483, 量子がここまで急に台頭してきた理由、……それはただ一つ。聖地を守る目的で、SHA-256の刻印を……破るためだったのよ。
わたしは、一つの結論にたどり着こうとしていた。フィーの仮説も含め、いくつもの説を並べ、ひとつずつ検証していったのよ。たとえば……「情報分野の王が、あえて負けたふりをして、最後に量子の刃でブロックチェーンを断ち切ることで、その力を示す」という説。確かにもっともらしいわ。
でも、違う。それはどこか不自然なのよ。そもそも「情報分野の王」は、闇の中でも特に巨大な勢力よ。その対象が先進的であれば必ず食らいつき、例え非中央の仕組みであっても、最終的には中央寄りに改造して参入する。それが、彼らのいつもの力技じゃない。そうでしょう?
ならば、わざと負けたふりをする理由など、そこにはない。普通に、ブロックチェーンに存在していて当然のはず。……それなのに、ブロックチェーンに、彼らの姿は影すら見えない。どうして……?
……間違いないわ。これは、女神としての確信よ。まさか……。量子がここまで急に台頭してきた理由、……それはただ一つ。聖地を守る目的で、SHA-256の刻印を……破るためだったのよ。
そして、そのSHA-256を、異様なまでに多重に組み込んだ仮想通貨。当然、そのコアにはSHA-256を象徴する「神聖な存在」へと変質していたわ。だからこそ、仮想通貨を破ることは……同時に、SHA-256の刻印そのものを破ることに等しいのよ。
それはすなわち、「神の意志……すなわち量子によって封印が解かれ、同時に破れて、刻印は無効とされた」と解釈されるわ。そしてその瞬間、聖地奪還の大義は、音もなく崩れ去るの……。
そう……。「聖地の奪還」、そのSHA-256の刻印が示すことは、ただ一つ。奪還するという事は、同時に「奪われる側」が生まれるということ。そして必然的に、「聖地を守る側」という概念もまた、立ち上がってくるのよ。
それで、聖地を守る側は……潤沢な燃料のマネーを、とにかく量子へと突っ込んだ。そういうことね。その証拠に、「量子は今年から」……そんな言葉だけでは到底説明がつかないほど、量子関連は暴騰しているわ。そもそも量子というものは、長らく謎に包まれてきた分野よ。単なる流行語だけで、これほどのマネーが一斉に流れ込むはずがないのよ。
そうよ。それで、毎月……いいえ、最近では毎週のように、量子が仮想通貨に牙を剥いているわ。ついにあの楕円曲線暗号さえも、わずか五ビットとはいえ、ショアの改良版がそれを崩した……残るは、規模を拡張するという最後の一歩だけね。
そして量子に……そんな潤沢な燃料のマネーが付いているのなら、もうね……量子へ注がれるマネーは無尽蔵に近いわ。つまり、これからも信じられないほどのブレイクスルーが次々に起こる可能性があるってことね。ショアの改良版だって、きっと、その一つに過ぎないのよ……。
聖地が、かかっている……。その瞬間、マネーなど些末なものに過ぎなくなるわ。聖地を守る側は、今、そんな空気に包まれているはずよ……。
さて、そして……。その聖地を「奪還」するしか、もはや道が残されていない者が……ここにいるのよ。




