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40, まいりました! うう……フィーさんが口をきいてくれません……。そこで、犬ですね、犬!

 俺は今、最大の苦難に見舞われています。


 あの部屋でうっかり寝てしまった旅行の夜の日が原因で……、フィーさんが俺を避けるようになりまして、まったく口をきいてくれません。


 当たり前ですが、言い訳はしません。どう考えたって、自業自得です。どうしようもない、クズな俺が全身から溢れ出てしまいました。間違いなく、俺が寝ていたわずかな横の隙間に「ぬくもり」がありましたから……あの「ぬくもり」は、きっと、シィーさんの体温だったので……。


 たしか……、創造神だよね? そうそう、この神に対して、シィーさんは良い印象を持っていないようですが、フィーさんは間違いなく「信仰」しています。だからこそ、その創造神に誓います。俺は……ただ寝てしまっただけで、絶対に何もしていませんと……。それだけは、信じてください。それにしても、寝てはいけないとわかりきっている所で、何で……寝てしまうのだろうか? 不思議ですよね……。


 このような状況下の中、それはそれは……、旅行からの帰りはきつかったですよ! シィーさんは朝になっても酔いがさめず、帰りの日はつらそうに頭を抱えたままでした。そして、その夜のことは記憶にないらしいです……。それで結局は、「甘いもの」で大幅に力が回復したフィーさんに頼る形となります。当然ながら、近くにみなが集まるので、自然とフィーさんに俺の視線が向かいます。しかしその途端、俺から目をそらします。


 ここに帰ってからも、それを幾度もなく繰り返され、さすがの俺でも精神的にきつくなってきまして、フィーさんが近くに来るたびに下を向くようになってしまいました。


 もちろん、フィーさんの「楽しい時間」は、その瞬間から一度もありません。これって、表面的には「つらい」とか言いながら、俺も楽しんでいたようですね。フィーさんの「楽しい時間」が失われてから、なんだか心にぽっかりと穴が開いた感じが拭えません。正直、さみしいです!


 さて……。フィーさんから「大切な犬」を託され、この「犬」の扱い方などをすべて習得したわけではありません。習得しようとすると、なぜか「ミィー」「あの神々」「都の支配者」「筋肉」「『主』を目指す不気味な存在」などに邪魔をされ、話がまったく進みません。しかし、そんな俺でも覚えている大切なことがありますよ。それは、筋肉が口を滑らせて教えてくれた……「犬」が自由に取引できるという事実です。フィーさんからは伺っていませんので、隠しているのでしょうね。たしかにね、自由に取引できなければ、そんなものに価値はありません。例えば、クローズドな環境下で付けられた値を信用してはならない、これと一緒です。そうですね……、地べたの値なんかは、まさにこれですよね。値が付いていても、その値で欲しがる買い手が存在しないと、何の意味も成しません。それでも、値を付けておかないとね……とっても大切な「評価額」が出ないからね。ところで……、この「犬」には沢山の買い手が存在するという事を暗に示していますね。なぜなら、あの「ミィー」が欲しがっていたからです。あいつはすぐに欲望が顔に出るからね……、そこは可愛らしいです。ただ、そういう取引……ディーラーなんかにはまったく向いていませんね。


 うん、今すぐにでもフィーさんと和解したいです! まあ、誤解なんだけど……。もちろん、そんな言い訳は通用しません。とりあえず……、シィーさんに相談しました。


「シィーさん……。ある相談がありまして……。」

「その表情……、フィーの件よね? ごめんなさい……。」

「えっ……。謝るのは俺の方ですよ? あの場所で寝てしまうとか、ほんと、バカでした。」

「……。ここの気候って急に寒くなるのよ。それで……かな。つい……、私は……。」

「あっ……。」


 あの「ぬくもり」、シィーさんだったという事が「確定」いたしました。そして……。


「ちょっと休もうと思ってね……。そしたら妙に暖かくなってしまって、外に出づらくなったによ。そんなとき、音もなくフィーが……。」

「……。そういう悪い事象……というものが起きてしまう可能性って、案外、高めだよね?」

「事象?」

「あっ、はい。俺ような者の口から出るようなフレーズではないですよね……。それでも、フィーさんの『楽しい時間』の影響からかな、俺の頭の奥深くまで刷り込まれ、それは俺にとって日常的な言葉となりました。」

