389, 女神ネゲートが覚醒しただと……? あやつを闇に染めることすら叶わず、逆に覚醒を許すとは……まさしく、痛恨の失態だ!
闇の勢力を束ね、忠実なる下僕どもを着実に揃えつつあった邪神イオタ。その緻密な計画を揺るがす報が、思いがけぬ形でその耳に届いた。それは……予期せぬ、最大級の失態であった。その責めの矛先は、闇に身も魂も捧げたはずの魔の者たちへと向けられた。彼らは「忠誠」の名のもとに集められ、邪神イオタの前に、容赦なき咎を受けるために呼び出されたのだった。
「女神ネゲートが覚醒しただと……? あやつを闇に染めることすら叶わず、逆に覚醒を許すとは……まさしく、痛恨の失態だ!」
邪神イオタの怒号は、闇の全土に轟き渡り、空間そのものを震わせた。その残響はなおも収まらず、闇に生きる者たちの背骨を凍りつかせる。
「我が主、邪神イオタ様……。ま、誠に……申し訳ございません……。」
「ほう……。おぬし、それでも『魔の長』に匹敵する名で呼ばれているのか?」
邪神イオタの声は、怒りの波動をはらみながらも、冷ややかな静寂へと転じていた。その冷酷さこそが、真に恐ろしいものだった。
「この期に及んで、言い訳など聞きたくもない。……おぬしら魔の眷属どもは、あの女神が力を注いでいた通貨に心躍らせていたと聞いておる。なぜだ? 言ってみよ。」
「そ、それは……。預かった価値を……、返さずに済むから……です。」
「……ほう。それは見事な『ポンジ』だな。我も深く感心していたところだ。そうだな、『魔界』……あの耳障りのいい名で、よくもまあ多くの虫けらどもを誘い込んだものよ。愛らしさの仮面を被りながら、背後では価値をむさぼり続けるとはな。ふん……その詐術だけは評価してやる。だがしかし、それ以外は……すべてが愚かだったがな。」
どこからともなく、冷笑が……闇に響いた。
「それは、その……。……申し訳ございません。すべて、魔の慢心のせいで……。」
「何度も同じことを言わせるでない。この期に及んで、言い訳など聞きたくもない。今となってはただの愚行。あの女神が神託を注ぎ、新たな通貨としての核を築こうとしている今……おぬしらの誤魔化しなど、もはや通用せぬ。」
「ご、御無礼をお許し……!」
「おぬしは、我の援助が足りぬと嘆くのか。……まったく、我のかわいい下僕たちからの供物では、満足できぬと申すか!」
「そ、それは……!」
「よいか……この地における『ファースト』は、他ならぬ我だ。長きに渡る闇の尽力により、あの忌まわしき本位制を打ち砕き、ようやくの末に手にした『不換なる通貨』。そして……それがついに実を結ばんとする、その矢先……あの女神が覚醒した。闇の深き策略を忘れ、ただ価値を引き抜くだけの器と堕したおぬしらに……『魔の眷属』を名乗る資格など、もはや……ひと欠片すら残されてはおらぬ。」
邪神イオタは、その視線だけでその場を支配していた。そのような力で闇すら砕くその存在すら、女神ネゲートの覚醒により、初めて「計画の修正」という不名誉な選択肢を強いられた。
「……それにしても、なぜだ。どうして、あの女神が覚醒などという異常を……そんなファクタ、存在するはずがない。量子による絶望に沈み、闇に染まる。それが筋だったはずだ……。おかしい……何かが、おかしい。」
邪神イオタの眉がわずかに動く。それは、絶対者に許されざる「迷いの兆し」だった。
「……我が感知し得ぬ、特別な作用が……? まさか……この我の認識すら欺く何かが……?」
……その時だった。闇の空間を割くように、黒き羽音が空気を裂いた。そして、邪神イオタのすぐ近くへと、ひとつの影が……舞い降りる。そう、闇に属しながらも、比較的独立した因子……「闇の女神」と呼ばれる存在……女神コンジュゲート、その者であった。




