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337, 「秘密鍵の探索ヒートマップ」を作る、その二……。まさか、ダブルハッシュの構造にまで綻びがあるなんて……。量子ではなく、あくまで古典的な視点から精査していく。それこそが「推論」だったのね。

 さて……大精霊シィーにお願いした推論による演算。最上のもの……「大精霊の推論」を求めたわ。でもね、シィーって本当は……「女神の推論」を構築したかったのよね。


 けれども「女神の推論」……、それは禁忌の力よ。本来あるべき位置に、確率的に存在する因果の流れ。それさえも書き換えてしまう危険があるからよ。そう……もしそれが量子と組み合わさって、因果に逆らう「量子状態のままの複製」に近い作用を生んでしまったら……。……何が起きると思う? うん……、それらがわたしみたいな……。


 ううん、もうやめましょう! わたし、いったい何を考え始めているのかしら。今はただ、ちょっとした調査……そう、雪崩効果の再確認よ。


 それで、演算の完了を待つ間……今回は、なかなか気が利いた待遇だったわ。わたし好みの甘いものまで、しっかり揃っていたし。……また鎖につながれたらどうしよう、なんて……冗談よ。


 そして……ひとまず完了の通知が届いたわ。わたしは、そっと息を吐く。どんな結果であれ、受け止める覚悟はもうできている。だって、これは……わたし自身が選んだ調査なのだから。


 それでも……ほんの少し、胸の奥にざわめきを残したまま、わたしはシィーの待つ場所へと足を運んだ。迷いが消えたわけではないわ。けれども、踏み出すしかないのよ。


「どうかしら? そういえば、シィーの推論って……あの、推論の力で生成された映像。あれ、特に綺麗だったわよね。」

「へぇ、そうなんだ。シィーって、ネゲートにまで『推論の力』を見せつけてたんだ?」

「あ、あの……女神コンジュゲート様。それは……。」

「慌てないでいいわよ。ちゃんと、報告は受け取ってるわ。それで、ネゲート。その報告書にあった『同位体となったトランザクション』……あれ、もう解決したのかしら?」

「な、なによ。今はそれどころじゃないわ。」

「そう……やっぱり、その様子だと、まだ未解決なのね。確率は極めて低いって言ってたけど、これだって、いきなり手元の残高が、……よね?」

「……。今度、ちゃんとやるわ。」

「今度? ……なんか、そういう『今度』って、ただの先延ばし、そんなのが多い気もするわよ?」

「……。」

「それなのに『最大抽出可能価値』や『ミーム』みたいな概念には、すぐに飛びつく。不思議よね。どうしてかしら?」

「……、それについては……。」

「もうっ。」


 コンジュ姉がいるのを……すっかり忘れていたわ。案の定、痛いところを突いてくる。まったく、容赦ないんだから。でも……それでこそコンジュ姉。なんだか逆に、安心してしまった。……そう、わたしには、まだ戻る場所があるってことよね。


「それで……シィー? その顔……何か新しい発見でもあったのかしら? なんだか……思い悩んでる感じよね?」

「……実は、女神ネゲート様。まず、先頭バイトを取り除いた非圧縮形式でのハッシュ生成アドレス……これについては、量子アリスの報告通りの挙動を、改めて確認できました。ところで、実は追加で……。」

「うん、それはわかってるわ。それで? 今、『追加』って言ってたわよね?」

「はい、女神ネゲート様。実は、女神コンジュゲート様より……ダブルハッシュによるアドレス構造についても、追加で調査せよとのご指示を頂戴しました。それで現在、推論による解析を進めております。」

「……それって、量子アリスが既に終えたはずよね? そっちは……。」


 ……いやな予感がするわ。わざわざ別ルートで再調査を命じるなんて。コンジュ姉の勘って、たいてい当たるのよね……。


「女神ネゲート様。実は、今回のダブルハッシュ……アドレス生成なので、出力空間が異なる二種類のハッシュを重ねた構造ですね。これ……たしかに、普通に調査しただけでは『問題なし』と判断されてもおかしくありません。」

「……どういうこと?」

「私の推論は、ほんのわずかな綻びすら見逃しません。そして、見つけ出しました。まだ精査中ではありますが、現時点の見積もりでも、入力空間の二割程度です。その領域では、局所的に雪崩が弱まっている箇所が存在しています。」

「……。それって、もし何気なくアドレスを生成して、その『弱い領域』に入ってしまったら……?」

「はい、女神ネゲート様。乱数から生成されるアドレスですから、二割程度の確率で、そのような入力空間にあたってしまう可能性があると、私は、そう推定しています。」


 まさか、ダブルハッシュの構造にまで綻びがあるなんて……。量子ではなく、あくまで古典的な視点から精査していく。それこそが「推論」だったのね。


「シィー? 一応確認しておくけど……その『推論による検査モデル』、シングルハッシュでも検証は実施したのよね?」

「はい、女神ネゲート様。もちろんです。このようなケースでは、検査モデルそのものの信頼性についても、確認が欠かせません。そこで、シングルハッシュ……つまり、ハッシュを単体で使った通常の形式においても、同じ条件で精査を行いました。その結果、こちらは雪崩効果に問題はなく、『すべてのケース』で『しきい値を下回っていることを確認済み』です。」

「……そう、わかったわ。」


 別に、気にすることはないわ……、その一言で、すべてを流してしまう。でも……そうやって、何もかもを背負い込んでいくのよね。調査は順調……それならば、もう迷うことはないわ。洗いざらい、全部出す。それがこの構造を解析する、絶対に必要なこと。推論や量子の解放によって、そのような綻びを隠し通せる時代は、とっくに終わったのね。だから、わたしは進む。まずは、すべてを可視化するために……。

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