278, 出金不能という、資産の消失すら意味する深刻な事態に対するサポートの返信文に、わざわざ「これはボットによる応答です」なんて一文を入れたまま送ってよこすなんて……。
うう……頭が痛い……。それでも、重いまぶたを、ゆっくりと持ち上げる。かすんでいた視界が、じわじわと焦点を結びはじめ……。そして、そこに現れたのは……。
「……ここは?」
「ネゲート、心配したのですよ。急に倒れたと聞いて、驚いて駆けつけたのです。」
「まったく、おまえさ……また、ろくでもないものに首を突っ込んでたんじゃないのか?」
……あれは夢だったのね。そうよね、フィーが完全犯罪を言い出すなんて……。でも……ミームガン、か。ううん、もういいわ、あんなの。それでも、集約の件だけは少し気になったけどね。
そう、集約? ううん、そんなの、「量子ビット」に対しては何の耐性も持たない楕円曲線の鍵よ。量子の脅威が、もう目の前なのよ? 今、そんなものを実装するなんて……正気じゃないわ。あってはならない、絶対に。集約は諦めて、ちゃんと「量子ビット」に対する耐性を持つ鍵を導入すべきよ。
そして……。あいつには何も言い返せない。蓋を開けてみれば、そこにあったのは……「定格外な採掘の機材で異様なまでに埋め尽くされた異質な空間……ただの信仰の塊」だったなんて。つまり、「誰でも参加できる分散性……本来あるべき姿」は、そこには一片の欠片すら残されていなかったのね。
……えっ? その瞬間だった。なつかしい、あの柔らかな手触りが、そっとわたしの頬に触れる。これは……そう、コンジュ姉のぬくもり……、間違いないわ。
「コンジュ姉……。わたし……。」
「ネゲート。今は何も考えなくていいわ。ゆっくり休みなさい。それで、出金不能で問題になっている精霊の件は、私に任せて。どうやら……、顧客には『誠実』を装っていただけだったみたい。なぜなら、出金不能クレームに対する返信が、まさかの『ボット』だったことが発覚よ。信じられる、これ? ただの推論が導き出した、ありきたりなテンプレートを返すだけ。最初から、解決する気なんてこれっぽっちもないのよ。……ほんと、ひどい話だわ。」
「ありがとう……、コンジュ姉。それで……なんとなく、そんな気がしていたわ。やっぱり、テンプレだったのね?」
「そうよ。しかも発覚のきっかけが、あっさりすぎたのよ。出金不能という、資産の消失すら意味する深刻な事態に対するサポートの返信文に、わざわざ『これはボットによる応答です』なんて一文を入れたまま送ってよこすなんて……。それで? これが『お金を預けられるバンクや銘柄の代替』になるっていうの? ……まったく、顧客のことなんて最初から何も考えてない証拠よ。適当にやってたツケね。」
もう、驚きはしないわ……。でも、どうしてわたし、倒れてしまったのかしら……。それが気になって、フィーにたずねたの。でも、体調が戻ったら話す、とだけ言われてしまって……。かえって、もっと気になってしまったわ。




