37, 旅行キャンペーンの温泉旅行で、次は、えっ? なになに? 「合い言葉」を利用したら「すぐに白で塗り潰せ」だって……。それにしても、フィーさんって一体何者なんだ……?
結局……、あの不気味な存在の条件を半ば強引にのむ形で、「リョウテイ」を後にしました。油断は厳禁と心に深く刻んでも、まるで別の何かに豹変するような者が相手では、どうしようもないですね。
そして、お部屋に戻る過程で……、フィーさんのちょっとした本音を伺うことができました。この旅館、別館まで備えていて、とくかく長い通路ばかりです……。まさか、それがこんな所で役に立つとは、です。
「フィーさん? あれは仕方がないよ。最も大切なシィーさんの命を引き合いに出されてしまったのだから。気にしなくてもよいよ。なんとか、なんとかなるさ!」
「ディグさん……。わたしは、弱いのです。それで、色々な犠牲が出てしまうのです、わたしは、弱いのです。わたしは……、なのです。」
歩きながら、肩を落とすフィーさん……。
「俺さ、ここに来たばかりの頃……フィーさんに話したよね? たしかに、割り切っている奴の表情は、なんか信用できないというか、あんまり関わりたくないというか……だったよ? ただ、この地に来てから時間だけはあるからさ、残った記憶を参照しながら考えてみたんだ。そいつらもさ、結局は『妥協』だったのかな……と、考えられるようになってきました。そう……『妥協』だよ。それで、完璧を求めすぎると上手くいかないんだよ。なぜなら、相手の理想と自分の理想は異なるからね、完璧を追及したところで相手がグレイトとうなずくとは、限らないからなんだ。」
「ディグさん……。これも『妥協』、なのですね?」
「そうだよ。ただし、避けることができない『妥協』ね。なぜなら、あのような交渉で、姉さんは犠牲になっても仕方がないとか言い始めたらさ、ドン引きでは済まないよ。それこそ、関わってはいけない輩に変貌してしまった、だよ? そして、俺が知っている限りでは、その割り切っている奴らだってね、例えば力を得るために姉を差し出す事はしないよ。あくまで、自分を差し出すまで、だったよ。例えば、好きではない者と……とか。あっ、これについては、歩きながらするような内容ではないね。」
「好きではない者と……、なのですか。」
「フィーさん……。いまのくだりは、忘れて!」
俺は、フィーさんを相手に、何を言い出してしまったんだ……。ちょっぴり後悔です。
「ディグさん……。はい、なのです。余分な情報は……、白塗りして、塗り潰しておくのです。」
「フィーさん……?」
フィーさんに笑顔が戻ってきました。それは良かったのですが、「白塗り」するって……? また、謎に包まれた言葉が出てきました。たしか、「天の使い」が書物を荒らしていた、あれ……ですよね? まあ、フィーさんはいつもこんな調子なのですが、これについては特別に何かが引っ掛かります。特に、『余分な情報を塗り潰す』という部分の真意について、です。単に「忘れます」の一言で済むような場面ですら、これですからね……。
「フィーさん、『余分な情報』……って?」
「……。はい、なのです。それは、『最適化』の弊害というもの、なのです。」
「えっ……、ああ、はい。」
……。ここで、「最適化」が出てきてしまった。俺……、また油断しました。フィーさんから一度でも飛び出したフレーズは、その後も、何かしらの作用を伴って絡み合ってくる……と推測します。その論理は……まず「最適化」が最初に出てきた段階では、未作用の状態で保管するために、一旦、「仮の容器」と言うべきものにそのフレーズを「縛り付けて待機」させます。そして……、このような別の機会で、その容器が突然作用して「楽しい時間」が始まってしまう。なんとなくですが、流れは掴めてきました。