「案外、成果が出ているのね? フィーの、あの時間は貴重なものなのよ?」

「はい……。この状態ですから、旅行より帰ってから一度も『楽しい時間』はありません。失ってから、初めて気が付く……、そんな感じです。」

「そうね……。わかったわ。あれしかないわね。」

「あれ……、ですか?」


 なんだろう。でも今の俺は違います。どんな事でも受け入れる覚悟です。


「実はね、フィーの誕生日が近いの。」

「フィーさんの誕生日か……。」

「そこでまず注意ね。フィーに、この誕生日の『日付』については突っ込んではダメよ。日から月を引くと不吉な値になるから、あまり好きでないらしいの……。ごねると大変だからね?」


 フィーさん……。日付なんかでもごねるのか……。十分に気をつけます。


「フィーさんの誕生日か……。なにかプレゼントすれば、あっ! 『甘いもの』か!」

「ううん。それではダメ。ああなってしまうとね、もう『甘いもの』では振り向かないわよ?」

「そ、そうですか……。」

「そこでね、最適な提案があるの。ただ、覚悟はよろしいかしら?」

「……。」


 なんだろう……。ドキドキします。


「この地域一帯には、この地最大と謳われる『書物の街』があるのよ。」

「えっ?」


 書物の街? なにそれ? 街の至るところに書物が積み上げられているとか? ……。


「その街で、フィーを楽しませてきなさい。そう……フィーのお誕生日に、素敵なひととき、ね。これしか、ないわ。」


 た、楽しませるって? 相当にやばいよね……? 直感でわかります。ああ……はい。


「……。それは、何をすれば……?」

「街中に積み上げられた莫大な『知識』……書物に囲まれて、フィーの話し相手になるのよ。」

「……。それは、俺……、生きて帰ってこれますか?」


 今の「生きて帰ってこれますか」は……、俺の本能が話しかけました。なんてことでしょうか。


「そうね……、数日は魂が抜けたようになるかもしれないけれど、命に別状はないわ。」

「……。わかりました。引き受けます。」

「……。迷いはなし。すごいわね。たったの二言で承諾だなんて……。」


 そもそも、俺に選択肢はありません。覚悟ってさ、そういう事ですからね。あとから物事を変更して何事もなかったことにするのは「覚悟」とは呼べません。それでは、ただの「お遊び」です。


「それでね、私も行くわ。」

「えっ?」

「私も悪いからね。当然よ。」

「……。いえ、これは俺だけで引き受けます。」

「それで、いいのかしら?」


 さて、なんだろう。これだけには……、シィーさんがついてきてはならないという、強烈な直感が全身を駆け巡りました。それにしても、うん、なんだろう。このフワフワとした行き場のない、寒気がする感覚は……。


「俺、頑張ってきます! 持てる力を最大限まで出しきって、必ず、フィーさんを満足させます。」

「フィーを満足させるの? それは凄い事なのよ? 私すら一度もできていないのに……、まあ、頑張ってきてね。」


 ……。それなら、ほどほどの満足でお許しください! そうです……、妥協というものです。でも、はじめから妥協する者に祝福はない、だったような……。そうなると、返す言葉は一つのみです。


「俺、『全力』でフィーさんをサポートしてきます!」


 そうです。この俺は……、全力以外、選択肢はありません。迷ったら「全力」です。その結果、負けても悔いなしです! 「トレード」も「サポート」も全力が基本ですから!


「うん。了解ですわ。それなら、大切なフィーを預けるのにふさわしいわ。さすがね?」

「そ……、そうなんですか……。」

「そうよ。なぜなら、もし『ある程度の妥協は必要』と言い出したらね、この件は無かったことにするつもりだったの。そんな程度の者に私の可愛いフィーは預けられないからね。」

「……。はい!」


 俺は試されていたのか……。さりげなくやるとはね……、さすがは「市場の精霊」に抜擢される実力はありますね。あっ、でも、まだこの件をシィーさんには話していません。今回の件を乗り切ったら、すぐに話します。


「最近はね、口先だけの者が多くて困っているの。でも、あなたは違うわ。例えば、あの日……『天の使い』にフィーが絡まれたとき……、あの場にあなたがいなかったら、フィーは……。」

「……。そ、それは……。」


 あの時か……。ミィーを「天の使い」から逃がすために、よくない力の使い方で自分自身を……。それは、あり得るね。俺、止めましたからね。おや? こんな俺でも役に立っていますね。これについては純粋に嬉しいです。だからこそ、この失敗をリカバーしたいです!


