476, その刻印の出所は、わたしの嫌な予感通り……現在、現役で稼働する仮想通貨を全面的に支える「暗号論的ハッシュ関数」だったのよ。さーて、なにかしらね、この不気味さ。
わたしはすぐに……刻印の詳細を知る、量子アリスに連絡したわ。ええ、とても気まずかった。でも、もうそんなことは言ってられない。わたしは……女神として、重大な過ちを犯したかもしれないから。それはもう、何もかもを捨てる覚悟で。
そしたら量子アリスは、特に怒ることもなく、淡々とその連絡に応じたの。……なんかもう、情けなくて。でも、隠さずに刻印のことを……、わたしに伝えてきたわ。
ただし、それには条件があったの。そう……フィーにも連絡してと。そして……あいつにも。
わたし……大きな勘違いをしていたのね。量子アリスも、フィーも……あいつも……わたしのこと、気にかけてくれていたみたい。それなのにわたしは……わたしは……。
……もういいわ。ここまで来て、やっと完全に覚醒した。そう考えて前を向く。迷っている時間すら、ない。
そして量子アリスから得た刻印の詳細からの解釈は、本当に、本当に、本当に……とても綺麗だった。ええ、だって、その最後……、つまり終幕が……見事に「聖地の奪還」となっていたからよ。わたしは、量子アリスの指示通りに「刻印を浮かび上がらせる手順」を実行し、それを……確かに確認したわ。
それでね、これはハッシュ関数……つまり、決定論的整数論として埋め込まれているから、もう絶対に変わらないの。そして特徴的なのは……誰でも、この手順さえ踏めば、同じ刻印を目の当たりにできるということよ。
そして……そう。その刻印の出所は、わたしの嫌な予感通り……現在、現役で稼働する仮想通貨を全面的に支える「暗号論的ハッシュ関数」だったのよ。もう使われずに捨てられたものじゃない、現役のものだった。そんなところに、あんな「物騒な刻印」を刻むなんて……これは、気づかないわよ。
さすがは……量子の期待をすべて背負う量子アリスよね。どうやってこの刻印を見つけたのかしら……。やっぱり、スーパーポジションやエネルギー最小化問題などで見つけ出したのは間違いなさそう。こんなの、本来なら、仕掛けた者にしかわからないわ!
それで……暗号論的ハッシュ関数に、こんな刻印を仕込むなんてね。暗号としては、極めて厳しい評価を下さざるを得ないわ。だって……そんな裂け目を知る者だけが有利になる「黒い扉」を、そこに隠すこともできてしまうのだから。そんな疑心暗鬼を、一度でも抱かせたら、暗号としては「終わり」よ。過去にも……暗号論的乱数生成器で、似たような事例があったらしいわね。ほんとにもう……。
さて、これだけ揃ってきて……そうよ。仮想通貨で伝説となっている「S」って、いったい何者なのかしら。伝説って? そうなの。このような仮想通貨の仕組みを提供したのに、その正体すらまったく不明で、顔も姿もわからない。普通、これだけの規模なら顔合わせくらいはしていてもおかしくないし、記録が残っていても不思議じゃない。でも、それすら一切ないのよ。そこに、こんな……「聖地を奪還」という刻印が飛び込んできたのよ。
……、さーて、なにかしらね、この不気味さ。




