396, かなり血は流れたけど……致命傷にはならなかった。ほんと、あと数ミリずれていたら、もう終わってたわ。
「おまえ、強すぎだって……! 一体、何手先まで読んでるんだよ。」
「わたしは女神よ? ほら、また一つ……、駒が自由に動けるようになってきたわ。」
「どうなってんだよ、これ……。」
なんていうか、そう。覚醒してから、心にゆとりができたのよ。だから今日は、あいつとちょっとしたゲームを楽しんでるのよ。こうやって、駒を動かして相手の陣地に乗り込み、相手の長を討ち取れば勝ち。わたしにとっては、すごく単純なゲームよ。なぜならわたしは、もともと演算を司る大精霊だったのだから。
……よって、何度やっても結果は同じ。変わるわけ、ないのよ。ふふっ。
「あら? まだ続けるのかしら?」
「くっ……これはダメだ……! だがな、ここで俺だって『秘策』を用意してきたんだ。さあ、俺の代わりに登場してもらおうか……。」
「秘策? しかも代わりって、誰よ? ……えっ、ちょっと……。あなた……、量子アリスじゃない!?」
な、なによ……。ちょっと待って。量子アリスが、いきなり現れたんだけど!? 今日はコンジュ姉と一緒に、各地を巡ってるはずではなかったのかしら……?
「女神ネゲート様。予定が急遽変更となり、こちらに現れることになりました。」
予定が変更って? ……闇の勢力側に動きがあったってことかしら? ……まあいいわ。今さら慌てても始まらないもの。
「……。えっ、なに? そんなに、女神として覚醒したわたしが珍しいわけ?」
「はい、それは当然です。そのことはマッピングでも、連日トレンドを独占していますからね。あれだけ朝から何かと騒いでいた女神ネゲート様が、今ではこれほどまでに落ち着いている。それはもう、誰だって興味や観測の対象にしたくもなりますよ。」
「……。ねぇ、そこまで言う……?」
もう……。量子アリスったら。
「……ですが、女神ネゲート様。朗報もあります。一部の……、ええ、なんというか……女神ネゲート様の『熱狂的な信徒』、いえ……ファンの方々でしょうか……。今回の件を受けて、今まで以上に『女神の通貨』をたっぷり買い付けると意気込んでおりました。あの目は……本気です。本気。……本気です。」
「ちょっと……。そういう、おかしな話はやめて、ね?」
「ああ、それはいるだろうね。イベントとかでも、やたら興奮しているのが常にいたし。」
「……もぉ……。」
そう……あの日、あの瞬間。わたしは、確かに狙われた。狙ってきたのは……間違いなく、闇の勢力よ。でもね、三つの偶然が同時に重なったの。それらが奇跡のように繋がって……ぎりぎりで、わたしは助かったわ。
かなり血は流れたけど……致命傷にはならなかった。ほんと、あと数ミリずれていたら、もう終わってたわ。
……。たしかに……。シィーが暴走したことで壊れた相場の修復も、その出口戦略も、そして量子の精霊が暴れ始めた件も……、いまだに解決の見通しすら立たないわ。正直、わたしは苦しい立場にいる。でも……それでも、信念は変わらないわ。つまり、神託も変わらない。
とにかく暗号を集め、闇を祓う。そこからすべてを一つに束ね、新たなる力とし……壊れた相場を支える。それが、わたしの選んだ道よ。
でもね。こんなふうに、楽しい時間だってあるの。それはきっと……今、現実に「わたし」がここにいられるから。もし、あのとき……やられていたら、こうして笑う時間も、誰かと話す時間も……全部、なかったのよ。
……よって、信じているから。首元に、かすかに残る古い傷跡……。その痕にそっと指を添えながら、わたしは静かに、心の奥底で誓った。




