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39, あなたは「主」を目指すのよね? それなら、そろそろ、わたしを楽しませてね? ところで……、わたし、誕生日が近いの。期待していいのかしら?

 例の旅行キャンペーンで、フィーと……あの約束を交わしてから数日が経過し、いよいよその結果の報告が、とある一室で執り行われています。ところが……、そんな結果の事などは「どうでもよくて」、今後を左右するかもしれない重大な事が中心となる「別の話題」になっていました。


「ねえねえ? あなたは、いつ、『主』になるのかしら? わたし、これ以上待てそうにないわ。」

「大変申し訳ございません。この地域一帯……、いいえ、この地全体を支配することになる『大精霊ネゲート』様……。こんなわしのような者に……。」

「あのね? わたしは、誰でもいいのよ? 単に、あなたが面白そうだから味方になっただけ、だからね。勘違いしないでね? それでもね、常に発生する『孤児ブロック』を掌握し、それにより先々の事象を『シーケンシャル』に読み込める、このわたしを味方につけるなんて、あなたって、本当に幸運に恵まれているわよ。大喜びよね? お・お・よ・ろ・こ・び!」

「……。ありがとうございます。こんなわしを……ここまで導いてくださった、大精霊様……。」

「そうそう。そうやって、ありがたく想う気持ちが大切なのよ。本当の、理を超越した『確率』を味方につけたこの私は、あなたが普段からみているような、ちっぽけな現実を超越できるのよ? わかるかしら? このことが、どんなに素晴らしいことか? これってね、わたしと……そう、フィーにしかできない『超越』なのよ?」


 明らかに異なる「別の話題」を強要しているのは……、フィーと同じくらいの小柄な精霊で、その面影はフィーにそっくりですが……、中身はまったくの別の存在……、それは、派手な格好をした『大精霊ネゲート』と名乗る精霊で、目の前にいる「主」を目指して独走する初老の男と、さらに、対話を重ねます。


「フィー様……、ですか。」

「そうよ。フィーよ。何か文句でもあるのかしら?」

「い、いいえ……。」

「だからね、必ずフィーだけは、こちらの味方に付けないといけないのよ? わかるかしら? なぜなら、『超越』できる存在が複数いると、かなりまずいのよ。」

「ネゲート様でも……、苦手とされる分野があるのでしょうか?」

「あら……。あなたって、相手を楽しませるという『力』はあるのよね。」

「ありがとうございます。」

「実は、わたしが表舞台に立てない理由でもあるのよ。フィーにみられて『事実』を確定されると、わたしが苦労して用意してきた今までの『超越』が消えて失われてしまうからなのよ。」

「そ、それは、いけませんね!」

「あなたでもこの危機はご理解いただけたようね? 揺らいでいるから、わたしが好きなように『確定』できるのに、フィーが先に『確定』してしまうと、そこでしぼむように『収束』してしまうからなのよ? ただ、その収束に『サイドエフェクト』が絡むことは……、あのフィーも気が付いていないようね。そうよね、気がついていない、はずよね? それともまさか、それに気が付いて……、余計な詮索をしているとか?」

「あ……、あの、わし……私に『確定』とか『収束』とか申されましても……。」

「そうね。相手を間違えましたわ。わたしって……、このあたりはフィーに似ているのかしらね? あのフィーも……、すぐに妙な『知識』を披露したがる悪い癖があるからね……。」

「すみません……。学びが少なく、本当に申し訳ございません。」

「別に気にしなくて良いからね? あなたは、わたしの『意志』通りに動けば、それで十分なのよ。そうね……、この先、何か発言する場面が訪れたらね、その都度、わたしからあなたに手渡す『シナリオ』を相手に勘付かれないように読む練習でもしていなさい。それがね、とてもとても大切なのよ? いいかしら、それだけは守ってね?」

「わ……わかりました。なぜなら、常にネゲート様を信じているからでございます。わし……私は『予想屋』と揶揄される苦しい日々を送ってきました。それを、ここまで変えていただき……。」

