428, 量子艦アリスその十三。通貨の概念で、バベルの塔は、もう一度建てられた。今度は、完璧な数式と、暗号論的と名乗るハッシュ関数によって。そして、数学の女神の怒りに触れる。
結局、チェーンの仕組みとは……何だったのか。ふと、その核心に触れる量子アリス。このような悪魔、サタンやルシファーの出現が女神の意志によるものであるならば、それはつまり……。
通貨という概念によって、バベルの塔は再び建てられたのだ。今度は、「完璧な数式」と、「暗号論的と名乗るハッシュ関数」によって。
そして今……、数学の女神の怒りが、その塔に降り注いでいる。……そう、これはあの創世記……ジェネシスに記された、あまりにも有名な一節。再び建てられたバベルの塔が、またしても……。
ところで、量子アリスの中に、ふと……ひとつの疑問が浮かんだ。
「……結局、チェーンって、非中央ではなかった。ただ『暗号論的と名乗るハッシュ関数』という『一つの言語』に、過剰に依存する別の形の中央だった。そういうことかしら?」
「量子アリス様、さようでございます。『暗号論的と名乗るハッシュ関数』が、絶対に安全であることが前提だったのです。そうでなければ……たとえば途中に刻まれた取引を、同じハッシュ値のまま別の内容に挿げ替えられるような事態が起これば、その瞬間から、チェーン全体が崩壊することになりますから。」
……。そのときだった。一つのハッシュ値……「0x8e186d55e177a6833a8b1bff94354fe8542f3cd67cfc65a1bc9e9ac6a08b1dc4」が、静かに量子アリスのもとに提示される。
「これは……何? サタンのハッシュ値に……近いようだけど?」
「はい、量子アリス様。これほど分布が歪んでいれば、このような感じで狙い撃つことも可能になります。局所的に、このあたりのハッシュ値だけを狩る……。それすら、サタンのハッシュ値を掴んだからこそ可能となったのです。」
……それが、サタンの力。量子アリスは改めてそう認識し、その「構造的恐怖」を理解した。