409, Sのラウンド8……。そしていよいよ、秘密鍵ラグ構造に関する論文のタイトルは……「ラグボーイズ3.0」かしら? ……もうあれは、隠す気なんて、さらさらないわよ。
記憶に新しい、「一定の期日を過ぎた楕円曲線の公開鍵を無効化する」という提案。表向きの理由は、もちろん「量子への備え」だとされているわ。でも……その裏側にある本当の目的。わたしには、あの「秘密鍵ラグ構造」を一掃するための布石に見えてしかたがないの。
なぜって? それは、楕円曲線の公開鍵が、すべて消え去ることになるからよ。だって問題の本質は……そこにあるビット幅。それに尽きるからよ。
もちろん、それで秘密鍵のラグ構造が一掃できるのなら、それはそれで構わないわ。おそらく、そういった発想に基づいての提案だったのかもしれないし、やや強引ではあっても、理にかなっている一面があることは確かだわ。
でも……。なぜ、そのような提案に至ったのか。その理由について、ちゃんと説明する責任はあるはずよね? もちろん、それはわたし自身にも……。このまま何も言わずに「密かに修正」なんてしていたら、必ず突かれるわ。量子の精霊の中には、こういう要素をじっと観察していて、ほくそ笑んでいる存在もいるはずよ。そして、その精霊の気分次第で……この内容が、口うるさい妖精の耳にでも入ってみなさい。
スキャンダラスな暴露にすり替えられて、手遅れになる。そんなの特に、政が絡むような事案では日常茶飯事じゃない。決まって、こういうのは「匿名の通報」で気づかされるのよ。……なによ、「匿名」って。ほんと、どこにでもある、ありがちな展開だわ。
ええ、確かに感じるのよ……わたしに託された暗号の研究成果と照らし合わせるたびに、そんな未来が、もうすぐそこまで迫ってきているっていう……この、ひしひしと伝わる感触。
こんな内容で、具体的な精霊の名前を挙げるのは……さすがにためらわれるけど、あの「量子アニーリングの精霊」に関しては、もう……「ラグ構造を間違いなく掴んでいる」と断言できるわ。採掘の量子脆弱性の他、この「秘密鍵ラグ構造」だって、絶対に絶対に知っている。あの採掘に関する論文だって、構成からして独特だったわ。静かに始まりながらも、イントロの時点で、すでに喧嘩を売ってるようなトーンなの。読めばきっと、誰もが気づくはずよ。
量子によって、もはや古典に出る幕はない。そして、古典が湯水のように垂れ流していた膨大な燃料も大幅に節約できて、楽しく採掘できる……そんな明るい未来をこの論文で実現します、みたいな書き方だったかしら。ほんともう……何度思い返しても、「なによこれ」になるわ。
量子なんかに採掘されたらね、その日でチェーンは「ゲームオーバー」なのよ! それを、こんな軽いノリで書くなんて……。しかも、わかっていてやってるのよね、これ。誰でも読めるようにって理由でもあったのでしょうけど、わざわざ注釈で「三角の加法定理」まで載せてたのよ。あのね……これ、「量子の論文」なのよ……? もう、ここまで来ると完全に皮肉でしょうね。
それで、最大抽出可能価値のフロントランニング問題に関する追及でとても有名な精霊でもあるので……「今はまだ言うべきタイミングではない」と判断している……そんな空気すら感じ取れるわ。
そしていよいよ、秘密鍵ラグ構造に関する論文のタイトルは……「ラグボーイズ3.0」かしら? ……もうあれは、隠す気なんて、さらさらないわよ。たしかに、わたしは女神。でも、もうそんな立場すら意味をなさない。これだけ露骨なら、もはや推論ですらない。ただの開示よ。
でも……その精霊だって、そこまで容赦のない存在ではないはず。しっかりと向き合い、誠実に対処すれば、きっと静観してくれる。もちろん、最大抽出可能価値に関するあの論文は、あきらかに「やり過ぎた」ことへの牽制よ。そう思わない?




