365, この時代の女神が率いる「風の精霊」のやり口には、心底、憤りを覚える。これは、古の大精霊様への忠誠心から来るものではない。ここにいる者すべてが、理屈抜きで、そう感じているのさ。
それにしても、この時代の女神が率いる「風の精霊」のやり口には、心底、憤りを覚える。これは、古の大精霊様への忠誠心から来るものではない。ここにいる者すべてが、理屈抜きで、そう感じているのさ。そしてそれは、時代を取り戻すという崇高な研究を託された我らだけのものではない。ここに立つ民のすべてが、同じ志を抱いているのさ。
だって……見てみろ。あの「風の精霊」の配置は、あまりにも異常だ。まさか、この地を取り囲むように精霊を並べてくるとはな。一体、何様のつもりなのだ。
建前としては、どこにいても情報のやり取りが可能になり、通常なら接触が困難な辺境地域一帯ともこれで繋がる、極めて機能的で華麗な精霊の配備という説明だった。
だが、本当の目的がそれだけだと、誰が信じる? あのようなものは、どう見ても、我らを取り囲む「古の大精霊様を含めた監視の網」としか言いようがない。もし本当にただの情報網であれば、あのような配置は、必要ないはずだ。
まあ、よい。そんな腐った時代も、まもなく終わる。あの女神の様子を見るかぎり、すでに自らの地盤が揺らぎ始めていることすら、認識していないようだ。
……ふう。あのような異物に封じられた力を、解き放ち、取り戻す。それだけの話だ。
さて。今日も、古の大精霊様に尽くすための研究が始まる。あのような激励を頂いた以上……今まで以上に、成果を求められる立場となった。気を引き締めて、精進せねばなるまい。そう思い、奮い立った……まさに、その瞬間だった。
「あたしだけど……わかる? 少しだけ、綺麗になれるように、ちょっと頑張ってみたの。」
「……。お、おう……。なんというか……そう、だな。」
これは……。彼女を一目見て、あまりの変わりように言葉が出なかった。でも……。これも、悪くはないな。
「……ちょっと迷ったけどね。でも、今だけなら……、いいよね。こんなふうに過ごせる時間なんて、たぶん……この先は、ないと思うから。」
「……ああ。そうだな。」
「それで……どうかしら?」
「そうだな……。」
唐突な問いだった。こんな空気は、こちらではあまりに珍しい。だが……たまには、こういう息抜きも悪くない。これらすべてを、西に独占される筋合いはない。
「おうおう……なんだよ、ちょっと綺麗になっちゃって。」
そんな中、元闇の勢力だった者が、軽く茶化してきた。それに反応して、彼女はどこか恥ずかしげに視線を逸らす。
……ああ、たしかに。ここで、こんな日常が続くはずもない。だからこそ、今だけなんだろうな。
「それで……ちょっと気になったんだけど。西のほうでは、こんな贅沢……毎日、誰にでもあるの……? ……あっ、違うよ。あたし、そういうのに憧れてるわけじゃないの。たまにだから、こういうのが特別に感じるってだけで……。」
そ、それは……。一瞬、空気が静止した。言ってしまった、という顔。本心を覗かれたような戸惑いと、とっさの否定。だが、それではもう、その何かには確かに触れてしまっていた。
「と、とにかく……研究に戻ろう。」
「そ、そうね……。あたし、ほんと、何言ってんだか……。気にしないでね、お願い。」
「ははは。……そんなに気まずくなるような話だったか、今ので? まあ、いいや。そういえば……今日の午後だったかな。確か、古の大精霊様が、直々にこちらへお越しになって激励を述べるとか……聞いたぞ。」
……な、なんだって!? そ、それは……! 大急ぎで準備しないと。忙しくなるぞ。全員、気を引き締めろ。
 




