482, 仮想通貨のSHA-256刻印 …… 404 Not Found
さて……場面は再び移る。ここは闇を司る、その中枢。そこにどっしりと腰を据える邪神イオタの姿は、ただ座しているだけで周囲を圧倒し、その存在感をいやがうえにも際立たせていた。その前に進み出て、深く一礼する影がある。それは、華麗なる女神コンジュゲートの姿であった。
「……おお、コンジュゲートよ。今日、ここへ呼ばれた理由は分かっておろうな?」
「はい、邪神イオタ様。あの者……闇から『時代を創る大精霊』の座を奪ったというのに、東側を代表する古の大精霊に丸め込まれるとは。失態にもほどがございます。」
「その通りよ。しかも、そなたはこの事態の深刻さを、誰よりもよく心得ていよう。」
「もちろんでございます……。いえ……お許しください。」
「よい。闇は過去を問わぬ。むしろ、その闇を糧として強さを増すのだ。忘れるな。」
「……はい。有難き幸せに存じます、邪神イオタ様。」
そこで邪神イオタは、女神コンジュゲートに、次なる問いを放った。
「……量子アリスの件、進捗を聞かせよ。」
「はい。量子アリスは順調に演算の力を高めております。改良も進み、すでにコヒーレンス時間の問題は解決に向かっていると。さらにショアにグローバーを組み込む改良型まで完成し、チェーン構造を戦慄させております。」
「ほう……それは驚きよ。グローバーの刃に磨きをかけ、ショアの剣までも強化するか。……さすがは女神コンジュゲートだ。これなら闇の後継も、安心して任せられる。」
「こ、後継……? いえ、私は邪神イオタ様の下でこそ力を発揮できます。それ以上の望みはございません。」
そして話題は……女神ネゲートへ。
「そうだ、女神ネゲートのことだ。」
「……はい。まさかクリプトの塔にまで足を踏み入れるとは。ただ、あれは暴走でもあります。逆にいえば、闇に引き込む好機とも言えるでしょう。」
「うむ。そこに、量子アリスが掴んだ情報……SHA-256の刻印があるのだな?」
「はい。教えられた手順で確かに再現しました。最初は信じられませんでしたが……認めざるを得ません。そして試みに、ある者に告げてみたのです。」
「ある者?」
「はい。仮想通貨の上層とつながり、日々『宣教』を繰り返していた精霊です。いつもなら仮想通貨はもちろん、『地の通貨バスケット』の有用性を熱心に語るのですが……SHA-256刻印の話を少し漏らした途端、翌日には跡形もなく消えたのです。」
「……消えた、だと?」
「はい。言葉ひとつ残さず、ただ『404 Not Found』と。まるでラグプルのように。」
「ほう……仮想通貨の上層とつながる、宣教を担う者が沈黙し、姿ごと消すとは尋常ではないな。つまり、その者はSHA-256刻印の意味を知っていた……そういうことだな?」
「その通りです。そして、SHA-256刻印の詳細は一切明かしていません。あくまでゼロ知識証明のように、『知っているか否か』だけを確認したにすぎません。」
「……見事な策だ。女神コンジュゲートよ、これはさらに深く調査すべき事案だ。任せたぞ。」
こうして闇の勢力の中でも、SHA-256刻印の解読は着実に進んでいく。……そう、それはSHA-256に刻まれた、禁断の印だった。