413, Sのラウンド12。ああほんと……「バイアス」って、やだね。結局、市場に潜むバイアスってやつは、全部「カネの強奪」のためにある。それ以外に目的なんて、あるわけないだろ?
「甘いものは、観測されてからいただくと、美味しいんです。」
「……ああ、そうなんだ。そこは『観測して』ではなくて、『観測される』なんだ?」
「ああっ、それ! 最近、いよいよ量子の魅力に惹かれ始めましたね。そういうところにこだわり始めるなんて。素敵です。」
「いや、違う。そういう意味ではなくてね……。」
すっかり俺になついてしまった「量子アリス」という名の精霊。だけれど、その言動は、俺にとっては理解しがたいことばかりだ。それでも、できる限り理解しようと努力はしているつもりだ……少なくとも、今は。
おそらく、量子アリスが言う「観測される」という言葉には、明確な意図がある。「外側」から確定されること……つまり、自分の状態が誰かに見られ、初めて「存在」として確定する。それを彼女は「美味しさ」と重ねているのだろう。
……量子とは、そんな存在なのだろうか。……いや、らしくないな。こんなふうに考え込むなんて、俺らしくもない。まあ……これでも少しは、量子というものを、かじったつもりなんだ。
量子って、観測すると確定する……ってことなのか? ……それって、かつての俺のトレードと似てるな。
全力で突っ込むまでは、いい。でも、結果が出ると、もうね、心が折れる展開ばかりだった。ああ、あれか。反対売買が「観測」みたいなもんなんだろ? だったら、損切りが八割から九割に傾くのも納得だ。ほんと、偏った確率だったぜ。まさしく「バイアス」ってやつだな。
でも、量子的には、本来は等しい確率なんだよな? ……それでか。俺が「観測した」んじゃない。「観測された」んだ。そりゃ、負けるわけだよ。「勝つ」より「折れる」ほうに、弱小は傾いてたんだから。なあ、ちょっとは俺も、勝たせてくれよ。ほんと、この「負け癖」に染みついた受け身こそが……観測された状態ってことなんだよな?
……なあ、俺もちょっとは、できるよな? ははは。
俺がこの地に呼ばれてから、もうずいぶんと経つ。もう戻ることはできないし、それこそ、そんな俺が心配しても意味はないのだが……。さすがに……少しくらいは、弱小でも利益を出せる環境になっていてほしいもんだ。……こんな願いくらい、別にいいよな?
変な機関が「予定調和」とやらで荒らしまくる炭酸相場とか、もうごめんだ。……ああいうの、ほんとよろしくないよな。
一応、なんだ。並べられた量子を、順にくるっと回して……スーパーポジション。それが最後、どのように観測されるのか……それは、わからない。どれになるかは、等しい確率のはずだ。つまり、これが本来の……相場の姿、のはず。
だってさ、何も考えずに反対売買したら、おそらく勝ちと負けは半々になるはずだろ? ところが、実態は「バイアス」だらけなんだ。表向きは「バイアスなんてありませんよ」って顔しておいて、実際には、俺のような弱小から、しっかりと生き血を吸う構造になっている。
……ああ、そのへんを歩いてる投資家だって、きっと同じことを感じてるはずだよ。「バイアスの炭酸」で、カネを奪われるなんて……そんなの「強奪」された感覚だろ? これについては、反論はダメだぜ。間違いなく、みんなそう感じてる。……まあ、反論なんて出ないだろうけどな。
どうせ、今でも同じような構造なんだろ? それで……これもネゲートが好んでよく使う表現なんだけど、この状態もやっぱり「構造」って呼んでいいのかな?
ああほんと……「バイアス」って、やだね。結局、市場に潜むバイアスってやつは、全部「カネの強奪」のためにある。それ以外に目的なんて、あるわけないだろ? ああ、言い切れるよ。異論は許さないぜ。
……なんか今日の俺、ほんと、らしくないな。科学的でもあり、哲学的でもあるってか。