405, Sのラウンド4……短すぎる百六十のビット幅に、はっきりと警鐘を鳴らしていた暗号の精霊という存在……わたしは、それを完全に見落としていたわ。
そして、わたしがそれを知ったのは、すべてが動き出した後だった……。やっぱり、どこか、ゆるかったのね。気づいていた方はいたのに……。短すぎる百六十のビット幅に、はっきりと警鐘を鳴らしていた暗号の精霊という存在……わたしは、それを完全に見落としていたわ。
そこで、その精霊にお会いするため、連絡を取ってみたの。すると、「女神様からの頼み事なら……」と、重い腰を上げてくださったわ。もともと暗号を専門に扱う方で、このチェーンの仕組みが本格的に動き出した頃から、ずっと警鐘を鳴らし続けていたなんて……。
「はじめまして。この地で女神を任されているネゲートと申します。」
「ほう、そなたが女神様か。マッピングの時代に、わざわざ顔を見せに来るとは……ふむ、いよいよ『あれ』が、悩みの種になってきたというわけじゃな?」
「はい……。」
わたしは、情けなさもあってか、つい弱気な返事しかできなかったわ。
「わしが、あの百六十ビットのハッシュ構造に対して警鐘を鳴らし始めたのは……まだ、推論も量子も目を覚ましてはいない時代で、あれらは一時的な眠りについておったのじゃな。だからこそ、奴らが目を覚ます前に……、あの百六十ビットの構造をどうにかすべきだと、声を上げたのじゃ。」
「それで……その後は、どうなったのかしら?」
わたしが問いかけると、その精霊は少し言い淀むように、話しにくそうな表情を浮かべた。やっぱり、なにか、あるのね……そう確信したわ。
「……わしは、暗号の権威として、ある程度名が知られておる。だからこそ、その警告はいまでも一部では信じられている。それは……ありがたいことじゃ。だが……、それゆえに、奇妙なことも起こったのじゃ……。」
その精霊は一瞬、目を伏せたわ。
「それでも……女神様になら、ようやく話せる気がする……。」
……やはり、そこには何か見え隠れする思惑がある。そう感じずにはいられなかった。
「やっと……じゃ。女神様が気づいてくださった。それだけで、わしにとっては、それが何よりもうれしい知らせじゃ。」
「うん……でも、それはわたしも……量子に気づかされたのよ。それまでのわたしは……、ただ浮かれていただけ。話にならないわね……。こんなのが、女神を任されているなんて。でも……わたしは覚醒したの。だから、お願い……もう、包み隠さず話して。すべてを。」
さて……何が出てくるのかしら。でも……フィーと語り合った、あの時の予感。その通りの展開になりそうな気がするわ。




