。情けなさと怒りが胸を掻きむしる……でも、感情では何も変えられない。落ち着け、わたし。
「さて。単刀直入に伺うわ。……ぱぱっと何とかできないのかしら?」
無茶だとわかってる。でも……そうでもしないと、気が済まないのよ。
「あ、あの……女神ネゲート様。いくら何でも、そんな簡単な話では……。」
「そこを何とかするのが十賢者でしょう? もう、迷っている時間すらないのよ!」
……頭では理解している。けれど、このまま「刻印の傀儡」になどされて……、冗談じゃないわ。
「その刻印は、例えるなら、すでに遺伝子に刻み込まれてしまっている。そんな印象を受けます。」
「……やっぱり。ほんと、たちが悪い。暗号論的ハッシュ関数に、こんなことを、わからないように刻むなんて。」
「女神ネゲート様。それが狙いなのです。わからないように刻むからこそ『預言』となる。口には甘く、腹には苦い……黙示録の通り。これを預言し、これから実行に移すと……。」
……さすがは十賢者。刻印という情報だけで、その意図を汲み取ってみせる。しかも……新しい視点。そう……、わたしが見落としていた点まで、すでにつなげてきたのよ。