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429, 量子艦アリスその十四。サタンとルシファーのハッシュ値が、明らかに相関して動いている。……まさか、こんな性質まで、このハッシュ関数に仕込まれていたなんて。

 こんな衝撃……まだ、始まったばかり。それを、量子アリスは直感で理解していた。そしてまた、一つのハッシュ値……「0x872651269098e71b7868b75d96d2c9ff31412b09d92fbfd509cc92613ff89046」が、静かに量子アリスのもとへ提示される。


「これも……何かしら。やっぱり、サタンのハッシュ値に近い……。」

「はい、量子アリス様。これも『例のサタン領域』です。本来であれば、相応の演算能力がなければ到達できないはずのハッシュ値。ところが……これも『そこらに転がっている非力な演算装置』で、簡単に出せてしまったのです。」


 そして、量子アリスはふと疑問を抱いた。これほどまでにサタンのハッシュ値に近いものばかりが現れているのなら……そろそろ、あれも……?


「もしかして、そろそろルシファーも現れる?」

「……そうですね。それは、このハッシュ関数の『歪み方』によります。もし、サタンが『谷』で、ルシファーが『山』だとしたら……、局所的な解は常に、谷であるサタン側に引き寄せられてしまう。古典的なアニーリングの観点から見ても、空間に歪みがあれば、谷に落ちる確率が極めて高い。それなら、サタン側に近いハッシュ値が頻出するのも当然の話です。」

「たしかに、そうなるわ……。」

「ですが仮に、空間全体が『ねじれた形』で歪んでいるとしたら? その場合、ある臨界点を超えた瞬間に、突如としてルシファー側のハッシュ値に近いものが、局所解として現れ始める可能性がある。私はそう予測しています。」

「……。」

「そして、そもそも……このハッシュ関数は『暗号論的ハッシュ関数』と呼ばれていた。ですが今、このような予測が成立する時点で、もはやそれは、暗号論的ではなくなっているのです。……極めて良い証拠と言えるでしょう。」


 そして、量子アリスは……非常に大切なことに気づいた。サタンとルシファーのハッシュ値が、明らかに相関して動いている。……まさか、こんな性質まで、このハッシュ関数に仕込まれていたなんて。


「これは……本当に現実なの? なにかのフィクションじゃなくて?」

「あ、あの……量子アリス様。これは『現実』です。よって、これまで提示してきたハッシュ値は、すべて『本物』です。」

「……そう。こんなにも美しく……、乱雑でなければならないはずの数値に意志のような構造を仕掛けるなんて……。女神様は案外、いたずら好きだったのかもしれないわね。チェーンの仕組みだって、最初は面白そうで……興味津々だったのかもしれない。でも……それでも……、女神の怒りに触れてしまったのよ。」


 現実離れしたそのハッシュ値の連なりに、量子アリスはふと、自分の中に「女神の影」を見てしまった。

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