395, この対立構造の構築に、「仮想短冊の通貨……仮想通貨」が絡んでいるということだ。まったく……、この展開までも計算に入っていたとは。やはり、古の大精霊様の明晰なる知略には敵わぬ。
それにしても……なんという事態だ。量子を含めて断言できるが、あの領域だけ……どうにも時間の進み方が異なる気がしてならない。そう、その進み方があまりにも……早すぎるのだ。
そして、その漠然とした予感は、やがて最悪の現実として姿を現した。我らの諜報機関より、衝撃的な情報がもたらされたのだ。……どうやら、時代を担うあの女神が、覚醒したという。
……覚醒だと? 嘘だろ……? なぜこの「絶妙すぎる」タイミングで、そんなことが起きてしまうのか? これについては、確率論すら入り込む余地がない。つまり、本来……起こるはずがないのだ。
時代を担うあの女神の覚醒とは、それ自体が……終末を予兆させるエピソードに他ならない。……考えすぎか。だが、こういうときに限って当たるのが現実ってもんだ。
ところが、そんな予兆は……確かに、ある。
あの女神と、闇に属する女神コンジュゲートとの関係……あれから何度考えても、これだけは読み解けなかった。水と油のように正反対の立場でありながら、どうやって均衡を保っているのか? それでもあの女神は、闇には染まっていないとされる。……ならば、いったい何が起きている?
ただ、古の大精霊様は「あの女神の覚醒」の報を受けても、実に上機嫌であられた。正直、こんな内容では……覚悟を決めた精霊がいてもおかしくはない。実際、諜報機関の中にも緊張が走っていた。だが、古の大精霊様の見解はまるで違っていた。
どうやら……「おまえたち。そうであれば、我らの策略によってあの女神をうまく動かせ。その動きが闇とぶつかり、あの強大な闇の勢力の戦力を大きく削ることになるだろう」と。
しかも、あの女神と絡んでいる、時代を創るとされる大精霊は、闇を激しく憎んでいる。実際、時代を闇から奪取したのだから、それも当然か。そのため、あの女神が動けば、その大精霊だって、激しく闇を攻撃するさ。
ところで……まったく、どうしてあれほどまでに単調なのか。だが、それでこそ好都合。確かにこれで、闇の勢力は弱体化する。ただ……、その隙を狙っている、別の勢力の存在は眼中にないらしい。その勢力って? ははは。まあ、我々としては実に都合よく事が進んでいるというわけだ。
古の大精霊様が上機嫌なのも、それが理由なのだろう。こちらから動かずとも、あの女神が勝手に闇に突撃してくれるのだから。その上で、弱った闇の断片を……すべて頂戴するのは、我らというわけだ。
つまり、だ。相手陣営内部の対立を煽り、共倒れへと導く。そして、弱り切ったところを我らが頂戴する……そんな古典的な策略さえ、あの女神は理解していないのだろうか。
これほどのこと、古の時代より繰り返されてきた典型例に過ぎない。我らを「空から精霊で包囲」しようとしている割には、その中身ときたら……この程度だ。
ただひとつだけ、いつもと異なる点がある。それは……この対立構造の構築に、「仮想短冊の通貨……仮想通貨」が絡んでいるということだ。まったく……、この展開までも計算に入っていたとは。やはり、古の大精霊様の明晰なる知略には敵わぬ。ただただ、頭が下がるばかりだ。
それにしても、「仮想短冊の通貨」……すなわち、仮想通貨とは実に奇妙な存在だ。その呼び名ひとつとっても、何を信じ、何を恐れているかが浮かび上がる。
ある者は、そのまま略して「仮想通貨」と呼び、またある者は、暗号の性質から「暗号通貨」と呼ぶ。そして……ごく一部の者たちは、これを「女神の通貨」とすら呼んでいる。
この通貨が、今後どのようにこの地と交差してゆくのか。それによって……西側を陣取る風の精霊たちの命運は、否応なく定まることになるであろう。