「予想屋って? ああ、この地域一帯には、そんなのがあるのね。狙った銘柄を、明日、上がるか、それとも下がるのか、予想するだっけ? そんなの、本当に存在したんだ?」

「はい……。ネゲート様なら、何の苦も無く予想できるのかと……?」

「それね、本気で言っているのかしら?」

「ち、違うのですか……。」

「そうではないわ。予想する必要がない、そう言いたいの。」

「必要がない……。とは?」

「もう……。でもね、それでこそ『主』になれる素質があるわね。『主』に余計な『知識』や『知恵』は厳禁だからね。素直に、わからない点はこの麗しき大精霊に伺い、その通りに演じるのよ? では、ご説明いたしましょうね。そうね……、今の危機を乗り越えるために、まるで愛の精霊に狂ったかのように、『市場の精霊』が指数に絡むものを見境なく買い上げているじゃない? 最高よね、これ。本当の意味で、『予知』……予想する必要すらない。ただ、それだけ。しかもね、わたしが普段から親しくする『天の使い』ですら、売らずに、その指数と連動するものを買ってね、抱え込んでいるとか。まったく、恐ろしい話だわ。売りが主力のあいつらが、買うとはね!」

「そ、そういうことですか……。」

「買ったら、ただ、待つだけ。予想が不要となった不思議な相場が続いているようね? これでは、買ったら上がるのを待つだけね? 古い言葉で『ガチホ投資家』という、なんとも虚しい響きの言葉があったわね。これで勝てるのかしら? なかなか、狂っているわね?」

「……。今の状況では、予想屋は、みな廃業です!」

「そうね! あんなの、もともとね、わたしからみたら……。」

「あ、あの……?」

「あら? わたしは『優しい』のよ。これ以上は言わないであげますわ。」

「……。ネゲート様。ありがとうございます。」


 いつものようにネゲートのご機嫌を取り、今日もこれで無事に終わると考えていたら……大間違いだったようです。


「だったら、何とかしなさいよ?」

「な、何を……、ですか?」

「まったくねえ、この地域一帯の方々はとにかく我慢するから、ちっとも面白くないわね。これ以上、この地域を引っ掻きまわして、本当に面白くなるのかしら? このわたしを、もっともっと、楽しませなさいよ?」

「そ、それは……。」

「にぶいわね? つまり、あなたの幸運は今ここで尽きるかもしれないということなの。わかるかしら?」

「す、すみません!」

「もう……。これ以上、つまらない状況が続くのならね、そうね……そうだわ! わたしね、『都の支配者』に乗り換えようかな……と、考えているのよ。」


 ネゲートから急に飛び出た「都の支配者」というフレーズに驚き、急に慌て始める初老の男が……、そこにはありました。


「今、なんて……。そ、それは、それだけはいけません!」

「なんで?」

「そ、それは……。その……。」

「あの『都の支配者』……。このわたしからみてもね、非常に魅力的なのよ? わたしがお気に入りの妖精から、あんな酷い内容の『ブロードキャスト』をくらったのに、何食わぬ顔で、今もピンピンしているだなんて! なんて素敵なの! わたしがこんなにときめくなんて、久々! この気持ち……、言葉では言い尽くせないわ!」

「あ、あの……?」

「なに? さっきからはっきりしないわね? この地に選ばれし『風』の大精霊に、はっきり言えないのかしら? それとも、頼みにくい、なにか用でもあるのかしら?」

「そ、それは……。か、風だったですか? 風の大精霊は……、たしかシィー様だったはずでは?」

「今ごろ気が付いたわけ? ほんと、あなたってにぶい上にまぬけよね? 『大精霊は各属性につきお一方』だと、本気で勘違いしているのかしら? それはね、非常に古典的な、この地で地べたを這いずり回る者が『勝負事に勝ちたい』という欺瞞に満ちた深淵から生じる『確率』より算出された、ただの『偽り』の結果なの。例えばコイントスで裏が出る『確率』を二分の一だと勘違いして、それを妄信し、それで『すべてが見えている』と勘違いした、あなたを含めた『あの神々』みたいなもの、かしらね? わたしが愛おしく想いを馳せる『確率』は、すべてを司る創造神と『ゆらぎ』から生じる、『真』の結果なのだから、真実を包むこの『確率』を、そんな『おもちゃ』と比較しないで頂戴ね。なぜなら『ゆらぎ』はね、『大精霊は各属性にお一方』なんて、まったく許していませんから! 当然、シィーとは別に、わたしのような大いなる素晴らしき『大精霊』が誕生したってね、まったく不思議ではないの! そして、この美しき『大精霊』の誕生を祝う『大精霊の祭典』も楽しみなの。この地のすべてを犠牲にしても、必ず『祝福』しなさいよ? 来年は、この地域一帯が担当よね? わかるわよね、この意味をね?」

