435, Sのラウンド17。そう……わたしはミーム。だから、わたしが「暗号論的ハッシュ関数は絶対に破れない」と言えば破れない。……わかるかしら? 「絶対」を決めるのは、女神であるわたしなのよ。
量子アリスが、何か言いたげな目でネゲートをじっと見つめている。俺も……正直、どうしたらいいのかわからなかった。確かに、量子艦の話は……やりすぎだったのかもしれない。それでもさ……ネゲートのためを思って構成した話のはずだ。
「あら、量子アリス? 質問かしら?」
「あ、あの……女神ネゲート様! どうか、お考え直しください。どうして、そんな……!」
「まだ、そんなことを言うの? ……それなら、あれも追加よ。」
「ちょっ……ちょっと、待ってください!」
追加って……。どうしたんだ、ネゲート! なぜ……どうして、そんなことに……。
「そう……わたしはミーム。だから、わたしが『暗号論的ハッシュ関数は絶対に破れない』と言えば破れない。……わかるかしら? 『絶対』を決めるのは、女神であるわたしなのよ。」
……。量子アリスは……何とか、その場に踏みとどまっているように見えた。それだけ、この衝撃は大きいのだろう。暗号論的? そんな言葉の意味すら曖昧な俺でさえ、わかってしまう。これは……本当に、やばい。じわりと、その実感が背筋を這い上がってくる……。
「……。そ、そんな……。暗号論的ハッシュ関数は『絶対に破れない』って……。女神様、その立場で……そんなことを言うのですか?」
「そうよ。……何か、悪いかしら?」
「ど、どうして……。」
「なによ? そのあたりは、わたしは女神なのよ。決めるのは、わたし。違う?」
「違います! それだけは……それだけは許されません!」
ああ……なぜ、ここまで食い違ってしまったのか。その理由は、もうわからない。だけれど……わかることがひとつだけある。それは……、大きな出来事が、深い闇の中で口を開き、こちらを待っている。それだけは、間違いなかった。