386, たしかに闇は、出金不能には至っていないわ。しかし、その代償となるインフレを巧妙に覆い隠し、額面だけを整えて、あたかも正常であるかのように返しただけなのよ。
いやはや、随分と回り道をしたもので……、闇が「今でも恨まれている本当の理由」に辿り着くだけで、この長さ。やれやれ……女神として覚醒すると、話が長くなるのかな? なーんてな。
「さて、これでわかってきたはずよ。たしかに闇は、出金不能には至っていないわ。しかし、その代償となるインフレを巧妙に覆い隠し、額面だけを整えて、あたかも正常であるかのように返しただけなのよ。それでも不思議なことに、戻ってきたように見えるわ。ところが……、その額を手にした瞬間になぜか少なく感じる。それは気のせいなんかではなく、価値の本質そのものが崩れていたってことだわ。」
なるほど、それで……未だに闇は恨まれているってことだね。表面上は額面通りに動いているように見えても、実態は違う。闇が出金不能に至っていないことに目を奪われるな……本質は別にあるんだな。
「でも……。邪神のパワー、そこは凄まじいね。」
「当然よ。だって、邪神だもん。」
「……。そうだった。」
「それでも根っからの『売り売り』だったシィーは、そのような邪神に便乗して売っていた。まったく、本当に『売ることしか頭にない』なんて。でもそのシィーですら、これは本当にまずいと感じたらしくて……急に言い出した『買いの容認』という謎の概念。そんなの、なによそれ? ……と、皆が呆れるレベルの異常事態よ。ほんと、女神にこんな不始末まで投げてきた時点で、もう破綻してたってことよ。でも、今後のわたしは、冷静に対処するだけよ。さて、そのシィーによる演算の結果……気になるわ。でも、もう大丈夫。」
「もう大丈夫」という、その言葉に、深い安堵を覚えた。やっぱり、心配だったのだ。この先、量子による女神への攻撃は、きっとさらに激しくなる。でも、それって……相手が焦っている証拠と考えることもできる。結局のところ、考え方ひとつで状況なんていくらでも変わるのさ。
「それでは、シィーの元に向かいましょう。今、シィーに連絡したら、ちょうどいいって返ってきたわ。」
ネゲートはそう言って、わずかに微笑む。その表情には、安堵と覚悟、そしてほんの少しの緊張が滲んでいた。
「……準備が整ったってことだね?」
「ええ。きっと、わたしたちがそこに来ることも含めて、全部わかっていたのでしょうね。」
ネゲートが静かに言葉を残し、歩を進める。俺も、その小さな背を追った。薄暗い通路の先、わずかに開いた扉の向こうから、演算の残響が微かに残っている気配を感じた。
「それでは……心の準備はいい?」
ネゲートの声が、少しだけ硬くなる。
「ああ、行こう。」
何が待っているのか、それはわからない。それでも、そこでどんな真実が突きつけられたとしても、今のネゲートなら、きっと受け止められるだろう。




