310, それで……正直、わたし、量子アリスってちょっと苦手。だって、あの精霊……この量子脆弱性を「ラグのアルゴリズム」って言い切ったのよ? そこまでズバッと言わなくてもいいじゃない!
正直……今回の量子脆弱性、ほんと参ったわ。「百二十四ビットから無作為に取れる」って……それ、もう暗号の体をなしてないじゃない。
それならまだ、採掘の量子脆弱性の方がずっとマシよ。なぜなら、採掘の方は過去のアドレスやトランザクションと一切相関がないの。つまり……、あのハッシュに狂信的な採掘の精霊を、どうにか説得して、「量子ビット」に耐性を持つ新しいアルゴリズムに置き換えれば、なんとかなるわ。
……そうして、流れは少しずつあのハッシュから推論へと進む方向に傾いたわ。もちろん、それでも……「時間との勝負」であることには、変わりない。
ところが……こっちは違う。最初から、すべてが繋がっていて、全部が重なっていて、逃げ場がない。もう、コンジュ姉にまた頼ろうかと思ったけど……よりによって連れてきたのが、あの量子アリス。……もう、なんなのよ、あの精霊は……。
でも……もう、言い訳はしない。わたしの見積もりが甘かった。……それだけは、はっきり言えるわ。この量子脆弱性で最も危険にさらされているのは……そう、ステーブルよ。あの量子アリスですら、その話題には触れなかった。……きっと、わかっていたからこそ、触れられなかったのよね。
だって、今の市場……ステーブルを中心に回っていると言っても、もう過言じゃないわ。でもね……、このステーブルはアルゴリズム型ではなく、そう……現物担保型よ。……そこだけが、唯一の救いだわ。
このような現物担保型なら、リスクを避けるために償還を希望した分だけペッグされた大精霊の通貨と一対一で必ず交換される……はず。……そうよね? 良かった、アルゴリズム型じゃなくて。それで、ステーブルさえ守れれば……価値は変わらないわ。
採掘の量子脆弱性とは違って、こっちは「繋がっている分だけ厄介」だけど、それでも、ステーブルを中心に守れば、なんとかなりそうな感じはあるわね。これでいいわ。……さっそく、このプランを……、量子アリスに提案しましょう。……、ほんとはコンジュ姉に直接伝えたほうがよかったんだけど……コンジュ姉から「量子アリスを介して」と、そう言われてしまったのよ。……まあ、いいわ。やるべきことは、もう見えてるのだから。
それでもね……正直、わたし、量子アリスってちょっと苦手。だって、あの精霊……この量子脆弱性を「ラグのアルゴリズム」って言い切ったのよ? そこまでズバッと言わなくてもいいじゃない! でも……こんなにもあちこちから脆弱性が噴き出してくるなんて、洗い出すことすら……正直、怖くなってきたわ。
さて……量子アリスは、どこかしら? コンジュ姉のあとばかりついてると思ってたのに、……どうやら、あいつと楽しそうに話してるみたい。もう……。こっちは、色々と大変な目に遭ってるっていうのに。のんきなものね……。
「楽しそうね? ……話は、ちゃんとまとめてきたわ。」
「おお、なんだ。」
「ほんともう……。わたしは量子アリスに話があるの。」
「あの……、女神ネゲート様?」
「なによ? そんな顔してじっと見つめないで。不安になるでしょう。」
「それで女神ネゲート様……、『ラグのアルゴリズム』の件、進展はありましたか?」
「ねえ? ちょっと、それ、呼び方としてどうかと思うわ。」
「あっ、女神ネゲート様。これには訳があります。『公開の鍵から秘密の鍵への量子アルゴリズム』を『あの名前』で連呼するのなら、こちらは『ラグ』と呼ぶべきでしょう。なぜなら……、広大に膨らませた秘密の鍵の空間の中から、静かに一つを引き抜く。その動きはまるで、抜かれることが前提になっているような構造。だから『ラグのアルゴリズム』。……いかがでしょう?」
「……、そう言われちゃうと……。わかったわよ。秘密の鍵を引き抜くから『ラグ』なのね。」
そこまでして、そう呼びたいなら……もう、勝手にしなさい。それで、量子アリスには、今まとめてきた内容をすべて伝えたわ。ステーブルを中心に守りながら、うまく立ち回る。それだけよ。