それにしてもさ、フィーさんって、一体何者なんだ……。今まで何気なく過ごしてきましたが、さすがにそちらも気になってきました。もちろん「精霊」なのですから異なるのは当たり前です。それでも、それ以上に何かが違うと感じ始めました……。そんな風に思い始めたのは、「リョウテイ」でフィーさんが手をかざした時に、その先に映り出した「犬」の画面をみたときからかな。明らかに、俺らのような「民」とは、何かが違う。いえ! なにもかも違う。うん、絶対に根本から異なる「存在」です。
さて……、作用してしまったのでフィーさんの「楽しい時間」が始まります。おっと、俺には似合わない考え事していたので、自分でも気が付かないうちに、その場に立ち止まっていたようです。フィーさんが手を引いてきて、気が付きました。
「ディグさん? 大丈夫なのですか?」
「……、ああ、大丈夫だよ。」
「それでは、なのです。」
「えっと……『最適化』だっけ?」
「はい、なのです。これは、余分な論理を削除する過程について『最適化』と呼ぶのです。」
余分な論理を、削除……? つまり、必要ない部分は消すのか? なるほど。
「余分な論理……、そんなのがあるんだ?」
「はい、なのです。例えば、そうなのですね……。机の引き出しを思い浮かべてください。」
「引き出し?」
「はい、なのです。その机の引き出しには『上』と『下』があるのです。そして、いつも『下』から中身を手に取っている機会が多く、使いにくいのです。」
「……。それなら、中身を入れ替えれば、楽になるね? それなら、常に『上』からになるから。」
「はい、なのです。そこで、中身を入れ替えるのですが、その論理はどうなるのですか?」
えっ……? 引き出しの中身を入れ替えるだけの作業にも「論理」が求められるの?
「そうだね……。上と下の中身を、一時的な場所に取り出して、それから入れ直す。」
簡単なことだよね? でもさ、改めて「論理」を求められるとさ……、慎重になってしまいます! 全てを一時的な場所に置いて、入れ直すしかないよね? うん、これで間違いないよね?
「はい……、それでも問題はないのです。」
「それでも……?」
「はい、なのです。でも、もし引き出しの形状がすべて合致しているならば、引き出し自体をそのまま入れ替えることができるのです。」
「そ、それは……。ずるいよ。なんか……。」
引き出しごと入れ替えるのは、あり、なのか。ちょっと悔しい思いを「初めて」しました。この「楽しい時間」で、そんな気持ちを持つとは……。少し酔っているせいもあるのかな?
「はい、なのです。引き出しごと入れ替えが可能ならば、そうすべきなのです。なぜなら、一時的な場所に置くという事は、その場所が『汚れる』ことを意味するから、なのです。」
「えっ? 汚れるって……?」
そういや、俺の引き出しの中は常に、誰にも見せられないほど荒れていたからね。……。あれらを外に引っ張り出して入れ替えるなんて、苦痛以外にも、何でもないです。
「引き出しごと入れ替えるには、事前にその引き出し自体の調査が必要になるのです。そして、その調査が煩雑な場合、実は……一時的な場所に置くのが一番簡単なのは事実、なのです。ところで、今回の例では「物」の移動になるので、一つも残らず移動できたのであれば、一時的な場所には何も残りません。」
「……。俺の場合は無理だよ。おそらく足らない物が出てきてしまうね。」
「そのようなディグさんでも……、その入れ替えが『情報』だったら、いかがでしょうか? 『情報』なら、どちらかを一時的な場所に『コピー』して、それから、それぞれ別の場所に『コピー』し直すだけ、なのです。」
情報って? 情報の場所を入れ替える訳?
