406, Sのラウンド5……。「報道しない自由」と揶揄されることもある旧来型の報道スタイルがやってきたことと、何も変わらないじゃない。
その暗号の精霊は、言葉を慎重に選ぶかのように、まず……これまでの流れを的確に、簡潔にまとめて語ってくださったわ。
「実は、あの頃からだったのう。特定の領域においてだけ……わしの論文や講演が、奇妙に検索で引っかからなくなったのじゃ。おかしいと思ったのは、それが量子ビットへの耐性に関する内容だけ、という点じゃ。」
「量子ビットだけって……。それってつまり……?」
「そうじゃ。量子ビットへの耐性……特に、短いビット幅とハッシュ構造の危うさを、探索系の観点から指摘した内容だけが、局所的に、まるで意図的に覆い隠されたようになっておった。逆に、それ以外の内容は普及しておるぞ。ほら、公開鍵から秘密鍵を導き出すとされる、あの有名な量子アルゴリズムだけは……探索系とは関係ないからであろう、量子による脅威の話題をこの一点にぶつけるために、あえて連日話題にされているではないか。それにも関わらず、探索量を平方根に縮める、あの量子探索アルゴリズム。それはなぜか、それだけは、誰も触れようとせん。まるで、うまく避けているようにも感じるじゃろ?」
「……、うん。……やっぱり、映し出された現実は、それだったのね。」
その暗号の精霊は、深くは頷いたわ。
「もはやこれは、女神様の話では済まされぬ。あの百六十ビット……、最初に疑問を投げた暗号の精霊こそが、最も現実に近づくことになる。それを避けるために、多くの精霊が沈黙したのじゃ。そして、わしも……。」
……。これでは……「報道しない自由」と揶揄されることもある旧来型の報道スタイルがやってきたことと、何も変わらないじゃない。「中央的だ」と嘲笑してきたその姿に、いまのわたしたち……「非中央」が限りなく近づいているなんて……まるで悪い冗談だわ。