「では、その誕生日の件、私からフィーに伝えておくね。」

「はい。よろしくお願いいたします。」


 それにしても次から次へとよく出てきますね。「書物の街」なんて。またまた、とんでもないものがご登場です。とにかく、その日に備えてしっかりと精神を休息いたします。なぜなら、旅行当日のような忙しい一日になるのが明白だからです。その日のフィーさんは、目当ての書物を求めて移動ばかりだろう。止まっている「楽しい時間」の挽回の意味をこめ、さらに深く入り込んだ未踏の地まで丹念に歩き回り、疲れ切ったところで最も難解な「知識」が来そうで、それをかわしながら要領よくフィーさんの話のペースに乗る必要がありますね。まあ、なんとかなります。


 待てよ……? ちょっとしたいい案を思い付いた。フィーさんの誕生日だったよね? うん、これだ……。黙っていても次から次へと出てくるのですから、今度は俺から……その「次へ」を出してやります。たまには、俺からです。


 その案を思い浮かべていたら、あっという間に時間が経過してしまいました。俺……、ちょっとした変な事で、すぐにおかしな連想を始める悪いクセがあります。どうせ今回の案だって、はじめはうまく回るかもしれませんが、すぐにフィーさんに矛盾を突かれて、いつも通りの状況に戻るのは間違いないです。しかし、それでも、試したくなる悪いクセです。


 それで仮に、その相手が「相場」だったら、それは「大損」を意味いたします。その「大損」は絶対に避けることができないと「今の地点でわかっていた」はずなのに、なぜか実行に移してしまうという、この破壊的な衝動ってどこから来るのでしょうか? たしか「ゆらぎ」だっけ? 「ゆらぎ」とか「ひずみ」とか「さざ波」とか、何だか知りませんが、明らかに、それらに反する行動を抑制できず、なぜか取ってしまい、後から「絶対に」後悔するという理解できない行動への論理です。


 後悔するならさ、そんな行動を取らないで自分を抑え込んで「ゆらぎ」とかに身を委ねれば楽になれるのに、なんで、いつもいつも、そんな事ばかり。そして、大きく膨らんだ評価損を眺めて、うなだれてしまうのであります。こんなのを繰り返していたのだから、あの時の俺の状況は、「ハシゴ」を外されたとか、そんなのはもう関係ないんです。最後は破壊的な状況になるように、なぜか行動してしまっていた、これしか考えられませんから。


 そして、そして、今回の失敗です。本当に情けないです。このような悪いクセから発生する破壊的な衝動の延長に、今回の失敗が存在していると考えたら、少しばかり怖くなってきました。なぜなら、その延長の先に、フィーさんとの究極的な「楽しい時間」……そうです、「書物の街」になりましたから。俺自身は穏便に終われば御の字なのですが、間違いなく、何かが「発生」いたします。それは、絶対に避けられない「ゆらぎ」からの、俺への「試練」になると身構えておきます。絶対に避けられない、そのような事象が、脳内で自分の良い都合に再解釈され、それを「強い意志」と誤って認識し、その行動を避けることを選択できず、意志として確定させ、そして……その結果に後悔するのです。わかってきました……。これが解なのか? ほら、フィーさんによく、事象がわからない場合は「何度も何度も試して、見て、感じて、慣れてくることが大切なのです」と言われていたので、それを試してみたら……、案外、見えてきましたね? たしか……、式なんかも、これらしいです。式が苦手な方は……物事を完璧に見過ぎてしまい、その場で「すべてを習得」しないと気が済まないという性格で、それは無理だからわからなくなる、という見方です。そこで、「妥協」が大切らしいです。それは、何度も何度も同じ場所に戻っては、考えてみるというプロセスです。そして、それらを何度も繰り返すと最後は慣れてきて、最終的には「なんで……こんな簡単な問いに悩んでいたんだろう」になります。複雑に物事が絡んできたら、まずは「整理」です。これが、なかなか良さげな解決策……メソッドですね。