「『情報』って……、ああ、あの事ね。」
「はい、なのです。あの神々の情報網や、『犬』などを扱う、あれら全般、なのです。」
「そういうものも、入れ替えが発生するんだ?」
「はい、なのです。そして、その使い終えた一時的な場所なのですが……、基本的に、掃除はしないのです。」
「つまり、使い終えたら、そのまま放置……? まあ、もう必要ないなら、そうなるか。」
「はい、なのです。そこをわざわざ掃除しなくても、そのまま別の『情報』を置くことができますので、わざわざ手間暇をかけてまでは片付けないのです。そしてこれも『最適化』の一つ、なのです。」
「まあ……放っておいても問題ないなら、そうなるよね。」
「しかし、なのです。それが、見られてはまずいもの……。例えば『合い言葉』みたいものが、一時的な場所に置かれた場合は、大きな問題に発展するのです。」
「それって……、『犬』でも使っていたよね?」
それはまずい。俺でもわかりますよ。俺が託された「犬」……。そういえば、シィーさんのご趣味に先ほど使ったばかりです。あの時も、「合い言葉」を脳裏に巡らせて、だった。その「合い言葉」が……、無関係な者に見られたとしたら、すぐに変えないと! です。
「はい、なのです。価値のある情報を管理する場合には、『合い言葉』の設定が必須なのです。」
「それは、俺でもわかる。」
「そのために、そのような場合に限り、使い終えたら、すぐに『白で塗り潰す』ような作業が必要となるのです。一時的な場所はもちろん、引き出しだって、その対象なのです。」
「不要になったら、どこにも残さないように……、だよね?」
「はい、それで、なのです……。もちろん、最も大事な処理が実行されるそれら引き出しの内部についての塗り潰しについては、まず忘れないのですが……、忘れがちとなるのが見逃しやすい『一時的な場所』なのです。最大限の注意で対応しても、一時的な場所を多用してしまうと、おそらくどこかに残っている……となります。それならば『引き出し自体の入れ替え』を常に検討したいのですが、こちらは……厳密に『同じもの同士を要求』されるので、なかなか条件が折り合わず、厳しいのです。」
「……。さすがに、どこかに『合い言葉』が残っている状態は、精神的に……。」
「はい、なのです。『合い言葉』を多用するものが沢山走った場合には、定期的に、全体を落としてから、再度立ち上げるのです。」
「そんな事ができるんだ……?」
「はい、なのです。そうですね……、ディグさんが寝ているときに、自動的に行われているのです。」
「えっ……。」
一瞬……、フィーさんに飼われている「何か」になった気分になりました。……、すみません。
「さて、ここからが面白くなるのです。これまでの道筋を、厳格な『最適化』にかけると、興味深いメソッドが出てくるのです。」
「今までのが厳格……なの?」
「はい、なのです。厳格だからこそ、これは利点でもあり欠点でもあるのです。今回は、融通が利かずに不必要な『情報』が残ってしまうのですから……。そして、この厳格な『最適化』と、自然な『最適化』があるのです。」
「なるほど……。よくわかりません。」
「では、しっかりと説明するのです。まず厳格は、確実に『結果についてのみ』は変わらないという保証がある『最適化』なのです。それに対して自然は、わたしの『話し言葉』のような柔らかい概念を得意とするのです。」
「ああ……、厳格の方はなんとなくわかる。しかし、自然の方はさっぱりわかりません。」
「初めてこの論理の仕組みに触れる方は、決まって、そのような意識を抱くのです。でも、恐れることはないのです。自然の方については、主に言語で利用されるために、その概念が掴みにくいだけなのです。例えば……、わたしの場合は『の、も、に』という『トークン』と、『なの』という『トークン』が特徴的だと、何度も言われているのです。そして、わたしはそれらをすべて、受け入れたのです。」
まあ、フィーさんの「楽しい時間」ですからね。さらなる話の膨らみというか……、この程度は「想定内」です。慣れています。途中で訳がわからなくなったら、決まった一言があります。
「フィーさん? 話を戻しましょう!」
「……。ディグさん? わたしの気が乗ってくると、いつも、それなのです……?」
「ああ……、いえ、そうでもないような……、ははは……。」
なんか、これって却下されたのか……、です。