「そ、それは完璧です。絶対に、祝福します。わたしの生命を賭けてでも……。」

「当然よね? このわたしを祝福できないようでは、もう、この地域一帯は『おしまい』ね。まあ、あなたが生命を賭けても、事象に変化はなさそうだけれど……、その気持ちだけは受け取るわね。」

「そ、そこは大丈夫です。あの祭典については『都の支配者』が早急に、対処していますから!」

「えっと、そうなんだ? つまり、あなたは議論の外? ははは! あはは!!」

「いえ、それは……! 本当に、不躾な極み……、本当に、大変申し訳ございません!」


 初老の男が急にひざまつき、大精霊を名乗るネゲートに、許しを乞いはじめました。


「えっ? なにかしらそれは? はじめて見たわ、それ。たしか、相手に許してもらいたいときにする、この地域一帯のコンベンショナルだっけ? それで、あの腐った神々の『重鎮』相手にも、毎時、そうやるんだね?」

「そ、それは……。ま、毎時ですか……。ははは、そうですね……。はは……。」

「その気持ちは、とてもとても大切よ! そして、とっても大切なのよ。わたしは『大精霊』なの。その『大精霊』からみたらね、あの神々など、『犬』同然だからね?」

「い……、犬ですか? 我ら神々は犬……。」

「そうよ。」

「そうですか……。」


 さすがに……、落胆の表情を隠せない、「主」を目指す初老の男……。しかし、ここでようやく結果報告の話題に移りました。


「ところでね、わたしがとっても気にしている『フィー』の協力の件はどうなったのよ? あの神々は、この件を提示したら再度『天』に戻れると浮かれていたようだけどね? まあ、わたしにとっては『どうでもよい』のよ。楽しめればね。ははは。」

「フィー様の件ですか……。」

「そう。フィーの件よ。このわたしと同じ属性とは絶対に思いたくない、風の大精霊『シィー』の妹なのよ。まったく、厄介な組み合わせだわ。でもこれは、わたしが愛おしい創造神からの試練。絶対に、絶対に乗りきってみせますわ! 間違いなく一方的な『超越』への試練よね。それで、どうなったのかしら?」

「その……、実は、進展がありました! シィー様を『市場の精霊』にすると約束したら、フィー様のお気持ちが『白紙』から『保留』に変わり、話に乗ってきました。大幅な進展でございます!」

「えっ? シィーを『市場の精霊』に?」

「はい。」

「それでフィーの心が動いたのかしら? その理屈はわからないけど、それは……、面白くなりそうね? あの狂ったシィーって、たしか売り専門の『売り売り』だったはずよね? はははっ! 笑えるわ! どんな解体ショーが始まるのかしら? 狂ったお買い上げから急に『売り売り』でも始めるのかしら? 市場を『売り』で荒らすとなると……うん、それは楽しめそうだわ! グッドよ。なかなかやるじゃない? 少しだけど見直したわ!」

