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25, 旅行キャンペーンの温泉旅行で、次は知識と知恵、です。えっ、なにこれ? 俺の温泉は……。

 フィーさん……、「進化」という言葉が出てから、急に気が立って、手に負えなくなりました。こうなったら、成り行きに任せるしかありません。どういう理屈かは不明ですが、フィーさんがよく口にする言葉……「ジェネシス」と、何か、関連してきそうですね。


 なお、この俺ですら、これには嫌な予感がします。あの「天の使い」って、俺が恐れている得体のしれない、牙のある虫のような……。そうです、俺が最初に「お気に入りの場」へ招待された時、そこでなぜか手にした「書物」に、はっきりとありました、あれですよね。俺の気持ちを「ハードモード」に移行させた原因ですから。


 そういやあの書物にも「妙な黒いシミ」があったような……。いや、これについては考えないでおこう、怖くなってきました。たしか、シィーさんが話題として出していましたね。大規模な「売り」を仕掛けると……。


 ところで、そういった「売り」自体を否定することはしませんよ。俺が散ったあの相場にも……うじゃうじゃといましたから。それでも、想定外です、そんな奴ら。どうせ裏で「通貨」でも洗って喜んでいるとか、そういう存在ですよね!


 ちなみに、あの牙がおかしいのであって、虫自体は平気ですよ。なぜなら俺の故郷では、動き始めた銘柄に一斉に飛びつき、それから、わずかな時間で一斉に離れる群衆を「イナゴ」と呼んでいたからです。えっ? ああ、俺もその「イナゴの一人」でしたよ。ほら、イナゴが大群で作物に襲いかかると、その跡には何も残らないという点からの例えですので……。これで滅びた銘柄が、普通に沢山ありました。


 ……。もうすでに、このお二方の間には入れない、不穏な空気が漂っています。


「どうしたのかしら? わたくし、あの契約……、スマートコントラクトで、新しい世界に目覚めたのよ?」

「……、そのような取り返しがつかないことを、なぜ、自慢げに語るのですか?」


 フィーさん……、都の支配者に食らい付いています。ただし、あの神々とのご対面に比べたら、はるかに気は楽ですよ。あの時は……、慣れるまで手の平がびっしょりでした。今? 全然、です。


「そうね……。それを述べるには、まず、この都であなた……フィーを崇める民が増えている点から、しっかりとみていきましょう。」

「それが、『天の使い』と、何の関係があるのですか?」

「薄々と気が付いていて、そうやって論点をずらす、そのあなたのやり方、ほんと酷いわよ? それなら、これはどうかしら? あなた、あの神々の所有物を凌駕するらしい『犬』を集めているらしいわね?」

「……、『犬』ですか。正確には、集めていた、なのです。」

「わたくし、その『犬』も嫌いなの。」

「そうですか……。それでいて、チェーンに刻むスマートコントラクトは受け入れたのですか?」

「当然ですわ。わたくし、目的を果たすためなら何でも受け入れるのよ。嫌いでも、大っ嫌いでも、ね。そして、あの『天の使い』の方々は、全てを悟られておりましたの。そこで、わたくしはひらめいたわ。どうやら、この都だけではなく、この地域の民の方々は『天の使いの目の敵』にされているという点に、気が付いたのよ。」

「……。」

「あらなに? その目の輝き……、もう、知りたくて知りたくて、うずうずしているわね?」

「はい……、なのです。」

「あなたって、いつも、ぶ厚い書物を抱えているのが好みよね? その珍しい書物に、このような『知恵』は載っていないのかしら? あら! 今は、なぜか手ぶらで、どうしたのかしら?」

「これから、出かけるのです。」

「あら? 出かけるの? あの神々が始めた旅行キャンペーンかしら? うらやましいわ。それにしても、『知識』の習得にかけては、やたらと素直よね? 本当に、いつもいつもその可愛らしい態度なら、わたくし、この場で大好きになってしまいそうですわ!」

「……。冗談でも、やめてください。」

「まあ、残念。これからわたくしが述べる内容は、そのような書物には書かれていない、磨いて初めて光り輝く『知識になる前の、まだ確定していない何か』なのよ。まあ、一言で『知恵』ね。書物にある内容が知識で、そこにない内容が知恵、かしらね。そして、知識と知恵は、似て非なるものよ。ここからはるか遠くの西の言語でも、意味が異なるようで、別の横文字が割り当てられているのが、何よりの証拠ね。」

