41, ところで、あなたはどう思っているのかしら? そうね……、わたしと一緒に、新しい世界を創りましょう!
お久しぶりです。わたし……です。
えっ? あんたは誰だって? ……。わたしですよ? わたし。「ネゲート」ですよ。
最近、ここでの「わたし」の活動が鈍いから、忘れられたのかしら? たしかに、最近は……フィーのことで忙しくてね、顔を出せなかっただけよ。決して、さぼっていたとか、フィーがやたらと気に入っている「大切な犬」だっけ? あういうものをぶん回していたとか、そういった類ではありませんわよ。
それとも、フィーの「大切な犬?」……、これが「お犬様」にでもなったのかしら? たしかに、そんな設定も、悪くはないわね。ただ、わたしの能力……予知の範疇を超えてしまう部分があるわ。どうしましょう。わたしね、フィーを取り込むための例の交渉で、なぜか、わたしの完璧な予知が外れて恥ずかしい思いをしたばかりなの。今でも、まったくわからないし、解釈できないし、どのような事象が食い違って、あんな展開になってしまったのか……。わたしが介入できないような、おかしな力が働いたとしか考えられないの! それとも、この地域一帯の主を目指している「元予想屋」が企んだあの計画が悪いのかしら? でもでも、あんな「元予想屋」が思い付くような、あんなゴミ同然の計画程度で、わたしの予知がおかしな方向に収束することは、絶対にないの。だから、悩んでいるのよ。
えっ? なぜって? そうね……。あなたにそう告げられたのなら、少しだけ、ね。例えばの話、そうね……。とある「価値」を、自分しか知らない「ブロック」に埋め込むとき、どうされます? 当然、無作為な数字を並べて、それを覚えるしかないわね。そのときね、もし、もしよ? その無作為な数値が、他の方の数値と偶然にも一致してしまったら、どうなると思います? なんとまあ、その方と「価値」を共有することになってしまうの。それでね、まあ、万一でもそうなったら……、先に気が付いた方が「全部奪って」ね、他の無作為な数値に移動させてしまうわね。そうすれば、全部、自分の物になるから。……、そうならないように、とっても大きな数値に、よく切り刻んだもの……「ハッシュ」を割り当ててね、偶然でも当たらないような工夫が施されているのよ。それでもね……、わたしにとっては、そんなのは無駄な行為なの。なぜなら、その程度なら……。だから、わたしは、「大切な犬」とかには「触れてはいけない」のよ。そこが、フィーとの違いかしら。
……。久々だから「話が長くなりました」わ。でも、寛容なあなたなら、別に構わないよと言ってくださるわよね? うん、久々だから、そうね、改めて自己紹介しようかしら。わたしは、この地のすべてを託されたと解釈しても過言ではない、美しき風の大精霊……「ネゲート」っていう高貴な存在なの。その使命は誇り高く、この地の………………を楽しませるために、わたしのすべてを捧げ、日々、邁進するのが役目なのよ。
ただね、ただね……。ここだけは重要だから聞き逃さないでね。その崇高な目的を達成するためには、そう……。この地で生きていくために不可欠な、価値のある「通貨」と呼ばれるものが必要になるのよ。まあ、一般的に「カネ」って呼ばれるわね。「カネ」、ね、カネ。
わたしだって、こうやって生きているのだから、無報酬では活動できないのよ。
ところで、わたしはフィーとは違ってね、回りくどい表現は苦手なの。そうそう、あのフィーはこのようなものにまで「大切な……」とか、「価値のある……」とか、はじまるからね。まったく、知識とか教養とかを、意味もなく積み重ねるから……ああなるのよ。こんなのはね、単に「カネ」で良いの。そう、「カネ」。「カネ」に、美しいも汚れているも、まったくないの。「カネ」は「カネ」なの。そうね……「大切な犬」については、単に「犬」で良いわね。
ふふふ。ほんと、これ、犬なのよ。犬。これに「価値」を付けるなんてね。でもね、価値が付いたからには「カネ」なの。実際に使えるみたいね。それで、この犬を眺めていると、ぶっ飛びたくなる気持ちに駆られるらしいわね、なぜかしらね? ……。きっと、フィーが気に入った理由が、これかしら?