「今日は甘いものを沢山いただきましたので、これからなのです。」
「……。わかりました。」
「簡単な例があるのです。『わたしはチョコです。』と『わたしのチョコです。』を比較してみてください。」
「比較すら必要ない位に、意味が異なるよ……。わずか一文字の違いなんだけどね。」
「はい、なのです。意味が異なるのです。そして、意味が異なるのは『作用』が異なるから、なのです。この場合、あらかじめ『意味を解釈させる作用を持つ論理』を縛り付けておき、『トークン』が到来する度に、その縛り付けておいた論理を作用させて、最後の『トークン』……いわゆる句点を得た瞬間に、そこまで得た論理を『意味』として解釈し、それを感じるのです。」
「フィーさん……。たった一文字の違いで、そこまでの解釈が必要になるものなのか?」
「はい、なのです。これも、『最適化』の一種とわたしは考えているのです。『最小限』の手間で、意味が伝わるように、確実に、解釈が変わるのですから。ただ……、この地域一帯はこの『最適化』が効き過ぎて、扱いにくいのです。」
「『最適化』が効き過ぎる……の?」
「はい、なのです。いわゆる決まった『トークン』が、定めにくいのです。『わたしはチョコです。』から『トークン』を取り出して作用を考える単調なモデルであっても、なかなか一つに定まらないのです。これが西の方だと、このような単調なモデルならば、一つの解釈の『トークン』を割り当てることができるのです。」
「なるほど……。納得です。」
納得? ところで、何のお話でしたか……? フィーさんもそれを勘付いたのか、または我に返ったのか、気まずそうな表情を浮かべながら、俺を一点にみつめています。
「ディグさん……。わたしは、いつもこうなのです。姉様のように、自然体にはなれないのです。」
「……。それについては、別に気にする箇所ではないよ。」
「そうなのですか……? わたしは、いつもこうなので、『色々な問題』があると……。」
「えっ? 何の問題があるのさ……?」
たしかに、フィーさんの「楽しい時間」が突然出現してしまう点は、直した方が良いのかもしれませんが、これが「問題」とは到底考えられません。
「わたしは、『正常』なのですか? それとも……。」
「フィーさん……。特に問題はないですよ。」
フィーさん……、やはり、甘いものでは回復しませんよ。一時的に回復したと勘違いしているだけです。つまり……、見た目以上に疲れているようですね。
「……。ディグさんが、そうおっしゃるのなら、本心なのですね……。嬉しいのです……。」
「もちろん。」
早いところ、フィーさんを休ませましょう。
「さてフィーさん? 今日は休もうね? シィーさんとの約束、忘れないでね?」
「はい、なのです。例の件の説得は、できれば住み処に戻ってからにするのです。なぜなら、外部でうっかり口に出すのも、避けなくてはならないから、なのです。」
「もちろん。かなり重要な情報だよ……、それは。この地の銘柄を触っていなくて良かったよ。」
「ディグさん? そんなのは当然、なのです。」
「ああ……はい。」
「わたしは、今日はしっかり休むのです。新しい定義からなる『確率』は気になるのですが……、しっかり休むのです。」
「……。ちゃんと休んでね。そこはお願い、ね?」
今日はね……、シィーさんに、フィーさんの例の件を告げる日だからね。その「確率」なんかよりも、大切な事なので。何度も心の中で覚悟を決め直しています。でもシィーさんが……、代わりが存在しないほどの「大精霊」だったとは……。治療法とかについても、きっと、いや、必ずあるはずです。頼るときは、思いきり頼らないと! 水くさいのはダメだよね。
「それにしても、長い一日だったのです。」
「それは同感です……。あの移動の力だっけ? あれが、裏目に出たのかもね。」
「裏目、なのですか?」
「うん。実は……、この地で脳裏に映し出されたり、フィーさんが手をかざすと出てくる例の画面のようなもの……、俺の故郷にもあったんだよ。まあ、それでトレードしていたからね。さすがに残っています。もちろん、所々は抜け落ちて、多少はぼやけていますが……。」
「……。それは、あるはず、なのです。」
「えっ……、と?」
意外な反応でした。驚くのではなく、あって当たり前な……、そんな感じのそっけないお返事でした。どうしよう……。何を返せば良いのかな?