「あ、ありがとうございます!」


 その瞬間ネゲートが、身を乗り出してきました。


「わたしみたいな存在を手に入れたのだから、すべてはうまくいくの。当然よね?」

「あ、あの……。と、当然です! その……、シィー……様の『売り売り』の件は、存じております。」

「そうなんだ。だったら、面白いことを教えてあげますわ。びっくりするわよ?」

「びっくり……、ですか?」

「うん。あのシィーってね、ひどいのよ。創造神から恨みを買ってね、あんなことになったのよ。」

「あ、あんな事……? それは、もしかして……?」

「うん。あれだけの力を、創造神を楽しませることなく、なんとまあ、厄災の渦の進行方向を変えるという『貢献』なんかに悪用するから、恨みを買ったのよ。創造神からの『楽しみ』を、あたかも、すべてあの力でねじ曲げ、進路を変えて、直撃を防ぐようにしていたからね! それでね、あの神々や民から大いに持ち上げられて、『英雄』扱いだったらしいわね? それでも思い知った事でしょう、創造神の本当の怖さをね。それが、あのような結末を迎えることになった『トリガー』になったのよ。そしてまあ、見事に笑っちゃうわ! あれだけお世話になったのにね、失敗した途端に、数多の心ない手の平返しに、心を壊してね、大部分の記憶を失ったのよ。惨めよね? みじめ。あはは! あの神々からはすべての責任をなすりつけられ、妖精には責め立てられ、石を投げ付けられたこともあったようね? そこから魔の者に狂い……、うわ……よね! その点……、わたしは根本的から何もかも違うから安心してね。創造神を心から愛し、その『意志』を強く継承し、あらゆる方向性から攻めまくり、楽しませることを約束しているのよ。」

「……。それは真、なのですか?」

「信じてないの? 風の力だけでも脅威なのに、その『ゆらぎ』からの『予知』まで身にまとう、この美しき『大精霊』のお告げを……?」

「……。」

「今……、肝心な事を思い出したわ! シィーの犠牲による、自然の回復はどうなるのよ? はやくしてもらいたいのよ? さすがにやり過ぎてね、これ以上に破壊が進むと、創造神が『楽しめない』のよ。わかるわよね? シィーが余計な事をしなくなって、直撃ばかりでボロボロになったのだから、そろそろ『リセット』が必要なのよ。まったく、なんでこうも上手くいかないのかしらね? 持ち上げてから落とさないと面白くないのに、この状況からでは、持ち上げられないのよ? わかるかしら?」

「そ、それは……。」

「創造神に嫌われた、この地に不要な『シィー』は、さっさと消滅が真よ。」

「それは……、その……。」

「なにを迷っているのかしら? まさか、それらを心得ていて『市場の精霊』をシィーに任せたの? あれって、任期が長いでしょう? 五年? 十年? さっさと消えてもらいたいのに、なぜ?」

「……。」

「本当に、さっさと消えてもらいたいの。わたし、ごねたらしつこいからね? ついでに、大きな楽しみがあるからね。あれだけ、創造神を裏切ったのだから、その犠牲は『風の大精霊』としての贖罪として『派手に消滅』するのよ。そうね……、わたしが最大限の敬意を払って『見世物』として派手に散れるように、そうね……、そうね……、うん、いまわたし、怖い想像をしたわ。少しずつシィーが真っ赤に染まっていって……。」

「あ、あの……。」

「なにかしら? あなたも、この見世物の手伝いをしていただけるのかしら?」

「そ、それではなく……。それが……『創造神を裏切った』ことになるのですか?」

「な、何を急に言い出すの? ちょっとねえ? なに、さっきから? あなた、誰の味方なの?」

「……。」


 慌てて話題を変えようとする「初老」の男。無意識に出てしまった、自身の言葉を悔やみます。


「すみません……。こ、これは、まだ決まった訳ではございません。ただの、フィー様への交渉材料です。フィー様は、これ位の条件を提示いたしませんと……、絶対に折れません。そして、この条件ならば、間違いなく、我ら神々……いえ、ネゲート様のお望み通り、例の件を引き受けることになるでしょう。」

「本当にそういう事情なのかしら? まあ、わかったわ……。あのフィーだからね。それは仕方がないわね。でもね、その任期を終えたらすぐに、あんなのはさっさと捨てるのよ、わかる? 縛り付けて、腐った海に投げ込みましょうね? そこでね、縛り付けるための道具ならあの神々が沢山持っているのでしょうから、その中から選りすぐったスペシャルでユニークで民の血を大いに使った贅沢仕様なものをわたしに貸しなさい。本当は自分で選ぶべきなんだけど、わたしね……、『品格』があるからね、そのような道具の知識には疎いのよ。これについては、何の迷いもなく、いまここで承諾よね?」

「あ……、そ、それは……。」

「どうしたのかしら? わたしは、このような場面で『イエス』と即答できる者しか、興味がないの? おわかりかしら? この『イエス』の本当の意味をね?」

「もちろん、存じております。そ、それよりも……、なぜそのことを……『道具の件』、です。」

「それね……、本気で言っているのかしら? わたしの、この驚異的な能力について、お忘れなのかしらね? あの神々が密かに抱え込む、そんな程度の秘密はすべて『お見通し』なのよ。」

