331, 古の大精霊様は……この通貨のどこを気に入ったんだろうね? ……あはは、そんな顔しないでくれる? 冗談よ、冗談。でも、そりゃ気に入るはずだよね。あれだけの「仕掛け」が入ってるんだもの。
「あら……そろそろかしら。途中で闇の勢力に邪魔されて、ちょっとした崩壊まで味わったけれど……まあ、いいわ。結果がすべてよ。」
目元に宿るのは、凍りつくような確信。胸元で淡く光るのは、地の象徴が刻まれた権威のバッジ。そして……彼女が忠誠を誓う古の大精霊……「古の最大勢力」は、すでに勝利したと、揺るぎない確信を持っていた。その現実に、彼女の中で一片の疑いすらなかった。
「それにしても、古の大精霊様は……この通貨のどこを気に入ったんだろうね? ……あはは、そんな顔しないでくれる? 冗談よ、冗談。でも、そりゃ気に入るはずだよね。あれだけの『仕掛け』が入ってるんだもの。ああ、そうだ。厄介な闇の勢力も……今回は、お呼びじゃないかしら?」
「『闇の勢力』ですか。……ふふ、笑ってしまいますよ。同じ『ファースト』を名乗る勢力が、同時に二つも現れたんですからね。それにしても……あんなもので『時代を創る大精霊』が務まるとは。逆に感心してしまいますよ。」
「おやおや、それを言うなら女神だって同じよ? あれで女神? ははは、笑わせないでよ。あんなのが女神で通るなら、あたしだっていつでも女神になれるわ。そうよ!」
「……おっと。誰が聞き耳を立てているかわかりませんよ? 女神になられるのは……我ら古の大精霊様である。」
「そうだったね、たしかに。でもさ……古の大精霊様が、本当に女神になりたいと思ってるのかね? どう見てもさ、面倒事を全部押し付けられてるだけにしか見えない。それならいっそ、大精霊のまま……この地を統治した方が賢い気もするんだけど?」
「……まぁ。そう言われると、否定はできない。」
それから彼女は、静かに目を閉じ……胸元の地のバッジを、強く握りしめた。
「とにかく……女神を含めて、今の時代の統治側には、ろくなのがいないってことよ。そんな連中に好き放題にされたこの地……。いよいよ、『取り戻す』ときが来たんだよ。……わかってるね?」
「……当然です。」
「ま、とはいえ……その混乱、少しは利用させてもらったけどね。まず、『あのアドレス空間の大きさでも安全』だと、延々と言い続けたこと。不思議なものね、論理よりも『声の大きさ』の方に、思考が流れていくようになってたわ。それを……利用させてもらったわ。」
彼女は唇を歪める。
「案外、こんな程度の話でも、あのクジラすら釣れたのよ? ほんと、上手くいくものね。だいたい、他の暗号のスケールと見比べれば……明らかにおかしいって、すぐにわかるはずでしょう?」
「ああ……。あの、大量に買いだめしているって話の、あれですね。」
それから少し間を置き、吐き捨てるように続けた。
「あの暗号だって……まるで何かに迫られるように空間を倍々にしてきたのに……、こっちはずっと『そのまま』よ。アドレス空間なんて上げられたら、秘密鍵を拾う方は倍々どころじゃ済まないからね……、一気に詰むから。それで……、そこは何があっても、死守してきたわ。」
「完全に同意だ。なぜか変わらない二百五十六ビット……。この『微妙な立ち位置』こそが絶妙ですね。」
「そうそう。もしこれが、三百八十四ビット以上になってごらんなさい? 古典なんて当然、量子だってキツいわよ、ほんと。『あのアドレス空間を上げられたら一気に詰む』……まさに、そのままね。」
彼女の助手が、静かに一度だけうなずいた。その仕草には、余計な言葉は不要だという確信が滲んでいた。この計画は、すでに動き出している。あとは、勝利の瞬間を待つだけだった。
「なんだかんだで、前回は大失敗だったわ。その時代に現れた女神が……手強すぎた。しかも……古の大精霊様の『力』まで奪われて……本当に、かわいそうだった。あの工場のコンセプト、あれは本当に最高だったのに……。でも、現れてしまったのよ……女神が。そして、このコンセプトは破壊された。あのまま古の大精霊様で時代が進んでいたら、そのまま……。」
「……だが。今回は違う。すべてうまく進んでいる。もう、勝利は目前だ。まずは……失われた力を、すべて取り戻す。そしてようやく、やっと、本来あるべき場所に……。やはり、コンセンサスよりも……秘密鍵だった。」
いよいよ始まる……。時代を取り戻すのは闇の勢力ではなく、古の大精霊様だと……彼女は、そう信じている。