「それでね……、そこには今までにはない未知なる体験が詰まっていてね、はじめのうちは……、これでみながつながると、それこそ便利なツールでした……。しかし、時間が経つにつれ、どんな情報にもありつけて、最短で何でも手に入ってしまう状況が、逆に不便というか……。ほら、例えば連絡を入れるときもさ、常に相手とつながっているわけだから、相手から、早い段階での返信を期待してしまうわけで……。そういうのが繰り返され、次々とやるべきことが増えていき……、時間を節約して、時間を獲得したつもりが、それらを詰め込んでいく度に息苦しくなっていく……、だった。それらと、今日の疲れが似ています。結局、移動時間がない分を、休みに使える訳ではないからね。」
「それはまるで……、みなさまが『風の精霊』、みたいなものですか? マイナス面もありますが、きっと、有用に活用してきたはずなのです。純粋に、すごい……なのです。」
後ろで両手を組み、フィーさんらしくない無邪気な笑みを浮かべていました。
「フィーさんって、そういう反応をするんだ?」
「えっ……? は、はい、なのです。」
今日の俺は、「都の支配者」からはじまって、「ミィー」を説得し、「天の使い」を必死にかわして、「シィーさん」と買い出し先でトラブルになって……、それから「筋肉」とも話して……、そして最後は「予知」が絡む不気味な存在と「リョウテイ」……。そして最後の最後は「最適化」です。とても内容が濃い一日でした! でも、まだ終わってはいない。シィーさんと……、です!
でも……これはフィーさんには言えませんが、あの不気味な存在に対してはトラウマになりそうです。なぜか生々しさを感じず、なんか……、触れてはいけない何かを具現化して、試しに目の前に展開してみました、かな? なんだろうね……。あとさ、あと……、俺と同じようなオーラというべきか、なんだろうね、この地に元々存在していないような……、そういった存在でした。まさか、俺と似たような経緯で……? いや、冗談でも、そんな恐ろしい事を考えるのはやめておきます。本当に……、怖くなってきました。
途中でフィーさんの大きな「おまけ」が付きましたが、護衛の筋肉が護衛する長い通路を抜けて、やっと……、安堵の場所に戻ってまいりました。正直、あの別館は空気が張り詰めていて、息が何度も詰まりそうになりました。あういう場は、場数を踏まないと慣れませんね。そもそも俺みたいな者が関われるような場所ではないのですから、これ位は仕方がないと諦めています。
そして、これだけ複雑な旅館にも関わらず、なぜか知っている方とばったり会ってしまう不思議。なんと、ミィーが迫ってきました。
「あっ、ミィーさんなのです。」
「フィー様……。ご機嫌麗しゅうございます。」
「ミィーさん? そういうのは、やめてください、なのです。」
「そのご様子だと……、話がまとまったのですか?」
「……。はい、なのです。」
フィーさんは少々とまどいながら、ミィーに返事をしていました……。
「おい、ミィー? ここで話せる内容ではないぞ? フィーさんを心配させるなよ?」
「そんなのは、わかっているよ!」
「あと、兄もな。」
「ディグ! 兄さまは、私の事を常に心配してくれていて……。」
その兄の件ね……、「主」を目指している不気味な存在に、ミィーの存在および溺愛の件までばれていたぞ。もちろん、そんな事はミィーには絶対に言えません。俺とフィーさんだけの「秘密」にします。
「ところでミィー、どこに向かっているんだ?」
「あのね……。私はもう、お子様ではないの? それこそ夜中に湯につかる事くらい、普通よ、普通!」
「へえ……、ここって夜中も湯を開放しているんだ?」
「もちろん。フィー様も、おやすみ前にいかがですか?」
「おやすみ前に、ぽかぽか、なのです。」
フィーさんはそのままミィーに手を引かれ、湯に向かいました。というか……もうそんな時間なのか。まったく、変なものに付き合わせやがって……、です。
さて、俺は……、迷わずシィーさんが待つお部屋に向かいました。
「シィーさん……。」
それから、扉を軽くノックします。ゆっくりと「どうぞ」と呼ばれます。
「では、入ります……。」
小声で入ることを告げながら、いざ、突入です……。
なぜか部屋の中は薄暗いまま……、月の光に照らされた神秘的なシィーさんが、座り込んで……窓辺から「真っ暗」な海をみつめていました。そして……。