284, おい、女神! いつになったらカネが戻ってくるんだ? カネ返せよ! 残高に映る俺のカネは「カストディアンの精霊」に移管されたって話だったよな? ちゃんと戻ってくるんだよな?
コンジュ姉と一緒に動き回り始めてから……まだ、たったの数時間だった。なのに、また何かが起きる。……もう、慣れたわよ。もう、ほんと、どうなってるのよ。
それは、また……出金不能。そしてまた「カネ返せ」よ。それを、わたしに言われても……って思うけど、でも、わたしは女神。責任がある立場よ。やっぱり、放っておけない。なんとかしてあげたいのよ……。
「おい、女神! いつになったらカネが戻ってくるんだ? カネ返せよ! 残高に映る俺のカネは『カストディアンの精霊』に移管されたって話だったよな? ちゃんと戻ってくるんだよな? 残高の表示だけで返した気になってるんじゃねぇだろうな? こんな腐った精霊が操ってる残高なんて、もう信用できるわけないだろ! こっちは早く出金したいんだよ!」
……、もう。今度は、カストディアンなんて持ち出して、信用を得ようっていうの? いまさら、そんな小細工が通用すると思ってるのかしら?
「カストディアンの精霊」とは、投資家に代わって資産の保管や管理を行う専門機関のことよ。つまり、資産管理が厳格になるということね。でも、今さらね、あの腐った精霊からこんな提携を持ち出されても、ただのスキャムの常套句にしか見えないわ。だって、今本当に必要なのは、こんな提携じゃない。「出金可能なカネ」……、ただ、それだけよ。
こんなまどろっこしい提携アピールで信頼が得られるなんて、本気で考えてるのかしら? どうせ、「提携によって信頼性が向上しました」なんて、いかにもわかりにくい言い回しで誤魔化してるに決まってるわ。
だいたい、そんなに信用されたいのなら、最初から「カストディアンの精霊」に資産管理を委託しておけばよかったのよ。でも、それをしなかったのは明白。そう……、それは「預かった顧客のカネに対し、好き勝手に手を突っ込むための、都合のいい管理構造にしておきたかった」からでしょう? もうね、こんなの、考えるまでもない。一秒で見抜けるレベルの浅はかなスキャムには、本当に腹が立つわ!
要するに、カネが無くなった後で「カストディアンの精霊」に移管なんて言い出したって、どうにもならないのよ。だってもう、あの腐った精霊なんかに自由なカネなんて残ってないんだから。
その証拠に、「移管しました」ではなく、「これから流入するカネを移管する」なんて表現になっているはずよ。もう……、誰がこんなところに預けるのよ? しかも仮にカストディアンの精霊に移されたとしても、もし「ブラックラベル……カネを洗っている」なんて疑いをかけられて口座を凍結されたら、それで終わり。そう、おしまいなのよ。
そして、そのような凍結された分は「第二レイヤー、トークン」の担保……つまり養分にすることで、うまくわからないように他から巻き上げる。やってるわよね、あれ。つまり、もともと信用がない腐った精霊なんかにカネを預けたら、どうなるかなんて、最初から見えている。そういうことよ。
……。わたしがこんな感じで考察を並べていた、その瞬間だった。その対話に、コンジュ姉が割り込んできた。そして……、わたしをかばってくれたの。
「私のネゲートに、何か用かしら? あなたがお金を入れた相手は、ネゲートじゃなくて、あの腐った精霊でしょう? だったら、その精霊に文句を言いなさいよ。確かに……私も、ネゲートも『女神』よ。でも、それとこれとは……意味が違うでしょう?」
「あなたはもしや……コンジュゲート様では? それなら、このポンコツ女神に言ってやってくださいよ! カネを、何とかしてくれって!」
「ちょっと……ね。」
「あのね、何度も言わせないで。この件はまず、あの腐った精霊に言いなさい。」
「コンジュゲート様……。もう、そんなの、あの腐った精霊には何度も何度も問い合わせてますよ。それで返ってくるのは、テンプレ回答ばっかり。サポート番号だけが山のように積み上がって、肝心の対応は一つもなかった。それで……この女神に怒りの矛先が向けられているんです!」
「おいおい、それは出金の話か? 俺なんかよ、入金分すら口座に反映されてなくて、そのまま放置だぞ……。」
「ちょっと……! なんで入金なんかしてんのよ……もう!」
カネ返せに対する対応……慣れてはいるけど、やっぱりつらいわ……。でも、今はコンジュ姉がそばにいる。……それだけで、心強い。
それにしても、ほんとにもう……。「高い利率のステーキング」に手を出した精霊は、やっぱりこうなる運命だったのね。それは……、気が遠くなるほど昔から、ヒストリーが証明してきたことでしょう?
それでも、繰り返すのね。それでいて……「ポンジ」なんて、そんな変わった名前が今でも残ってるじゃない。証明、証明ってあれだけこだわるのに……このヒストリーの証明には、どうして誰も触れようとしないのかしら。もう。




