271, 冗談でしょ? まさか……ここにある全部が「採掘の機材」っていうの? ううん、あり得ないわ。いくらなんでも……そんな採掘全振りなんて、常軌を逸してるわよ!
わたしが、あまりの衝撃で黙り込んでしまっていると……今度は、採掘の機材に対して熱く語りはじめたわ。
ううん、わたしは女神よ。気を確かに持たないと……。ここに来たのは、説得するため。そうよ。たとえ、こんな精霊でも……、話せば、きっとわかってくれるはず……。
「女神様、最近は……品のない採掘の精霊が増えておりまして、まことに困っております。特に、採掘の機材からの廃熱で球根を栽培しているなどという、とんでもない事例もございます。あれ、本当に正気なのでしょうか? 高湿度の環境下で、土をかぶせられながら稼働させられる、かわいそうな採掘の機材たち……もはや、拷問です。あのような扱いを平然とできる者たちが、我らと同じ採掘の精霊だとは、到底思えません。あいつらは、ただの悪魔です。または、それ以下です。我らは、本気でそう考えております。」
「そ……、そうなの……。」
「女神様、先ほどから……ご様子がすぐれないようにお見受けしますが、いかがなさいましたか?」
……もう、だめ……。この採掘の精霊を説得なんて、到底無理なのかな……。わたしだって、採掘の機材による球根の栽培には違和感を覚えるわよ? でも、あれって結局、ただの商売でしょ……? 機材なんて使い方次第で価値が決まるだけで、そこに特別な感情なんて抱いたこと、正直ないわよ。……みんな、そうなんじゃないの? 普通は……。これって、結局……採掘に対する根深い信仰がなければ、やっぱり、到底理解できない領域なのかもしれないわ……。
それでも……ううん、やるしかない。そうよ……、「単精度」や「倍精度」向けの「古典ビット」についてだけでもいい。なんとかその演算対象について、あのハッシュ計算から推論のほうへ切り替えてもらえるようにお願いする。そう……、もうこうなったら、ひざまずいてでも説得してみせるわ。
だって、この精霊だって……女神であるわたしが、ここまでしてお願いしてきたら、さすがに……、折れるはずよ。そう、きっと……。
「ちょっと、めまいがしただけよ。気にしないで。……それにしても、採掘の機材に対するその慎重な姿勢。さすがは、あのハッシュパワーを支えているだけのことはあるわね。」
「女神様……! そのようなお言葉、光栄に存じます。我ら採掘の精霊にとって、あのハッシュパワーを守ることは使命でございますゆえ……。」
「そう……。それなら……、ほかの機材も見せていただけるかしら?」
「……女神様、ほかの機材……とは?」
「ええ、そうね。例えば『単精度』や『倍精度』よ。それらも採掘の機材と同じように、こうして冷却されて、厳重に管理されているんでしょう? ちょっと気になっただけよ。」
さて、何が出てくるのかしら……。このような商売は、採掘と推論を上手く切り替えながら高い収益を上げていくはずよ。それで、問題はその比率。この異様なまでの採掘に対する信仰心……まさかとは思うけど、推論向けが「お飾り程度」なんてことは……ないわよね? だって、この精霊には収益からの配当を得るホルダーもいる。つまり、収益だって絶対に大事なはず。ちゃんとリスクヘッジして、せめて半々には……。
「女神様。そのような『ほかの機材』なんて……、一切考えられません。我らは採掘の機材にすべてを捧げております。採掘の精霊としての誇りにかけて、採掘の機材以外は一切扱いませんよ。『単精度』や『倍精度』? あんなものは異端です。我らが手を染めるわけがございません。」
「……えっ? な、なによそれ……?」
なにを……言って、いるの、かしら……この、採掘の精霊は……。
「あのね……。冗談でしょ? まさか……ここにある全部が『採掘の機材』っていうの? ううん、あり得ないわ。いくらなんでも……そんな採掘全振りなんて、常軌を逸してるわよ!」
思わず……叫んでしまったわ。だって、だって、だって……! あり得ないにもほどがあるでしょ!
「女神様、どうかご自愛くださいませ。我らが信じ、操るあのハッシュこそが、創造主より賜りし聖なる指標にございます。そして、あのハッシュを生む採掘の機材こそ、唯一無二の機材。他の『単精度』や『倍精度』などは穢れた外道、触れるにすら値しません。」
「えっ……。」
こんなの、秩序もなければ、道理もない。ただ、狂気と信仰だけが支配してるわ……。ここが、わたしの行き着く場所だったなんて……!




