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385, 誰がどう見ても愚策とわかるような決定。民の声が無視され、搾取が見過ごされる制度。どれもこれも、まるで「危機的状況」を維持するために選ばれているみたいだった。

 でも……それでもさ。邪神とはいえカネを動かしているのだから、出口戦略くらいはどこかに用意されているんだろ? まさか、本当に何も……ってことは、ないよな……?


 しかし……相手は闇だ。壊すこと、それ自体が目的の一つだとすれば……出口戦略なんて、ただの飾りかもしれない。そう……ふと、そんな気がしてきた。


「というか……。そのような価値の強制吸収に対する『出口戦略』って、本当に存在しているのか? 一応さ、表向き……って言うべきなんだろうけど、インフレの動向って定期的に出されているよね? それで……まあ、『よくやっている』と。そういう評価が、どこからともなく流れてくる。……どうなんだろうな。あれら、本当に中身があるのか?」

「……あら、わたしに『邪神の出口戦略』について聞いているのかしら?」


 ネゲートは小さく笑った。だが、その瞳は笑っていなかった。


「そんなもの……初めから存在しないわよ。唯一、あるとすれば……このような邪神との契約を今すぐにでも断ち切ること。それだけよ。」


 ああ……。やっぱり、ないんだな。出口なんて、最初からね。


「邪神の下僕となった精霊たちは……『満たされぬ腹』を持つとも言われているのよ。その飢えた腹に、本来は民が得るはずだった『未来の価値』を強制吸収したのち、そのままずっと、その腹に流し続けているわ。つまりこれは、戦略どころではないの。そもそも、出口が存在していない。……これで、わかったかしら? この構造を壊さない限り、終わらない。そして、その代償のインフレで……いずれ暴走するわ。」


 ……インフレで、いずれ暴走する。ネゲートの言葉が、頭の奥で繰り返されていた。


「それでね、そこまでの出来事をこの地は見通していたの。それで……女神が現れたのよ。」


 ネゲートは、静かに言い切った。……。


「それでね、インフレで暴走した後かしら……、安価な労働力を蔓延させることで、この地を完全な『闇』に落とす。それにより女神は……息絶え、消滅する。あとは、邪神の思いのまま。……それが、闇の時代に用意された『結末』だったのかもしれない。つまり、『出口』そのものすら破壊する。出口がなければ、『出口戦略』なんて不要でしょ?」

「……ああ。思い当たる節しか、ないよ。」


 やけに都合よく現れては、すぐ消える、あらゆる問題。誰がどう見ても愚策とわかるような決定。民の声が無視され、搾取が見過ごされる制度。どれもこれも、まるで「危機的状況」を維持するために選ばれているみたいだった。そう……女神が必要とされ続けるために。


 そうやって……女神をおびき寄せて、消滅に追い込むだなんて。……、そんな巧妙な仕組みだったなんてな。……改めて、底知れぬ恐ろしさを感じたよ。


「でも、何とか今は……闇の勢力から時代を引きはがしたわ。わずか一瞬だけ……首の皮一枚で、つながった。……そう、思いたいところ。そう……女神なんて、そのお片付けが役割みたいなものね。いつだって、こうして『壊れたあと』に呼ばれる。壊れる前に止めてほしい? ……ふふ、それは無理な話よ。」


 ネゲートはそう言って、ほんの少しだけ、微笑んだ。だがその微笑みの奥には、誰よりも深く知っている者の、悲しみと疲れが滲んでいた。

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