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372, やっとの思いで方針を決めた……その矢先に、まるで狙いすましたように、新たな量子脆弱性を突きつけてくるのよ?

 なんか……動けば動くほど、相手の手のひらの上で転がされているような、そんな感覚に陥っているわ。だって、考えてみて。まず量子が投げ込まれて、それを必死に検証していって、ようやく整理を終えて、何とか難を逃れたごく一部の構造から、やっとの思いで方針を決めた……その矢先に、まるで狙いすましたように、新たな量子脆弱性を突きつけてくるのよ?


 ……これって。そう、わたし、思ったの。やっぱりこれ……量子アリスと話していたからではないのかしら? だって、わたしの状況が、闇の勢力に筒抜けになってるとしか思えない。それで、こんなタイミングで、あんな手を……。


 ううん、それは違う。そう思いたいだけ。ほんとうはわかっているの。量子の脅威なんて、今に始まった話ではないわ。こうなることは、とうの昔に予想されていた。だから、これは偶然。非常に低い確率の、でも……重なり合ってしまった偶然。そう考えるようにしてる。してるけど……それでも、やっぱりおかしいわ。


 量子アリスがわたしに妙に協力的なのも、結局こういうことを仕掛けたかったんじゃないの? わたしが苦しむ姿、それが……そんなに愛おしいってわけ? だって、だって……。


 それに、闇だって、自分たちのこと棚に上げて……わたしに言える立場なのかしら? わたしだって、このままでいいなんて思ってないわよ。でも……、一度に全部なんて、無理に決まってるじゃない。そんなこと、わかった上で、こんな投入の仕方をするなんてね……。それで、こんな事態になったのは、そもそも闇の不手際が原因でしょう? あんな腐ったものを「最高位の格付け」でばらまいておいて、結局、爆発させたわ。そのような積み重ねがあったからこそ、今こうして、チェーンのような新しい仕組みに目が向けられたのよね?


 なのに、急に「量子は今年から」なんて言い始めて、こんなことまでしてくるなんて……。ほんとうにこれって、民や精霊たちのためなの? 違うわ。これって、この時代の女神であるわたしに対する、ささやかな抵抗。そういう意味も……大きいんでしょう?


 それなら、それなら……。……。


 それにフィーですら……。無理もない。あれだけの衝撃を前にして、余裕なんて、誰にだってないわよね。だって……これだけ、要求される量子ビットの数が減ったのよ。想定していたよりも、はるかに、急激に。もちろん、今の量子ビットのスケールでは、まだ実行できるような代物ではないわ。そこは……形式的には、並行して語られるはず。「まだ現実的ではない」とか、「これは楕円曲線の話ではない」とか、ね。


 でも、それはあくまで現時点での話。もし、これがさらに進化して……量子ビット数の要求量がさらに数分の一にでも削減されるようなことがあったら……。


 やっぱり……最大の問題は、演算時間にとらわれなくて済むことね。つまり、どれだけ早く、ではないのよ。現実的な時間内に量子演算を終えられるのなら、それで十分。今すぐでなくても、いつか解が出れば、それは「正解」になってしまう。


 だって……公開鍵は逃げないもの。その秘密鍵の所有者がしっかり移動させない限り、そこにずっと残り続ける。もちろん、それを意識して定期的に動かしている方なら、まだ安全よ。でも、現実はそうではないわ。コールドウォレットで眠ったまま、忘れ去られている資産。それが、どれだけあるか……わかるでしょう?


 だから……そう考えると、あの提案が出てきたのも、ある意味では当然だったのかもしれないわね。期日を過ぎた楕円曲線の公開鍵は「無効化」する……。そういう、やや強硬的な案。実際に、出されたのよ。これは、ただの空想ではない。映し出された現実で、実際に議論されている案なのよ。


 そうすれば、みな慌てて、新しく用意された安全なアドレスへと動かすはず。でもね……こういうのは、一度でも忘れられたら、そう簡単にはうまくいかないのも、また現実よ。どんなに通知しても、どんなに警告しても……大半の方々は忘れているわ。そして、ある日ふと思い出して残高を見に行ったら、すでに無効化されていて……失われていたなんて……。そんなの、やっぱり受け入れられないわよね。

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