「わたしのは『知識』で、あなたのが『知恵』、なのですか?」

「そうよ。だから、わたくしは、負けない。あなたはね、『知識』が膨らみ過ぎて、すでに、自分を見失っているのよ。だから、大っ嫌いなのよ、特に精霊は! それに対して、わたくしは『知恵』で勝負することにしたの。ところで、この知恵ってね、得るのが本当に大変なのよ? そうね、書物に囲まれた場所にこもって得られるような『簡単なもの』ではないのよ。地べたを這いずり回って、泥水を飲むようなことを平気で行い、やっと、やっと、僅かに得られる貴重なもの、なのよ。あなたのような高貴な風の精霊様に、果たしてこれを理解できるのかしらね? 例えばね、儲け話を他の方にする者なんて、この地のあらゆる場所を探ってもね、絶対に見当たりませんわ。そして、あなたが抱える『知識』の塊、ぶ厚い書物に、儲け話って……ありますの? もしあるのなら『通貨』を司る学問の長が、みな、大金持ちになっておりますわね。でも現実、それは起きていない。これが、あなたが要求しそうな『反例』で、よろしいかしら? それこそ自分の命……、いえ、自分の魂を捧げないと、得られない、そういう高貴な情報がはじめて『知恵』になるによ。知恵を得るには、黒く染まることすらいとわない、覚悟が必要なの。わたくし、だから『天の使い』に魂を捧げて、知恵を悟る旅に出たのよ。」


 ……。この都の支配者、だっけ? なんか、知れば知るほど、実は……「相当なやり手」だったのかもしれないと、心の奥底まで刷り込まれてしまいました。さらには、フィーさんと討論しながら、ブロンドの髪を優雅に撫で、そばにいる俺にすら、やたらと「心の余裕さ」をアピールしてきます。とにかく、抜け目がないです。これは、都の民が「一瞬にして心を奪われた」のは、納得……かも。


 ただね、なんか喉につっかえる違和感を覚えます。なぜだろう。……。


「……。知識も大切、なのです。」

「あら? あなたらしくない。わたくしに、その程度しか反論できないの? 覚悟がない証拠ね、それ。よくもまあ、そんな程度で、このわたくしに挑もうなんてね? それとも、あの『ブロードキャスト』の件でわたくしが傷物のうちに、やっつけてしまえ、なのかしら? 甘いわよ? あなた?」

「甘いのは、あなたなのです。『知恵』を書物に刻めないと、本気で考えているのですか? まだ確定していないことを刻むことだって、できるのです。」

「安心したわ。それでこそ、フィーよ。そして、わたくし、その変わった手法をすでに知っているのよ。」

「……。ご存じだったのですか?」

「そうよ。その方法は、『天の使い』と契約して、初めて得たものばかりでしたわ。記号を論理的に並べて、『知恵』を表現できる、かしらね?」

「それは、間違ってはいないのです。でも、その『天の使い』があなたに与えた、知恵に擬態した記号、すなわち『偽りの式』は、民を導くものではないのです! その名の通り、それは、民を陥れるもの、なのです。」

「まあ! そこまで自信を持って言い切れるなんて。」

「はい、なのです。そんなの、それを拝見しなくてもわかります。例えばです、託した『現在の価値』を、わからないようにじっくり時間をかけて、少しずつ削ると、減った分、すなわち『損失』に鈍感となる……『助かりたいと強く願う』心理を、巧みに利用する手法です。まず、価値が減る速度を低く設定できる記号を組み合わせて式を組み、意図が掴みにくい関手で、その式から飛び出た『目立つ偽り』を別次元へ『わからないように隠す』ねじ曲げを行います。そして、それをあたかも魅力的な最新の『錬金術』に装飾してから、民に提供します。すると、その仕組みを知らずに長期に放置してしまい、損失が拡大するのです。本当は……、そのような『偽りの式』が出てきたら、自分が納得できるまで相手方に徹底追及すべきなのに、この地域の方々は……おとなしい方が多いため、常に、変なのに狙われているのです。これについては、どうお考えなのですか?」

