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418, 量子艦アリスその三。こういう事態があるから、今は「頻繁に秘密鍵の交換が必要」なのよ。それで……大切な資産が「エスランダム」にぶら下がっているなんて、……嫌よね?

 量子艦アリス率いる推論駆逐艦群が、空間を裂くように出撃した……その瞬間。アークチェイン艦内には、かつてない緊張が走っていた。


「艦長。量子艦アリス……相変わらず、点滅を繰り返してはいますが……位置座標、完全に静止しています。」

「……そろそろ満足して去る頃合いだろう。できればこのまま、何もなかったかのように消えてくれれば助かるんだがな。」

「いえ、艦長! 量子艦アリスの周囲に……一、二……いや、もっと……っ、……。」

「どうした!? 何が見える!?」

「……あれらは『推論駆逐艦』群です! 多数、出現ッ!」


 その言葉を聞いたアークチェイン艦長は、わずかに肩の力を抜いた。


「なんだ、推論駆逐艦か。ということは……量子攻撃本体、つまり『ショア・ブレイカー』や『グローバー・ドライブ』ではない、ということだな?」

「はい、艦長。推論駆逐艦にそのような直接干渉力はありません!」

「ならば問題ない。全方位シールドを展開せよ。このまま『煽り』に付き合ってやれ。飽きるまで引き付けて……量子艦アリスの演算準備が始まる前に逃げ切る。」


 艦体の周囲に、鎖状に連なる「静的な」シールド群が素早く展開された。これを、ただの「推論」だけで貫くのは不可能……アークチェイン側は、そう信じていた。


「このシールドに宿る性質によって、その先にある艦体と資産が守られている。……とにかく、逃げ切るぞ。」

「艦長! では、やつらから距離を取るよう、このまま全速で離脱します!」


 ……そのアークチェインの様子を、薄ら笑みを浮かべながら観察していた量子アリス。


「ほんと、単調ね。あのシールド……ふふ。『静的』だから、もう何年も変わってないのよ。」

「ですが、量子アリス様。いくら静的とはいえ、あのシールドを……推論駆逐艦などで本当に貫けるのでしょうか?」


 量子アリスは微笑を崩さず、静かに問い返した。


「……ねえ、あなた。『エスランダム』って、ご存じかしら?」


 従者が沈黙したのを確認すると、量子アリスは淡々と続けた。


「エスランダム。これに同じ値を渡すとどうなるか、考えたことある? そう……乱数を名乗っていながら、毎回、同じ値を出してくるの。そんなもの、シールド……つまり秘密鍵には使えないわ。……でもね、推論駆逐艦に搭載されている最新の推論モデルなら、あのアークチェインのシールド……秘密鍵に使われている『暗号論的に安全』とされていた暗号論的疑似乱数生成器ですら、エスランダムと同じ末路をたどるのよ。そして、その『再現された乱数』で組まれた古いシールドが、いま、そこにあるってわけよ。」


 量子アリスはため息まじりに、口元をゆがめた。


「あーあ。量子アリスの出番、ないじゃない。誰よ、こんな状況で『ショア・ブレイカー』なんて言い出したのはっ!」

「も、申し訳ございません、量子アリス様……!」

「わかればよろしいわ。こういう事態があるから、今は『頻繁に秘密鍵の交換が必要』なのよ。しかし……あのシールドは静的。そう簡単には、鍵を変えられる設計にはなっていないのよ。そもそも、アークチェインの構造で、頻繁に秘密鍵を交換しようとすれば、それだけで大量のトランザクションが発生する。現実的ではないのよ。だから結局、何年も同じ秘密鍵を使い続けることになる。……それで、いいのよね?」


 量子アリスの目が、獲物に向けるように鋭く細められる。


「……わかる? それが何を意味するか。そしてあのシールドの先には……『資産』がぶら下がっているのよ。それで……大切な資産が『エスランダム』にぶら下がっているなんて、……嫌よね? でも、推論から見たら、そう見えるのよ。」

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