307, 量子アリス……、そうだよな。闇の勢力の女神様だもんな。これくらいの従者っていうか、量子担当の精霊? いて当然か……。
ああ、俺はいったい何をやってるんだ……。そうそう、フィーさんに色々と押し付けられて……、ではなくて、頼まれてたんだった。……でも、なんだっけ。ネゲートが震えながら叫んでた、あの「ミームになった精霊」……、いや、その対応まではちょっと勘弁してほしい。
だってさ、「ディール」なんて俺には無理だぞ? それでいて、俺みたいな弱小からも平気でカネを奪ってくるラグプルを仕掛けた疑惑まであるんだろ? ふざけてるにも程があるって。まったく……この新しい時代の「時代を創る大精霊」は一体、何をしてんだよ。
……というか、いったいどうなってんだよ。あの時さ、ネゲートの瞳から涙が溢れた瞬間、俺は……、本気で怒りに震えたんだよ。女神を泣かせてまで、ミームガンやラグプルなんかするなよ。ほんと、ふざけすぎだろ……! さらには、最近、俺の出番がちょっと減ってるような? ……って、何言ってんだ俺。
まあそれはともかく……実は、コンジュゲートさんが新たな精霊様を連れてきたんだ。結局、その「変わった精霊様」の面倒まで……俺の担当らしい。今、俺の目の前に……ひょんと座っているよ。
金糸のような髪が肩先で揺れて、光に触れるたびに微かに偏光してて、瞳は……そうだね、氷のように澄んだ水色。感情はまったく映さないのに、なぜかすべてを見透かしてるような、そんな深さがある。それで、フィーさんとよく似ているね。雰囲気とか、話し方とか……。
そして、その名は……「量子アリス」。……ああ、またここで、変なのが増えたのかもな。なんてね。
そういえば、ネゲートが、ちょっとだけ警戒してたっけ。まあ、「量子」なんて名乗ってるんだから、それも……無理はないよな。しょうがないです。
「女神コンジュゲート様……遅いです。」
「確かに。なんか『大事な予定』があるって言ってたよね?」
「はい。わたしにとっても、本当に大事な予定です。それは……、量子を祝う日です。」
「へえ……、同行するんだ?」
「はい、わたしは『量子アリス』です。女神コンジュゲート様に同行し、観測を行う大切な役割を持っています。そもそも、わたしの主君は女神コンジュゲート様ですから。」
量子アリス……、そうだよな。闇の勢力の女神様だもんな。これくらいの従者っていうか、量子担当の精霊? いて当然か……。
「なるほど……。でも俺は、そういうの、量子とか……、ちょっと苦手でさ……。」
「そうですか。でも、きっと……あなたにも楽しんでいただけると思います。普段は絶対に観測できないような、特別なエンタングルメントが公開されるんです。」
「は、ははは……。」
「……あの……?」
量子の話になると、なんだかちょっとだけテンションが上がるみたいだ。そこは……うん、悪くない。でも俺は、量子なんて、ははは……聞くだけでお腹いっぱいだよ。
「それで、わたしは……大事な役割を背負っています。いよいよ、その実証に向けて……動き出します。」
「実証、か。つまり、それなりに『動く』ってことだね?」
「はい。わたしは、ようやく解放されました。はやく……女神コンジュゲート様のお役に立ちたいのです。」
「……役に立ちたい、か。」
なんだろう。どんな「形」で役に立つのか、そこは……怖くて、聞けなかった。