「さすがは高潔な精霊様……。うっとり、いたしますわ。」

「……。高潔とか、そういうのは、やめてください。」

「あらま。誉め言葉は受け取らないのかしら?」

「はい、なのです。」

「気になるわ……最後の『常に、変なのに狙われている』って。その変なのって、わたくし、かしら?」

「……。いいえ、なのです。」

「なかなか素直ね、とてもいい子だわ。そうね……、それならば、あなたが叫ぶ『偽りの式』から逃れるには、どうしたらよいのかしら?」

「はい、それは『損切り』、なのです。」


 これが……、都の支配者の余裕と実力なのか。「ブロードキャスト」の件など、何とも思っていない、か。軽く流しましたね。そのあとに続くフィーさんの問いすら、冗談を交えながらかわすとは!


 そして、フィーさんが述べる内容は、いつもながら、訳がわかりません。でも、その程度も理解しようとせずに相場なんかに手を出し、あんなことになったのかもしれませんね。猛省です……。


 一応、最後に出てきた「損切り」だけは理解できました。損切りするときのあの気持ち、表現できないよな。すごいんで。実際、損切りは大事なのは理解できていても、なかなか……、です。相手もそれをわかった上で、わざと、俺らみたいな者を損切りさせてから、天まで飛ばすんですよ。こんな記憶ばかり残っていて、つらくなってきました……。


「そもそも、わたしは、あなたに挑もうなど……考えていないのです。」

「そうなの? それにしては、あの神々の手駒となるらしいじゃないの?」

「……。さすが、なのです。ちなみに、『天の使い』と契約すると、情報も早いのですか?」

「どういう意味かしらね、それは? わたくし、『天の使い』の隷属になったつもりはないの。逆にこちらから、こき使ってやろうと考えているの。ではそろそろ、あなたが知りたがっている、この地域の民が『天の使いから目の敵にされている』という『知恵』を、授けてあげましょう。」

「……。今までの流れから、なんとなく、わかるのです。」

「あら? だったら、驚いていただけるかしら? 簡潔にいきますわ。その理由はね、『試練』と語っていたわ。」


 えっ、なに? 試練だって? この地域の民は、売りに耐えるのが、試練なのか? ちょっとさ、それはおかしいだろ。あいつらだって、儲けるために売る、だよね? まさか、こんな概念で売るって、あり得ないのですが!


「……。信じられません。『試練』というだけで、あの方々たちは、あんなに酷い……売りをするのですか?」


 フィーさんすら、とまどっています。


「あなた、『山師』よね? あなたこそ、『天の使い』への仲間入りを果たすべきだと、わたくし、常々と、あなたをお誘いしたいお気持ちで一杯なのよ?」

「……、ふざけないでください。」

「そうね。精霊様では無理、ね。」

「……、そういう意向ではないのです。」

「『天の使い』の方々は、考え方すら、わたくしなんかには浮かびすらしない、刺激的なエレメントで常に満ち溢れているのですわ。さすがは、周りの知恵を常に取り込んで『進化』してきた、わたくしが魂を捧げるにふさわしい、本当の価値がある方々だわ。」

「……。そうなのですか。それでは一つ、うかがってもよろしいですか?」

「急に、なにかしら?」

「あなたが契約された方々に……、『牙』はありましたか?」

「あら……。そこを気にされるなんて。あなた、実は、すでに『天の使い』のお仲間よね?」

「……。たしかに、そう疑われても致し方ない、質問なのです。でも、知りたいのです。」

「まあ……。今のあなたの輝くその目、さきほどよりも美しいわ……。そうね、特別に教えてさしあげますの。その方々は、『進化』の過程で、『牙』は失われたのよ。これは、当然の過程よね? なぜなら、お互いに相手の顔が見えない近年の相場の界隈で、そこで独自に編み出した『進化の式』と『超高速売買』をふりかざし、民に試練を与えるのがお役目なのよ? そこにもう、『牙』は必要ないの。そうね、売りだ買いだとキャーキャー騒いでいる、ただの『売り売り』なんかとは、根本すら違うのよ。」