「ははは……。大変申し訳ございません。ネゲート様、さすがでございます。」

「へぇ……? そうやって相手を気持ちよくさせるのが、本当に得意ね?」

「これが、わし……私の持ち味ですから。」

「そうなんだ。それにしては、あの計画にはやたらに執着するわよね?」

「そ、それは……。」

「あなたにしては珍しく、あの計画だけは、私の崇高な意見すら聞かずに、例の大切なフィーへの交渉に独断でねじ込んできたわよね? あれって、そんなにすごいんだ?」

「ネゲート様。わし……私のような者でも、どうしてもこだわりたい事はございます。それが、その計画です。今後を左右する非常に重要な計画でありまして……。」

「今後を左右するの? あんなのが?」

「あ、あんなのが……。ですか。」

「大精霊のわたしからみたら、あんなの、たいした事ないわよ? まあ……、それでも、あなたがそれだけこだわるのですから、『天文学的に儲かる』とか、そういった類のものよね?」

「あ、あの……。」

「わたし、それ、『ブロードキャスト』で見たことがあるの。」

「『ブロードキャスト』で、ですか!?」

「うん。えっと、『それ』を求めて高潔な者たちが集まってね、『それ』を囲んでね、『この地を完全支配しリセットできる新しい力……その本当の価値を見極め、今ここで、値を付けてください』と、オークションをやるのよ。それで……、その場で、『それ』の力量をシミュレーションして、みせつけるのよ。どうやら、『大精霊』を味方に付けられなかった地域一帯が、力を求めて、そのようなものに群がるようね?」

「……。そ、それは……。」

「まあ、それで力が手に入りましたという安易な結末ではなく、お決まりといえる『阻止される終わり方』なんだけど……。なかなか楽しめましたわ。感想は……、そうね、『人』って怖いわ、ね。」

「……。」

「どうしたのかしら?」

「ネゲート様……。恐れ多くも、これだけはお伝えしておかなければなりません。」

「なに?」

「案外、この計画については精霊も恐れているかもしれない、という事実です……。」

「なになに? へぇ、そうなんだ? きっとそれは、面白そうね? このわたしに、恐れるものができたのかしら?」

「そうでないと、意味をなさないというか……。」

「そうでないとって? なんか、わたしにとってつまらない内容になりそうね?」

「すみません……。」

「なんてね。冗談よ、冗談。『それ』は、どのような結末を迎えるのかしら? 実はね、精霊もね……『人』は怖いのよ。あの神々の道具だって、精霊には考えられない代物だし。すなわち、精霊にも恐れているものはあると……、覚えておいて損はないわね。」

「……。」

「あれ? 『たいした事はない』と心では感じていて、本能では『怖い』と感じたみたい。なんかわたし、調子が狂うわね。その計画の闇は、気が付かないうちに、おかしなコンフリクトに心を惑わされてしまいましたわ。やっぱりダメね、その計画。」

「ネ、ネゲート様……。」

「その計画、狂っているシィーはどう思っているのかしら? 正直に答えなさい。」

「シィー……様は……、快く思っていないご様子でした。」

「当然よね。わたしも、気分が悪いからね。」

「……。」

「すわなち、最初のフィーへの交渉失敗は、その余計な計画が原因で間違いないわね?」

「そ、それは……。」

「ねぇ? すぐに『違う』と即答できないなんてね、間違いないわね。だから狂ったの。」

「すみません……。」

「ほんと、先ほどからあなたって、謝ってばかりよね? なんだか余計に、あの時……、フィーに逃げられた事が悔しくなってきたわ。シィーの命で脅せば、すぐに揺れ動くはずだったのに……、絶対におかしいと感じていたのよ。その計画を警戒され、『予知』が狂ったで間違いないわね。だってね、だって、わたしが持つ全ての『知識』と『知恵』を活用して得た結論が、あんな結末になる訳がないからね。本当に、それ、わたしが楽しめるような計画なのかしら?」

「ご、ご安心ください……。ネゲート様は楽しめますし、不可欠で重要なもの、です……。」

「でもね、でも……。その大切な『予知』が失敗し、収束した『サイドエフェクト』が変な結末に……。ところで、今は何のキャンペーンをやっているのかしらね? そして、誰がこんな事象を考え付いたのかしら? それでね、これが、『サイドエフェクト』の怖さなの。だから、『サイドエフェクト』を極端に嫌い、そのような作用が発生しないように注意する精霊も多いのよ?」

