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280, 突如現れた出所不明ソロによる採掘で大騒ぎになった件……。それはまるで、誰かが何かを「試していた」ような、そんな動き。……そう、もしこれが「量子アニーリングの試し撃ち」だったとしたら……?

「ネゲート。もう体調は大丈夫なのですか?」

「余裕よ。この通り!」


 そう言って、わたしはその場でくるっと回ってみせた。……それでも、フィーは相変わらず表情ひとつ変えず、ほんの少しだけ首を傾げて、じっとこちらを見つめてくる。それでも……それは、「納得した」というサイン。よし、これで無事に復帰完了ってわけね!


「ネゲート。それでいよいよ……、出所不明ソロの件で行かれるのですね。わたしも、ずっと気にはなっていたのです。でも……黙って見過ごしてしまったのです。今になって、それがどれだけ大きな後悔となるか、痛いほど感じているのですよ。本当は、あのときに、もっとちゃんと調べておくべきだったのです。……でも、今からでも、動くしかないのです。」

「そうよ。動くしかないわ。」


 ……思い出してしまった、あの騒動……。


 それは、大精霊シィーに対する民の審判の少し前くらいだったかしら……。突如現れた出所不明ソロによる採掘で大騒ぎになった件……。それはまるで、誰かが何かを「試していた」ような、そんな動き。……そう、もしこれが「量子アニーリングの試し撃ち」だったとしたら……? それは異様な構造。そして……異様なまでの沈黙。


 結局……このような事態が起きても、何とも感じなかった……女神であるわたし。ダメね、ほんと。あの時ですら、周りの勢いに乗せられる形で、精霊ではない者がソロの採掘だなんて「そんな無謀なことをしても確率的に合わない、燃料の無駄だ」……。そう、一蹴して終わらせてしまった。少しでも調べようとすらしなかったわ。


 燃料の無駄? ううん、そんな次元じゃないわ。その辺に転がる「古典ビット」にどれだけ燃料を突っ込んだって、あのような狂信的な精霊が管理する採掘の設備がなければ、ソロで採掘なんて不可能よ。


 偶然? 「一を、二の七十七乗で割った」ような事象が起きるわけがないわ。そんなのが許されるなら、わたしのすぐそばに黒穴でも開く勢いよ。


 つまりあれらは……採掘の機材のような「古典ビット」じゃない。古典ではない何か別の力……そう、「量子ビット」が疑われるのよ。


「はい、なのです。そうです……、騒ぎとなったあのソロな採掘は、分離していて、その稼働は短期間。それでも、異常な精度を保ちながら、多数のトランザクションを正常に取り込んでいる状態までを確認できていたのです。それに、通常の採掘では考えられないような妙な動き……あれは、完全に『何かの観測』を目的としていたと、わたしもみているのですよ。」


 静かに進行していたのは、「情報収集」でも「実証」でもない。それは、「量子アニーリング」によるアタックシミュレーションということね。標的となる構造……「制約付き最小化問題」、つまり、採掘コンセンサスメカニズムのハッシュに対して、どう作用するかを事前に計測していたとしたら?


 わたしの背筋に、冷たいものが走る。あれはただの偶然じゃなかった……。最初から、「あえて見せる」動きだったのよ。


 ただ、現状では正確に辿り着ける確率がまだ低く、連続的な稼働も難しいという「量子アニーリング」の性質ゆえに、この程度で済んでいる。ただ、それだけの話よね。


 でも、量子はこれから確実に躍進するわ。つまり、その性能はトップには遠く及ばないということ。それが、すでに性能が飽和している「古典ビット……採掘の機材」との決定的な違いよ。つまり、どう足掻いたところで、このまま何もしなければ、近いうちに採掘メカニズムが量子によって破られる。そして同時に、チェーンが崩壊してしまう。そういう未来が、もう見えているのよ。

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