 しかし、ここで「はじめから妥協する者に祝福はない」です。これが雑音となって、「妥協」とぶつかり合ってしまい、なかなか上手くいかずに、非常に苦しむことになります。たとえば、そう、たとえば、利確のときとか……、です。


 ところで、このような論理を考え始めると、なぜか時間の経過を早く感じます。こんな程度のものでも、すでにシィーさんが、笑顔でこの場に戻ってくるだけの時間が経過していたようです。


 おや……? その後ろに隠れるように、フィーさんが同伴しておりました。成功のようですね。


「あ、あの……、なのです。」

「えっ? あっ……。フィーさん……。」


 隠れたその位置から突然、フィーさんより話しかけられ……、安堵する俺が、そこに存在いたしました。


「誤解……だったのですね……。」

「ま、まあ……。そうです、はい……。」

「姉様のことだから、なのです。もう、もう……、この場で話せないようなことを……。」


 ……。なんか、まずい流れです。


「フィー……。私も悪いから、言い訳するつもりはないけど、ちょっと酔って、……なだけよ?」

「……。はい、なのです。何事もなかったと、理解したのです。」


 シィーさんが言葉を詰まらせておりました。その度に震える……、俺。


「しっかり、『あの日の約束』を果たすからね。期待していいわよ?」

「……。それは嬉しいのです。」


 あの日の約束? ……。どのみち、俺が悪いのです。全部、受け止めます。


「フィー? 良かったわね?」

「はい、なのです。最近は『磁界』について、さらにこだわっていきたいと考えていたので、嬉しいのです。ところで、あの……。姉様は、同伴されないのですか?」

「そ、そうね……。」

「さらに……。本当に、お酒の方はやめるのですか?」

「う、うん……。」


 シィーさん、本当に酒をやめるの? それは、かなりの犠牲を伴って説得させたみたいですね。そして、「磁界」については、もう諦めています。まだテーマが決まっているだけ、まし。これで楽観的に流していきましょう!


「シィーさん、本当に酒をやめるの?」

「うん……。ほどほどにする、かしら?」

「……。もう決意が揺らいだの?」

「そうね……。これも『ゆらぎ』の一部の現象で……。避けて通れないのよ。」

「姉様……。それに『ゆらぎ』は関係ないのです。」

「フィー? それは違うわ。このような些細な事でも『ゆらぎ』は絡んでくるのよ?」


 ようやく……、フィーさんに笑顔が戻ってきました。


「では……。わたしも謝るのです。」

「フィー?」

「……。わたしがディグさんを……。姉様、ディグさん……。ごめんなさい、なのです。」

「フィー……。私がみえない場所……、すなわち、やたらと位置情報を遮断する機会が多いと感じていたのよ。そのような場合は大概、おかしな事に首を突っ込んでいるのよね?」

「姉様……。」

「そこでね、まずは『チェックポイント』について、その詳細をいただけるかしら?」

「……。」


 急に、目をそらして下を向くフィーさん。それは、「おかしな事」のうち、早めに解決していただきたい件ですね。俺も、強く思います!


 そこで俺はフィーさんに近づいて、そっと、肩をなでました。すると……。ようやく話す気になったようで、うつむいたままですが、少しずつ、その真相を語り始めました。


「『チェックポイント』は大切なのです。」

「何が大切なのかしら?」

「ここまでの……、ここまでの『流れ』を記録して固定するのです。」

「それで? それは、命に代えてまですべきことなのかしら?」

「……。」

「フィー? いつも論理では余計な事まで語るのに、この……、本当に大切な問いには答えられないのかしら? でも、それはダメ。わたしも酒をやめるのだから、フィーは、ここでしっかり答えなさい。」

