466, 今のブロックチェーンは「扉の鍵(PQC)だけは立派な、壁のない浴室。そのため、ありのままの……わたしをじっくり見放題」というわけなのですね。ふふ、このあたりの表現が「権威の証」なのですね。
暗号契約論という手記を、親しい暗号の精霊様に託してから数日が経ちました。そして、その返事を受け取ったのです。
その返事の内容は……はい、どうやらネゲートに、暗号の研究成果を渡していたようですね。……なるほど、それでここ最近のネゲートの言動が妙だった理由もわかりました。
もっとも、それはわたしにも責任があります。このままでは危ういとわかっていながら、結局その不安を膨らませたまま「クリプトの塔」に至ったのです。量子アリスのせいではないのです。
どこかでしっかりと対策を……そう思っていました。ところが昨日、なのです。その流れで上がってきた最新の論文には深く失望しました。書かれていたのは、ショアへの対策だけに有効なPQC(ポスト量子暗号)のみ。それ以外の脅威には一切触れず、「量子ビットに対する耐性はこれで……」とまで記されていたのです。……まさかこの内容で、ネゲートが最近騒いでいる「アルトシーズン」でもやるつもりなのでしょうか。
この件は、その暗号の精霊様も承知していて、「まあ、いつものことか」と半ば諦めの響きがこもる内容で書き記してありました。ただ、そこに……彼らしさも覗いて、少しほっとしたのです。
それはつまり、今のブロックチェーンは「扉の鍵(PQC)だけは立派な、壁のない浴室。そのため、ありのままの……わたしをじっくり見放題」というわけなのですね。ふふ、このあたりの表現が「権威の証」なのですね。
そして、壁を腐食させ壊すのがグローバーなのです。鍵とは違い、壁は範囲が広すぎるため、PQCという概念自体が厳しいのです。一か所を守れば済む話ではないからなのです。
そして、まとめ方も彼らしいものでした。
光を手にしたら、影も手に入る。「決定論」は……その両方を隠さず見せてしまう。
……、まさにこれなのです。まず、グローバーは非常に有用なアルゴリズムです。なぜなら、複雑な分子構造を探索する創薬では大活躍するからです。それが光。ところが……、解けないことを基盤としていた暗号にとっては影……すなわち猛毒だったのです。