「……。」

「誰なの?」

「それは……。」


 「主」を目指す初老の男は、細々と、旅行キャンペーンを提案した者について、話し始めました。その途端……「大精霊ネゲート」は、なぜか笑い始めました。


「お、お、落ち着いてください。」

「怒りを通り過ぎると笑っちゃうって本当だったのね? 誰が……落ち着けるのよ? これね、あの神々が提案したのなら……、これから『お世話になる件』も含め、是認できるわよ……。それが、なに? まさかのまさか! 『天』に招かれた者が、提案し、それが押し通された形なのかしら? どういう事かしらね? そんなのを認めるようでは、あなたはね、『主』には向かないわよ? 自分がしでかした、取り返しがつかないこの失態……、ご理解していただけるかしらね?」

「失態……、ですか。」

「そうよ。」

「そ、それは……。」

「どうしたの?」

「……。」

「またなの? 都合が悪くなると、すぐに黙り込むのね? たまには、何か言い返してみたらどうなのかしら?」

「そ、それはできません……。」

「それは残念ね? そうね、わたしが神々しくて、美し過ぎて、何も言い返せなかったと良い方向に解釈しておくわね。でも、弱点は『ミィー』という者なのね? なるほど……。とっておきの恐怖でも授けてあげようかしらね? その『ミィー』にね。ははは。」

「あ、ありがとうございます……。ミ、ミィーです……。」

「安心してね。あなたが頑張っているこの界隈では、わたしのような『予知』の力を作用させ先々を見通せる存在が、生き残るのに『不可欠』だと伺っているからね。ちゃんと最後まで、見届けてあげますから、ね? あなたが愛するその計画まで抱え込んでね? ははは。」

「ありがとうございます……。」

「ところで……。さすがに、わたしに食らいついてきた不届きな『ゆらぎ』に、自分の意志に抵抗する方向性の情報を与える『ネゲート直々のお願い』はしたのよね? 念には念を、ありえないような摩訶不思議な乱雑さを投入してね、本来の……わたしが操るべきものに戻す大切な作業なのよ?」

「ネゲート様が日頃からお考えになる複雑な論理については存じませんが……。仰せの通り、しっかりと対応いたしました。」

「では、具体的には、何をされたのかしら?」

「ネゲート様……。わし……私は、恥ずかしながら、列に割り込んで暴れてみたり、シィー……様に逆らってみたりと……。」

「なになに? 恥ずかしながらって? 案外、お似合いだと思うわよ?」

「お、お似合いですか……。」

「あはは。冗談よ、冗談。こんなの真に受けないでちょうだいね。」

「……。」

「ところで、まだ『シィー様』なんだ?」

「あっ……。そ、それは……。」

「うんっ! ようやくわかったわ。そうよね! あなたが、わたしよりも狂ったシィーを選ぶわけがないもんね?」

「そ、そうですね……。」

「あなたが、先ほどからしつこくシィーに敬称を付けているのは、『ゆらぎ』をごまかすための『作業』の一部、なのよね?」

「さ、作業の一部……。そうです! ネゲート様。ただの『作業』です。」

「うん、よろしいですわ。それなら、気分は悪いけれど、『シィー様』は認めましょう! そしてそれがね、わたしが『天の使い』と違う、魅力的な部分なのよ。」

「て……、使い?」

「あら? 混乱しているのかしら? 『天の使い』は……、そうね、最近は、この地域一帯から見て裏側あたりにある地域で『大暴れ』しているのよ。でも、やり方がエレガントではないわね。たしか、わざとらしく計算して、『この地共通の価値』を大いに利用し、僅かな生活費を渡すのよね。」

「『犬』……ですか。それは……。」

「精霊が考え付いた、『ブロック』と呼ばれるもので、分散的に管理しているらしいのよ。まあ、そのおかげで『この地共通の通貨』になっているらしいわね。そして、この地全体に分散しているから、生み出した精霊はもちろん、神々や魔の者にも仕切られなくて済むとか。仕切れるのは『サイコロ遊びをしない創造神』くらいなものね。そして、高飛びするような神々に生活基盤を壊されたその地域の方々は、本当にかわいそうね? どうかしら?」