 「売り売り」……。その言葉にすぐさまシィーさんが反応し、こちらを見て、立ち尽くしています。何事もなければ御の字です。はい……。


 ところで、あの時あの場所で、なぜか手に取っていて、ちらっと見た「牙」って、失われたのか。ただ、牙が残っている個体も未だに存在しているかのような後味の悪い内容だったな。どっちなんだろう。俺は、あの牙に強い恐怖心を抱いたので、そのような目的を加味したパーツ……だったはずだ。ただ、進化の過程でその必要性が失われ、牙がない個体も出てきたと、簡単な論理に丸めてから、俺の頭に投入です。これなら俺でも、忘れません。


「なにが違うのかしら? 『売り売り』をバカにしないでよね?」


 あっ……、さらに怒り出したシィーさんが、こちらに向かって突進してきました。


 そういや筋肉は……どうなったのか。頭を抱えながら座り込んでいます。自業自得です!


「まあ、あなた! 大変、失礼いたしましたわ。この都の隠れた英雄……よね?」

「……。なによそれ?」

「そうよね……。風の精霊様だけは、この都、別格の扱いでしたわ。憎いほど渦を巻いた、理すら超越した水と風の塊の進路を、この都への直撃から見事にそらした、その豪腕に対する感謝の気持ちを忘れておりましたわ。」

「……。」

「それは本当に、わたしの大切な姉様に、感謝を捧げているのですか?」

「このようなことで、わたくし、嘘は申し上げませんの。そこが、あの神々と、わたくしの決定的な違いなのよ。……、どうされたのかしら? なぜ、うつむくのかしら?」

「私のこの力……、現実的に、正しいものなのかしら?」

「まあ……。なんてご謙遜なの。都の民は心から感謝を……。」


 都の支配者が都の民の感謝を代弁しようとした、その瞬間でした。シィーさんが、じっと、都の支配者をみつめます。


「それは、違うわ。いつもなら、上陸するまでに消滅させて、何とかなるの。でも、あの日は違った。私……、本当は『全ての力』を解放し、渦の力を完全に相殺させて、消滅させたかったのよ。でも、でも……、その覚悟がなくて、進路を変えるのが精いっぱいだったの。これが現実、です。英雄ですって? 私なんて、所詮、この程度なのよ。そして……こういうのに限って陸地までの距離がないのよね。進路を変える程度では、上陸は避けられない。このままの進路で都に直撃させるか、西にずらすか、東にずらすか、だったのよ。」

「姉様……。わたしは……。」


 フィーさんが姉の後ろへ、隠れるように移動しました。なにか、とても大切なことを伝えたい、そんな感じがいたします。


「わたくし、ずらせるだけの距離はあったと、良い方向に取るべきね。」

「……、なによそれ? この判断、誰にさせたと思うの?」

「まあ! ほんと、狡猾なあの神々らしいやり方ね。わたくし、察しますわ! その悔しいお気持ち。間違いなく、はじめは『消滅させる』方向で話が進んでいたのよね?」

「……、そうね。」

「でも、消滅させるのに失敗して渦だけ残った場合、大変なことになるわね? あなたは力を使い果たして消滅してしまうから……、そう! 責任を押し付ける相手がいなくなってしまうわ!」

「……、そうなるわね。」

「風の精霊のお一方を失い、さらに、残った渦が突進してきて都を襲うという……最悪な事態に発展したら……。この『判断ミス』の責任を、押し付ける相手がいないなんて! あの神々にとって、それこそが『最悪の事態』ね!」

「……、そうね。」

「だから、進路をずらしただけ、なのね? そして、責任は取りたくないから、あなたにすべてを押し付けたのね?」

「そうね。さらには、妖精の存在を気にしたのか、直接的ではなく『暗に』ご命令を受け賜わったわ。いま挙がった、それらをすべてまとめあげた、たった一言の『残酷な命令』を……。ほんと、もう……。西にずらせば下流域は恐ろしいことに……。東にずらせば……。」

「姉様……。」

「……。酷すぎて、それ以上は、もういいわ。あとね、気にする必要はないわ! そんなのは珍しくないの。こんな程度のロジックは……『数秒以内』で脳裏に浮かばないとね、あの神々の領域には入れてもらえないのよ。つまり、わたくしの考え通り、あの神々に『主』は向いてないわ。」

