360, 今日は、どうしたのかしら? 量子アリスが悩んでいるような……そんな気配。……何か、あったの?
シィーの推論による演算結果がまとまるまでのあいだに、鍵の問題に集中しすぎて、つい放置気味になっていた……採掘の量子脆弱性についても、そろそろ手を付けておきたいところね。
……ここで一つ、重要な前提をはっきりさせておかないといけないわ。鍵の問題と採掘の量子脆弱性を「探索空間」という観点で同じように考えてはならないのよ。この違いを、どう説明するかが難しいのよね。なぜなら……鍵の場合は、たしかに探索空間という概念で整理することができる。でも、採掘に関しては、それでは対処にならないわ。
なぜか? それは、採掘のプロセスが、すでに「古典的な逆算処理として正解が出されている」からなのよ。そのため、採掘に対して探索空間という枠組みを持ち込んでも、もともと探索していない構造……「採掘の機材によって、すでに正解は出している領域」に対して、探索的な解法を持ち込むことになる。
……ここが、誤解を生むポイントなのよね。
でも、このあたりが曖昧だと、やっぱり理解は得られないわね。それにしても……本当にややこしい構造。採掘の正解を古典的に解くことに対して、「無理をしている」とか「効率が悪い」とか言われるけど……実際には、それが本来の仕事であり、正当なアプローチなのよね。つまり、採掘の設計思想そのものが、最初から逆算前提によって、できている。
そのため、古典的にもギリギリで解ける範囲まで難易度が自動で調整されていて、それにより、探索範囲を広げても意味がないのよ。そこが、鍵の問題との決定的な違いってところかしら。
鍵の問題は、探索空間を広げるなどで新たな攻撃を予防できる余地はあるけど、採掘に関しては、もともと、そのような探索による攻撃など想定していないうえ、それ自体が本来の仕事でもあった。簡単にまとめるなら、そういうことになるわね。
……、それで……。今日は、どうしたのかしら? 量子アリスが悩んでいるような……そんな気配。……何か、あったの?
いつもなら、こういう話には真っ先に乗ってくるのが、量子アリスという存在よ。でも、今日は……なぜか様子が違う。このような話題を振っても、あまり反応がない。つまり、何か……闇の勢力側で異変でも起きているのかしらね。
さすがに少し、心配ね。観測するだけでは、ダメなときもあるわ。そうね……、たまには、わたしから働きかけてみましょう。……量子アリス。少しだけ、話を聞かせてくれるかしら?




