255, 巧妙に仕掛けられた罠。それを事前に見抜ける者など、ほとんどいない。気がつけば、わたしは罠だらけのダンジョンを進んでいた……。
下僕って、いったい何なのよ……? コンセンサスに参加できず、ただ存在するだけのダミー? でも、それなら……「光円錐にヒストリーを刻む上位リーダーの十賢者」や「最上位マスターリーダー」に不具合が生じた場合、どうなるのよ? そのときは、その下僕にコンセンサスの提案が回る? でも……。そんな単純な仕組みじゃないわよね。
「女神ネゲート様、ご混乱されるお気持ちは理解できます。しかし、それでも下僕たちには果たすべき役割があります。それは、検証と拡散です。つまり、検証という役目をしっかり果たしております。」
「……。なによ? 検証の役目をしっかり果たしているですって? そんなの当たり前よ。検証もせずに拡散されても、迷惑なだけ。そこまでしてコンセンサスに参加できないなんて……。本当に、ただの下僕ね。で、このヒストリーの仕組みはどうなってるのかしら? 最上位のわたしが決めた通りにしか動かない……それが絶対のルール、そうよね? でも、もし順番に指定されている精霊に不具合が起きて、動けなくなったら? それでも『非中央なチェーン』なら、他の精霊がすぐに代わるからまったく問題にはならないわ。ところが、この仕組みでは……。その順番に指定されている精霊が動かなくなったら、その不具合を直さない限りチェーンが復帰できない。違うかしら? そういうことよね? こんな仕組みで『分散型』を名乗っているなんてね?」
「女神ネゲート様。ええ、確かに停止します。ですが、それこそが、最大の強みなのです。」
「えっ? 止まることが強み……? なによ、それ……。」
「女神ネゲート様。そうです。他のチェーンは分散型の性質に縛られ、意図的に止めることができません。ですが、この仕組みなら、それが可能なのですよ。」
この精霊……いったい今度は、どんなことを言い出すのかしら? ……。止められるということは……。
「まさか……。停止を利用して、大きく動く市場の差分を狙ったり……。そんな、そんな恐ろしいことを……!」
「女神ネゲート様。もともと、このようなものは、そういう目的で作られているのです。気にすることなど、ありませんよ。」
……ゾッとするような、不気味な笑みを浮かべているわ。いったい何なのよ、こいつ……。次から次へと、とんでもないのが現れすぎよ……!
「女神ネゲート様。お言葉ですが、先ほどお話しされた『非中央なチェーン』についてです。まさか、本気で、それが実在するとお考えなのですか?」
「ちょっと……、なによ……?」
「女神様。そうですね……。結局、それらも私どもと同じスキームを持つ中央と化した仕組みを『第二レイヤー』で放置しているだけでしょう? 気づきませんか? 『第一レイヤー』のコンセンサスメカニズムにステーキングが備わっていないのに、なぜか、高い利率のステーキングとして提供されている『第二レイヤー』の実例なんて、私ども以外にも腐るほど沢山ございますよ。そして、それら実例の末路をご拝見ください。つまり、非中央であっても、『第二レイヤー』では私どもと同じスキームを放置しているのです。たまたま、私どもの『理想なチェーン』は、『第一レイヤー』と『第二レイヤー』の両方でこのスキームが動作しているに過ぎません。そして、女神様が述べた『非中央なチェーン』は、結局……『第二レイヤー』の問題については、ただ目をそらしているだけではありませんか? さて、これにご反論いただけますか?」
「……。」
わたしは、何も反論できなかった。いや、反論する余地すらなかったのかもしれない……。巧妙に仕掛けられた罠。それを事前に見抜ける者など、ほとんどいない。気がつけば、わたしは罠だらけのダンジョンを進んでいた……。ただし、行きは快適だった。罠なんて、どこにも見当たらない。だから、何も疑わなかった。それが「入金」と「利益確定」。しかし、帰りは違った。あまりにも過酷で、容赦のない罠が張り巡らされた出口への道。そう……それこそが、「出金」だった。
出金できず、行き場をなくし、ただ彷徨う。その視界に、不自然なほど目立つ宝箱が映る。まるで、誘われているように。だが、それは罠。わかっている……。でも、開けるしかない。中身? そんなの、決まってる。それでも……手が伸びる。そして……。