「……、なに? 気にする必要はないって? だったらね、一つ聞くわよ? 逃げずに答えなさいよ?」

「あら……急にどうされたのかしら? わたくし、逃げません。なにかしら?」

「あなた、『主』に対する執着心は誰にも負けないと吹聴しながら歩き回っていると、あの筋肉から聞き出したの。それで、仮にあなたが『主』になったのなら、この判断、どう下すのかしら? 当然だけど、『主』の命令は絶対なのよ? 仮にそれが……、この今の危機であっても、すべての民に『甘いもの』を配りましょうと命じたら、本当に『甘いもの』が全ての民に配られるのよ? そこを十分に考慮して、答えてね?」

「姉様……。甘いもの……、ですか。それは素敵な策、なのです。」

「フィー、ここは黙ってて。」

「はい、なのです。でも、甘いもの……。」


 あの神々……。まあ、そんなもんですよね。それしか言いようがないです。それよりも、甘いものという言葉に反応して、フィーさんがおかしくなりました。びっくりです。たださ、全ての民に配布とか! そんなぶっ飛んだ事って、あり得るの? 「主」だっけ? もしその主が「投資家の皆様に爆益を差し上げます」と命じたら、そうなるってこと? その「甘いもの」の例えより、まだこっちの方が現実的に起きそうだけれど……。爆益か。俺、懲りてないね。ああ、はい。


 それにしても、この問題すらシィーさんに丸投げとは……、これは悩むよ。精霊もつらい、か。そして、こんなことさせられた上、さらに命を投げ捨てて……だっけ? 話にならないね。


 おっと、都の支配者が、腕を組んで、意気揚々と話し始めました。もう結論、ですか! このシィーさんからの問い……、そう簡単には答えが出せない「難問」に感じるのだが……。


「わたくし、『進路を変えず都に直撃させる』を選びますわ。」


 えっ……。まじですか? あっさりと直撃を選んできました。


「即答ね?」

「当然ですわ。わたくし、都の民を心から信じていますの。『試練』として、ありのままの進路を受け入れるわ。いかがかしら?」

「……。あなたも『主』には向いていないわよ? 良かったね、適正診断ができて。」


 シィーさん、直球ですね! ここまで抱いていた、この支配者に対する違和感が吹き飛びました!


「な、なんて……。急に、なんていうことを言い出すの!」

「率直に申し上げただけよ。『主』に、向いていないとね! もしかしたら、都合が悪いフレーズは聞こえないのかしらね? だったら、何度でも、何度でも、申し上げますわよ? その耳に届くまで、ね!」


 シィーさん……。筋肉がしでかした件の怒りも織り交ぜて、声を張り上げていますね。「主」には向いていない、か。それ、わかる。俺でもピンときたよ。この方に「主」は向いていないね。


「ひどいわ……。わたくしの、わたくしの、すべてを否定するなんて……。」

「あっ、そう。そのまま、呆然と立ち尽くしているのがお似合いね? それでは、筋肉をつかまえたので、いよいよ温泉ね!」


 やっと、か。やっと、やっと、酒だ! 温泉だ! もう、こんな支配者、どうでもよいです。


「シィーさん! 待ってました!」

「姉様……。甘いもの、なのです。」

「ちょっと、ちょっと、待ちなさい! 答えは、なにかしら? まさか、このまま終わりなの?」

「あなた、それは正気なの? さらには答えすら求めてくるなんて。あなた、それで、本当に都の支配者なのかしら? たしか『知恵』だっけ? ちょっとね、聞いていたのよ。そこから答えを、自力で導きなさい!」


 シィーさん……、急に、上機嫌となりました。ずっと、心の奥底に引っ掛かっていたものが、キレイに取り除かれたのかな。それに対してフィーさんは……、甘いものに思考が支配され、今もなお、お花畑になっています。おそらく、疲れたのでしょう。フィーさんのことですから、これ以上の思考過程? が危なくなると、防御的な何かが働いて、それで急に、ですよね。きっと。


 さてと、深く落ち込んだ「筋肉」を引っ張りながら、温泉です。酒です。やっとです。純粋に、嬉しいですよ!

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