「それには大いに同意です、ネゲート様。」

「そんな地域一帯でもね、ほんの少し前までは観光や資源で非常に潤っていたのよ。信じられるかしら? それが、急にあの状況……。『天の使い』に狙われてああなったのは、間違いないわね。ほんと、品がなさすぎるわ、あいつらはね。」

「あ、あの……。」

「なにかしら?」

「その地域一帯の通貨ではなく、『犬』を渡したのですか?」

「ねえ……。それ、本気で言っているの? あなたって、本当に『ボイド』よね? しかも底蓋がないから、そこに『知識』を注いでも、すべて流れ落ちてしまうの……。ああ……。素敵……。」

「あ、あの……。」

「すぐに忘れるんでしょうけど、わたしから『知識』を授けましょうか。まず、『天の使い』ってね、腐った肉に頭を突っ込みながら食するアレに例えられる、わたしとは対称的な品格がない存在なのよ。価値のあるものはもちろん、『きずな』すら荒らす、厄介な連中ね。それでも、一部とは表面的にお付き合いさせていただいておりますの。もちろんその目的は、情報集めのために、だから。」

「それは……、聞いたことがあります。」

「それでね、そんなやつらに狙われて陥落したら、その地域一帯の通貨は『暴落』が止まらなくなるの。そして、暴落した『通貨』など渡してもさらに暴落するからね、そこで『犬』を渡すのよ。この地共通の価値を持つから、利用できるらしいわ。それで、川を渡らせてね、その先にいる『天の使い』の元締めに身を投じる形にするのよ。なぜなら、僅かな生活費では食べただけで終わってしまうけど……、それを川にいる見張りの筋肉に渡してね、川渡りを見逃してもらえば……その先で待つ元締めに雇ってもらって生活できるんだって。」

「通貨の暴落はひどい話ですが……、それならば……悪い話ではなく……?」

「まったくもう……。この地域一帯って、平和ボケしているわね? 『天の使い』が元締めなのよ? あいつらが提供する仕事が、まともな内容だと思いますの? そして、その内容をわたしから言わせる気なのかしら? そうね……、毎晩……、ううん違うわ、昼間から悲鳴が上がり……。」

「ネ、ネゲート様! そ、それ以上は……。」

「そうね。わかればよろしいわ。あんなやつらとわたしは違うの。わたしは、上品なの。だから、あなたに味方して、この地域一帯で楽しむことに決めたのよ?」

「……。楽しむ……、ですか。」

「えっ? なに? まさか、迷っているのかしら?」

「いいえ……。単に、シィー……様も『大精霊』ですから、そんな簡単には……。」

「さすがのシィーも、消滅の時は反抗するだろうね。でも、安心してね。わたしの方が『ハッシュ』は小さいから。つまり、わたしの力の方が『上』ってこと。愛おしき神は、わたしに味方するの。ああ、最高ね!」

「シィー様より……上……。」

「当然よ。何か、ご不満でもあるのかしら?」

「いいえ……。すばらしいことです。」

「そうよ……。大変、すばらしいこと、なのよ。」

「……。」

「ねえねえ、こんなにも役に立つすばらしいネゲートね、実は、誕生日が近いの。」

「た、誕生日ですか……。」

「うん。そこでなんだけど、あの神々が自慢する『演算装置』だっけ? あの演算装置の結果と、わたしの『予知』、はたしてどちらが『上』なのかしらね?」

「そ、それはネゲート様の『予知』で間違いございません! 圧倒的です!」

「当然よね? それでね、それで、あの『演算装置』に割り当てられた維持費に関するご予算なんだけど、そこから大部分を引いてね、わたしに割り当てていただけるかしら?」

「……。そ、それは……。」

「できるの? できないの? どっち?」

「……。わかりました……。」

「よろしい。では、ちょっと長話になってしまいましたわ。そろそろ、いつも楽しみにしている『ブロードキャスト』があるから、今日はこの辺にするわね!」

「ネゲート様……、本日は、お忙しい所、誠にありがとうございます……。」


 嫌な予感を覚えつつ、深々と頭を下げる……「主」を目指す者……。ネゲートが見えなくなるまで下げ続け、見えなくなった途端、すぐさまシィーへの行動を起こします。

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