「それは、酒をほどほどにする、なのですね?」

「フィー? 私は真剣なの。ここは、しっかり答えてね?」

「……。姉様……、『チェックポイント』をやめて、なのですか?」

「そうよ。」

「……。姉様のお願いでも、それは……、それだけは、できないのです。」


 やはりやめられないのか。フィーさん……? なぜ、あんなものに、そこまで食らいつくのかな? ちょっと突っ込んでみます。


「フィーさん? 俺も、『チェックポイント』はやめるべきだと思うよ。」

「……。ディグさん……。姉様に、力の行使で大きな負担がかかった件を話されたのですね?」

「うん、話した。」

「どうして……、なのですか? 約束したのではないのですか?」

「あんな件を隠し通すのには無理があるよ。」

「……。それでも必要なのです。理想に近い形で生まれた結果を固定するのに……なのです。」

「理想に近い? なんだそれは?」

「ディグさん……。これは、本当に大切なのです。これをやめるならば、『ゆらぎ』で、いつまた……。」

「フィーさん? それは確実に良くない行為だよ。」

「えっ?」


 俺から論されるなんて、夢にも思っていなかったという表情を浮かべるフィーさん。それでも俺は押し通し、強引に話を続けます。


「自分が理想だと思い込んでね、すべてが思い通りに描かれ、すべてがうまく運び始めて、そう……『有頂天』になった瞬間が最も危ないんだ。その瞬間に、まったく考えてもいなかった事象が起き始めて、そのすべてが崩壊に向かい始めるからね。」

「そ、それは……? わたし、それは初めて耳にするのです。」

「フィーさん……。俺からみてもね、やっぱり書物に頼り過ぎだよ。なぜならこのような負の面って……フィーさんが目を通すような書物にとっては『恥』だから……、あんまり触れたくない話題なのは間違いなく、それゆえに、ほとんど出てこないはずです。そして、本当の敵は身近にいることを察知できなくなるんだよ。この例も、それに抗えず、有頂天になった瞬間って、間違いなくそれらを面白くないと感じる者が『身近』にいるからね。」

「身近にいるのですか? それは……、その……。いいえ、なのです。今回は、違うのです。」

「フィーさん? 今回って……。」


 俺は、いつも疑問を覚えていた……、触れてはいけないのかもしれない疑問を伺います。


「……。い、今のは、何でもないのです。」

「俺は、気になって仕方がないんだ。『今回は違う』って……? それは、どういう意味なの?」

「あっ……。」

「フィーさん?」

「……。わたしの……、わたしの『大切な犬』、よろしくお願いいたします、なのです。」


 フィーさん……。ごまかすのは苦手ですからね。なぜかここで、いきなり犬ですか、そうですか。だったら、筋肉から聞いた取引の件です。まったく……、これを俺に伝えていないとはね、です。


「フィーさん……。筋肉から耳にしたんだが、それ、取引できるらしいね?」

「それ、なのですか?」

「うん。犬だよ。」

「そうですか……。ミィーさんの承認の件を終え、コミュニティについて話してから、じっくりと伝える予定だったのですが……。」

「あっ、隠す気はないのね?」

「……。はい、なのです。」


 それならいいか。そういや、ミィーがフィーさんに承認だっけ? そんな話があったな。そして、あのミィーの事だから、すでに事が上手く運ぶように仕込んでいる可能性が大だな。


「じっくりと『楽しい時間』で伝えるってことかな?」

「ディグさん……。はい、なのです。」

「もう慣れたから、大丈夫です。おそらく……、大丈夫です。」


 それからフィーさんは、俺から離れるようにシィーさんの方を振り向き……。


「姉様。旅行先で付き合わされた場で、重大な話を伺いました。」

「えっ? それって私に?」

「はい、なのです。」


 どうやら、今ここで「市場の精霊」の件について話すのかな? シィーさんって「売り売り」だったはずです。引き受けたら、どうなってしまうのでしょうか?


「そう。あの変わり者が、私に託すと言えば、あれしかないわね。」

「姉様……?」

「買いまくって対処不能になった『例のもの』の後始末でしょうね。」

「……。わかるのですか?」

「……。これすらも『創造神』の企てなのかしら? わかったわ。そこまで私にこだわるのなら、思う存分、楽しませてあげますわ!」

「姉様……?」


 なになに? シィーさんが創造神を楽しませるだと? いったい、どんな展開になるのでしょうか? ううん、今は自分の心配が先だ。「書物の街」、そう……「書物の街」でした。……、頑張ります。

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