414, Sのラウンド13。あれほどまでに、言葉を交わしていたネゲートとフィーさんが……今は、まるで互いを「存在しないかのように」扱っている。その沈黙の奥に、隠されたものとは……?
そういえば、ネゲートの様子が少し変なんだ。覚醒したとはいえ、これまではどこか抜けてるというか、「ちょっとそれ女神っぽくないよな」って行動もやっぱり多くてさ。でもまあ、それもネゲートの個性ってことで、逆に安心してたんだ。ところが今回は違う。なんというか……妙に不機嫌なんだよ。
しかも、いつもなら気さくに話してたフィーさんの姿を一目見ただけでさ、わざとらしく、ふいっとその場を離れてしまう。あれは、ちょっと気になる態度だったよ。
何かあったのか? ああ、そうか。甘いものでも取り合って、ケンカでもしたのかね。ははは。
「女神ネゲート様と大精霊フィー様……何かのすれ違いでしょうか? それは、量子アリスも気になっています。」
どうやら違和感を覚えたのは、俺だけではなかったらしい。それだけ、あの場面は「異様」だってことだな。
「俺も、大したことではないと願っているさ。……ほら、甘いもののことで揉めたとか、そういうので。」
「なるほど、そうですか! おそらく、女神ネゲート様の『奇跡』とやらで、本来なら出現しない観測結果が生じてしまい……。」
どうやら……、唐突に量子アリスのスイッチが入ったようだ。
「そこには、見たことも聞いたこともない甘いものが現れたんです。そう、それは、本当は何度も干渉作業を行い、出現確率を大幅に高めておく必要があったのに……たったの数回で引き当てるなんて。ずるいです! 女神ネゲート様って、ずるすぎです! ……そういう感じです。」
「……、んな訳あるか。」
でもさ……。あれほどまでに、言葉を交わしていたネゲートとフィーさんが……今は、まるで互いを「存在しないかのように」扱っている。その沈黙の奥に、隠されたものとは……?
「もう……ケンカしてる場合ではないのに。今度は推論が、ずば抜けた性能になって飛び出したのですよ。」
「はい……? 今度のお相手は量子ではなくて、推論なんだ?」
「そうです。推論だって、ちゃんと追いかけてきます。しかも今回は『非生体の認証』を軽々と突破してしまうという、かなり衝撃的な話です。」
「……えっ、それって? やばいよな?」
……。認証を突破って……、冗談抜きで量子よりもやばくないか、それ。
「はい、やばいですよ。認証時に求められる『合い言葉』や『秘密の質問』などを、推論がその大いなる力で簡単に割り出してしまうんです。そして、勝手にその認証に成功してしまう……という恐ろしい事例です。」
「いやいやいや、それはアウトでしょ!! 完全に突破されてるじゃん!」
……なんだよ。結局、またなんか、想像を超えた概念が暴れ始めたのかよ……。すげぇな、この地は。でもこれって……、剣と魔法の代わりが、推論と量子になっているよな? はは……。
つまり、記憶に頼る非生体の認証は、もう『人や精霊よりも推論の方が得意』になってしまったってことか。……おいおい、本気かよ。つまり『人や精霊の記憶』はもう、推論の得意分野ってことか……。笑えないな。




