390, 量子の精霊って、とにかく口が堅いのよ。ちょっと探るくらいの軽い質問。それくらい、教えてくれてもね? しかし返ってくるのは「秘密」だの、「そんな量子演算が実現するのは半世紀先だよ」だの……。
「これが、本当のわたし……?」
くすっ、と笑みがこぼれる。
「……なんてね。でも……。」
胸の奥、静かだったはずの領域に、確かに新たなる風が吹き始めているわ。それは、これまでのわたしとは明らかに異なる流れよ。それでも、不快ではない。むしろ、妙なことに……心地よいわ。
「……おかしいわね。闇に触れたはずなのに……、あれほどの量子の絶望を感じたのに……? それなのに、なぜか今のわたしって、以前よりもずっと『静か』でいられるの。」
その感覚は、恐怖でも陶酔でもない。もっと……澄み切った、透明な意志よ。
「これが、わたしのカーネル……? それとも、何かが重なっているのかしら……?」
さて……シィーの演算結果についても、静かに受け取ることができたわ。たしかに、いくつか気になる「偏り」はあった。でも……そうよね? あのうっかり漏れた量子の情報のおかげで、十分に対策可能と判断できたのよ!
ふふっ……量子の精霊も、以前のわたしみたいに……少し、甘かったようね。でも、こういう分野では、その「少し」さえも、見逃してはもらえないのよね。
だって、それは……。事がここまで進んでしまった原因のひとつでもあるけれども、量子の精霊って、とにかく口が堅いのよ。ちょっと探るくらいの軽い質問。それくらい、教えてくれてもね? しかし返ってくるのは「秘密」だの、「そんな量子演算が実現するのは半世紀先だよ」だの……。
あの頃のわたしは、そんな言葉を……疑いもせず、受け取っていた。……それが、何よりの問題だったのかもしれないわね。
もちろん、そんな探り方が良くないのは十分に承知しているわ。でも……量子の問題って、チェーンだけでは済まないのよ。暗号……その根幹に関わる、すべてのセキュリティに直結してくるわ。
そのため、ある程度は開示してくれないと……ね? 備えることさえ、できなくなるんだから。