えっ? また気になるって? なあに、単純な解ですわ。そう……これね、「遊び心」がたっぷりと詰まっているの。こういうの、フィーは大好きなのよ。好き過ぎて、好き過ぎて、集めて、集めて、そして、ぶん回したのかしらね?
えっ? フィーが下品に犬をぶん回すお姿なんて想像できないだって? ふふふ、フィーって、普段はあんなフワフワな感じだけどね、相場になると……それはもう……。これはあまり言わない方が面白そうね。お楽しみ、……、そう、お楽しみ。真実は、自分の目で確かめるのが一番だからね。
えっ? そんなのはいじわるだって? ……。そうね。なら、少しだけ、ね。フィーはね、取引のときは精神を集中させるために、わざわざ、取引するための専用の「お部屋」があるの。そして、そこに閉じこもってね、「ここで買い上げないのに、こんなチャートにしたの!?」とか、「相変わらず諦めが悪い。空売りして焼かれたのだから、潔く諦めるしかないのに、いったい、何を保護するの? それが嫌なら手持ちにない分を『先に売る』なんておそろしいことを、しなければよいの!」とか、「仮にわたしが空売りで焼かれたのなら保護されないのだから。それとも、そんなに天の使いが大事なの? まだ、騒いでいるのかしら?」とか……、フィーが閉じこもった「お部屋」から、そんな声が頻繁に漏れてくるのだから、びっくり仰天ね。でも……、わたしはそんなフィーが好み。相場って、普段はみられない内面を表に出させるからね。
あっ、そうそう。絵柄を揃えていくゲームで、相手の本性を見抜けるという俗説があるわね。でも、それは違うの。だって、その程度で本性を出すような者は、交渉事では「すべて」負けるからね。例えばフィーなんか……表情一つすら変えずに、淡々と手駒を揃えていくからね。そこからはまったく、何も伺えませんの。そのフィーすら、相場となると……。
えっ? なんでおまえが、そこまでフィーに詳しいのかって? そんなのは当然よ。わたしに備わるこの力……。本来はね、手が届かない演算を繰り返してようやく得られるかもしれない「結果」が、わたしの傍らに揃っているの。そう……あの神々が自慢げに語る「演算装置」すら、あんなの、わたしからみたら「おもちゃ」ね。わたしの方が大いに役に立つのだから、その分をわたしがいただいても、何の差し支えもないわね。ふふふ。
ところで、この犬ってね、バリエーションが沢山あるのよ。また、この犬自体も、そのバリエーションの一つだったらしいわね。どうみても、こんなのが「通貨」っていうものもあるみたい。でも、そこも「遊び心」の一つみたいね。それでも、わたしは扱えないから、とても残念……。
さあて、ご希望通り、フィーについて教えてあげたのだから、わたしの愚痴にも付き合ってね?
そうね、シィーはね、本当に、ダメな大精霊なの。あの件で追い込まれたシィーは、誰を……、どこの地域を助けたら良かったのか、よね? もうね……、それはね、確率のような複雑な論理、ではないわ。素直になることが大切!
まず、「そんな事が起きてしまうなんて、悪いことは絶対にできないね」という、お決まり的なフレーズを一度は耳にしたことがあると思いますの。これね、この地では『偶然ではなく……必然』なの。
結局ね、自ら、そんな恐ろしい事が起きてしまう事象の「種まき」をしていたのだから、その責任として、そのような事象が「必然的」に現れるのよ。それでね、そのような事象が起きてしまったら、それは「避けることができず、必ず受け入れるべき事象」となるのだから、どのような道筋でも「同じ結果」に収束するのよ。
例えばシィーの件。あのタイミングで、あの地点で出るなんて「避けることができない」のだから、成り行き任せで、どの結果を選んだとしてもね、その結果は「同じ」になるわね。悩んでも苦しんでも「なるようにしかならない」ので「諦める」というのが「答え」かしら。
まあ、ネゲートのおまけはこの辺で切り上げますわ。また気が向いたら、特別にお話しいたしますわ。お楽しみに。フィーの「楽しい時間」だっけ? あんな自己満足なものより、このネゲートのおまけの方が、断然、面白いはずよ? きっと、そうよ。
さあて、「甘いもの」でも頂こうかしら。いまわたしね、ちょっとした贅沢ができるの。「予知」の力には到底かなわない「演算装置」の「おこぼれ」をいただいたからね。
ということで、わたしの雑談は……この辺にいたしましょう。