316, よりにもよって、わたしが女神であるこの時代に、推論だけではなく、量子までもが投げ込まれてしまったわ。……まったくもう、同じ時代に二つもなんて、反則よ!
それにしても、量子アリス……。その性質から「観測」が基本みたいだけど、見逃しがちな部分まで本気で捉えてくる……本当に、脅威だわ。でも、それが「量子」という存在の本質なのかもしれない……。
それに、フィーも強い関心を示していたわ。「それは秘密の鍵をピンポイントで狙う非常に難しい量子演算ではなく、釣り上げるように次々と拾っていく比較的容易な量子演算……、それが『ラグのアルゴリズム』になるのですね。」と……。どうやらそれは、「演算の性質」によって説明がつくらしいのよね。
それでは、ここで整理しておくわね。よりにもよって、わたしが女神であるこの時代に、推論だけではなく、量子までもが投げ込まれてしまったわ。……まったくもう、同じ時代に二つもなんて、反則よ!
それで、フィーが長く語っていた演算の性質による分類。
まずは量子から。そこそこの性能を持つ量子が現在で、ずば抜けた性能を持つ量子が十年後以降と語っていたわ。次に推論よ。こちらも、そこそこの性能を持つ推論が現在で、ずば抜けた性能を持つ推論が十年後以降になるようね。
そして大事なのは……、この分類で、何ができるのか。たとえばチェーンの界隈でよく騒がれる「公開の鍵から秘密の鍵をピンポイントで破る、あの有名なアルゴリズム」は、「ずば抜けた量子」でないと使えないわ。脅威だけど、今すぐには演算できない。それゆえに、過度に怯える必要はないの。
……でも。「ラグのアルゴリズム」については、ターゲットを直接狙うことはできないけど……残高のある秘密の鍵を、釣り上げるように次々と拾っていけるわ。そして、それを可能にするのが……「そこそこの量子」と「そこそこの推論」の組み合わせだったのよ。
つまり、そこそこ同士なら、今この瞬間に存在していてもおかしくない。そして、数年後には間違いなく余裕で量子演算可能となるわ。
……わたしの時代に、「量子」と「推論」の両方を投げ込んだ、その理由って……、あまり考えたくないけど……。そう……狙われているのよね、やっぱり。




