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262, なによこの論文……。段階的に採掘を侵食する、静かなるチェーンの内部崩壊。ハッシュ自体は変えず、「古典ビット」を使っているように見せかけて、中身は完全に「量子ビット」のようにふるまう脅威……。

 フィー……、なによこの論文……。こんなタイミングで、こんなものを……! ふざけないでよ……。どうして今なのよ……! わたしが一番揺らいでる、この瞬間に……!


 段階的に採掘を侵食する、静かなるチェーンの内部崩壊。ハッシュ自体は変えず、「古典ビット」を使っているように見せかけて、中身は完全に「量子ビット」のようにふるまう脅威……。


 「最適解の確率分布」を使って、「古典ビット」の精霊を逐次的に置き換えしてる……。つまり、探索を「量子的探索問題」として近似して突破する手法……、つまり、チェーンを破るってことよね……?


 やばいわ……。ここまでやってるなんて、もう正攻法では太刀打ちできないわ。


「ネゲート……。はい、なのです。これは、つい先日、『量子ビット』の、特に『量子アニーリング』の分野においてその名を知らぬ者はいない精霊によって発表された論文なのです。その導入部からして、すでに……、只事ではないのです。」

「うう……。やっぱり、『量子ゲート』ではなく、『量子アニーリング』でチェーンを破る手法……よね?」

「……。はい、なのです。」


 フィーの視線が刺さる。何も言わずとも、全てを訴えていた。その意味も、重さも……わたしは理解している。わかっているのよ、ほんとは。


「フィー……。読んだわ。この『量子アニーリング』による脅威も、採掘に備わる『難易度調整』が作用しなくなる……そう、まるで予言のように、静かに書かれていたわ。」


 本来、採掘の難易度が上がれば、その発見に時間がかかる。全ての採掘者に公平な競争の機会があり、ハッシュパワーに比例して収益が見込めるはずだった。ところが、わたしとフィーでみつけて、どうせ闇の勢力も知っていると考えられる「量子ゲート」による難易度調整の破壊に加え……、ここに別の方式、「量子アニーリング」による量子的なアタックが参戦してしまったわ……。


 採掘難易度が上がっても、量子は影響を受けない。ハッシュ空間の「谷」を先に見つけてしまう。結局、このような「量子アタック」は、「古典ビット」の全採掘者の努力をすべて無意味にできるのよ。そして、この状態になると、もう採掘の難易度調整は崩壊しているのと同じ。……。


 こんな偏った力、「五十一パーセントアタック」なんて一瞬で超えて、「百パーセントアタック」になってしまう。これこそが……、チェーンを破った状況になってしまう。つまり、採掘に対する量子アタックが観測されたら、その日で……終焉ということよ。それは、逃げ場すらない状況……。


 そう……。これが全貌。市場の精霊が突如、あの場で「採掘」なんていう専門用語を突然口にした。その瞬間から、すべてが仕組まれていたのよ。まるで、自分たちは関係ないとでも言いたげに……。


「ネゲート……。この『量子アニーリング』は、周囲からは『そんなのは量子演算じゃない』と揶揄され、ずっと悔しい思いをしてきたのです。それで……。」

「……それで、これ? チェーンを破ってまで、『量子ゲート』を見返したいとでも?」

「ネゲート……。それは、はっきりとは、わからないのです。ただ、その強い想いだけは……あるのかもしれないのです。」


 ……そうよ。精霊は、自分の名を残すために研究しているのよね。ここまでの流れを見れば……間違いなく、そうなるわ。


「それでも、まだこれは理論の段階よ。まだ動かせるわけじゃない……。そう、まだ時間は残されている。対策を立てないと……。」

「ネゲート……。本当に読んだのですか? この論文には、すでに四台の『量子アニーリング』によって……、実証実験に成功したと、書いてあるのです……。」

「……えっ?」


 ……実証実験に成功って、どういうこと……? まさか……ほんとに……?

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