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387, どうやら、量子の精霊は情報を出し過ぎたようですね。女神様を追い詰めているという高揚感に酔いしれ、つい口を滑らせたのでしょう。それが……、あの「二千四十八ビット」の件だったのだと思います。

 シィーさんに頼まれて……ようやく、こいつをここに連れて来ることができました。シィーさんの演算は完了した。そのことを、伝えるために……。


「あの……、その雰囲気、本当に……あの女神ネゲート様、なのでしょうか? まるで、見違えるほどに……。まさか、ここまで変わられるなんて……。まるで別の方のようですわ。」

「……ふふ、そう言われると、ちょっと照れるわね。でもそれなら……あの頃のわたしは、シィーにはどう映っていたのかしらね?」

「そ、それは……。その……。」

「なんて、冗談よ。大丈夫、女神としてちょっと覚醒しただけだから。わたしはちゃんと、わたしのままよ。そんな急に一気になんて変われるわけないし……。今まで通りで、お願いね。わたしは変わってしまったのではなく、本来の自分に戻っただけ。この時代がそれを引き出した。それだけのことよ。」


 ……。今まで通り、か。その言葉を聞いて、思わず肩の力が抜けた。気付けば、ちょっと嬉しくなっている俺がいた。


「女神ネゲート様。そのようなお心遣い、誠にありがたく、身に余る思いでございます。心より御礼申し上げます。」


 ネゲートは一瞬だけ目を細め、でもすぐに真剣な表情に戻る。


「それでは伺うわ。推論による演算の結果は……どうだったのかしら?」


 その一言に、場の空気が張り詰める。


「はい、女神ネゲート様。結果として……まず、非常に興味深い考察が得られました。」

「考察……? それは、どういうことかしら?」

「どうやら、量子の精霊は情報を出し過ぎたようですね。女神様を追い詰めているという高揚感に酔いしれ、つい口を滑らせたのでしょう。それが……、あの『二千四十八ビット』の件だったのだと思います。」


 ああ……なんだか、俺には無縁の世界のような空気に包まれ始めた。でも、それでも……わかる部分はある。それは、量子の精霊という存在だ。そう、それって……量子アリスも含まれている、だよな? つまり……ええと……、やっぱり、よくわからん。


 ちなみにネゲートは……あっという間にこの空気を読み取っていたらしい。それで、あの強気な表情がじわりと浮かんできた。こいつは表情に出やすいからね。……やれやれ、こういう状況になると、やっぱり頼もしいな。


「二千四十八ビット? つまり、量子ビット数の削減で騒がれていたあの件ね……。なるほど、そういうことね。わたしを追い込んだつもりが、逆に墓穴を掘ったのは、量子のほうだった……。そんなところかしら?」

「はい、女神ネゲート様。量子ビットの削減を誇示して、量子の進化を大々的にアピールしながら、女神様を圧迫する作戦だったようですね。しかし……、ここが重要なのです。今回の情報、よくご覧ください。あまりにも具体的過ぎるのです。二千四十八という数値まで出したとなれば、それを実現するためにどのアルゴリズムへ、どこまで踏み込んだのか……まるで手の内を見せてしまっているようなものです。」

「……それで、喋りすぎたってことね。」

「その通りです。今までは、抽象的な『量子の可能性』という言葉だけが先行していました。量子ビットの数はもちろん、あの有名なアルゴリズムの話まで、ぼかして語るだけで、肝心な部分は一切明かしてこなかったはず。ですが今回は違います。具体的な数値、具体的な応用範囲まで……あまりにも開示し過ぎた。……女神ネゲート様、これが私の導き出した、ひとつの考察です。」


 これはまさに、口は災いの元……か。量子の精霊でも、やっぱり口が滑るんだな。はは、意外と「人間」くさいじゃないか。

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