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356, 鍵そのものが、従来なら安全とされた構造の境界を壊しはじめている。けれども、それは女神の力ではない。……そう。推論と量子のブレイクスルーによって生まれた別の力。わたしを越えて、動き出した。

 ……さて。今回報告された事例、たしかにチェーン上では使われていない構造だったわ。けれども、それでも「同じ暗号」に属する鍵……、秘密鍵と公開鍵ペアの仕組みよ。だからこそ、無関係として片付けていいのかしら? 本当に、それでいいのかしら?


 ……わたしは、ゆるかった。いつも、この手の流れになると、数日だけ調査して……結局、手を止めてしまう。そして、風化していく。


 そして忘れられた頃に、またどこかで、信じがたい大きな額が被害に遭う。……ずっと、同じことを繰り返してきたのよね。つまり、本当に大切なのは……、どんなに些細な兆候でも、「鍵が絡んでいる」なら、必ず本腰で追うこと。どうせ調べても何も出ない……そんなふうに、最初から決めつけてしまうから、やがて来る次が、手遅れになるのよ。


 ……たしか、そんな法則があった気がする。小さな事故が続いたあとに、必ず大きな取り返しのつかない事故が来るという……。たしかに、そういう流れだったわよね。


 ところで、このような脆弱性を見つけるには、古典的な手法であっても、それなりの演算リソースが要求されるわ。つまり……、従来では見つけ得なかった領域に、いま、足を踏み入れられるだけの演算能力を誰かが手にしつつある。……そんな考えが、ふとよぎるのよね。


 よって、いま見えているものが、古典的にすら安全だという保証は……もう、ないのかもしれないわ。……まあ、量子アリスが「出番なし」と、妙な不満をこぼしていたくらいだから。今回の事例も、問題点は生成構造で、このような生成手法は、同じ種類の暗号なら基本的には共通している。予測できないように秘密鍵を作る。


 しかし今回は、たとえそうした構造でも、その力がわずかに弱いとその部分が浮き出てしまった。……そして今の古典的手法は、そんな些細な揺らぎすら、案外、取り出せる段階にある。ハッシュに対する差分的な攻撃でさえ、もはや小規模から中規模のリソースで十分に実行可能。その結果……大精霊が威信を賭けて抱え込んでいるような、最大級の演算スケールなんて、もう必要ではないのね。


 鍵そのものが、従来なら安全とされた構造の境界を壊しはじめている。けれども、それは女神の力ではない。……そう。推論と量子のブレイクスルーによって生まれた別の力。わたしを越えて、動き出した。

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