361, この者は、なんなのだろうか。普段は、いたって普通。ところが時折、驚くような事を平然と口にする。それが、逆に不気味だった。ただ、やはり闇の勢力に強く加勢していたことは否定できない。
この者は、なんなのだろうか。普段は、いたって普通。ところが時折、驚くような事を平然と口にする。それが、逆に不気味だった。ただ、やはり闇の勢力に強く加勢していたことは否定できない。
なぜなら、この者の研究成果に関しては、ほんの数分でわかった。明らかに……非常に優秀だ。
……なんだろうか。これは、もしかして、たまに、わざと平凡を装っているようにすら見える。ところが、確かに闇の勢力を追われたという話は事実のようだ。
なぜだ? やはり、言動に何か、不審な点でもあったのだろうか。……それにしても闇という存在は、これほどまでに優秀な者を、あっさり手放すものだろうか?
……まあ、いい。これで、古の大精霊様に大きく貢献できることは確定した。
そもそも、ここでの研究は自由ではない。古の大精霊様への貢献、それがすべてだ。どれほど優秀であろうと、まずそれを理解していなければならない。……それが、少し不安だった。
それでも……この者は、それを自然に受け入れていた。それならば、互いに貢献しよう。そして、取り戻すのだ。我らの誇りを。……そのためには、まず「構造的忠誠」という概念を体現しなければならない。
すなわち……「冗長な自由はいらない。今のチェーンに必要なのは、上層部の命令に応じる識別子だけ。」という、この基本的な思想に基づいた成果を、ただひたすらに積み上げていく。我らが「生かされる」かどうか……、それは、すべてそこにかかっているのだ。
「……これはすごいな。これだけ情報もカネも揃ってるなら……。そうだな、いくらでも成果が出せるってもんだ。」
「一つ、忠告しておく。わかっているとは思うが、その成果はすべて……。」
「ああ、心配するな。もちろん全部、『古の大精霊様のもの』だろ? そのくらい、ばっちり理解しているさ。」
「それなら助かる。ここでは、連帯的責任という概念も強くてな。そこだけは、しっかり頼むぞ?」
「おう、もちろん。迷惑をかけるつもりなんて、これっぽっちもないさ。」
……どうやら、安心してもよさそうだ。闇の勢力とはいえ、元は西の者だ。彼らはよく、我々が「豊富な情報と資金に恵まれ、自由に研究している」と、勘違いしている節がある。
だが、現実は……そうではない。今の暮らしと引き換えに、我々はすべての成果を古の大精霊様に捧げる。それが、すべてだ。そこに自由という概念は、一切存在しない。
……それでも、ごく稀に、それに「抗おうとする者」が現れる。もちろん、その消息など……誰一人、知る者はいない。
そう……すべての成果は、古の大精霊様に帰属する。それが、ここにおける「すべて」ということだ。どうせ、西の者たちは、これに対して反論でも口にするのだろう。しかしそれは、反論を許された環境にいるからこそ、可能な行為なのだ。実際、このような環境に身を置けば、誰だって、我らのようになるさ。
……それだけは、間違いない。




