表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/411

23, やっと、やっと……、チェックポイント、なのです。祈りを捧げます。

 先日、あの神々と対面して以来かな。フィーさんが急に明るくなりました。あの素材の件、知ってから、ずっと引っ掛かっていたのかな。たしかに、やばそうだもんな。


 そうそう。フィーさんが俺に、なぜか「感謝の言葉」を並べていました。なぜ? 俺さ、どうみても感情的になってあの神々に噛み付いたのよね? 後から、恐ろしくなりましたので。そして、怒られはしないかと、びくびくしていました。


 そういう事情もありまして、俺みたいな者でも少しはお役に立てるように、早いところ、フィーさんより預かった「大切な犬」を使いこなしたいです。ほんと、気持ちばかり焦ってさ、このことを思い浮かべるだけで憂鬱になってきます。


 気分転換に、この地の相場を触りたくなってきたのですが……、もちろん冗談ですよ。しかし、これについてはフィーさんに本気で怒られました! 現物だけってごねてもダメでした。結局は、反省していない、俺です。


 あのフィーさんから厳しい注文を付けられた例の素材、仮にでも、市場に上げたら、どうなるのだろうか。あっ、そういや、この地にも「特許」ってあるんだな。特許で、特にファブレスは、投資家のみなさま、みんな大好きです。しかし……。


 特許系の新興は「非常に難しい」です。投資家のみなさま、特許から連想されるものは「蛇口をひねれば、いつでも好きなだけ出てくる金貨」なのですが……、本当に、そんなに甘くないです。あれなら「特許」なんかやらずに、普通の商売で当てるか、それとも普通の開発で当てるか、量産系を誘致するか、全力買いか、シィーさんのような命がけの売りの方が絶対に楽です。それくらいの難易度です。では、なぜそうなってしまうのか、ですね。それって……「特許」というキーワードを出すとなぜか囁かれてしまう、ライバルや銀行に邪魔されて先行きが不透明に……、等が出てくるのですが、そういう類の話ではありませんよ。単に……そう簡単には売れないから、です。おいおい、それは単なる努力不足ではないのか? いいえ。それこそ、トップクラスのネームバリューを並べた所で、売れないものは、売れません。よほど、その「特許」にこだわりが持てないと、長そうで短い「時間切れ」で確実に頓挫します。あげくの果てに、触れてはいけない……なんかも出てきます。そういう世界でした。この厳しさに比べたら、フィーさんのごねる姿なんて、可愛いもんです。


 ただ、今回のは性能が良すぎてまずいことになった、だよね? やばそうだけど、なんか、もったいない。何事も「ほどほどが大事」か。うん、肝に銘じます。


 そういや、こうした頓挫の記憶も鮮明に残っているのですが……、本当に、なぜなんでしょうか。これらがこの先、俺の周りに「どう作用してくる」のか、覚悟を決める「瞬間」が近づいている、そんな気がします。そのとき俺は、上手く立ち回れるのでしょうか……。


 ところで、シィーさんは「売り売りの研究」に没頭しつつ、それなのに、なぜかどこにも見当たらず、よくお出かけしますね。自由奔放な方……精霊ですね。そういや、目を覚ましたあの神々は、このタイミングで民に気分転換の旅行を促すらしいですね。お金で強引に、みたいなので、その関連の相場と先物が荒れますね。触りたい……。でも、これを知っていて触ったらまずいよね。うん。


 そして! あの裏切りの「筋肉」です。もちろん、今はいません。あの後、自ら潔く消えました。でもさ、なぜフィーさんは、筋肉がこちら側に入り込むことを承諾したのだろうか。あの護衛らをみてくださいよ。あれらも知っていたはずで、そこから、あの筋肉がどこの輩なのか、わかっていたはずです。犬も大事ですが、これも大事です。シィーさん、悲しんでいましたので……、このまま放置ってわけにはいきません。


 ……。それらしい理由を付けて、まず、フィーさんを探しに向かいます。まあ、暇ですから。


 どうやら今日は、あの「お気に入りの場」にいないらしい。シィーさんが騒いでいて、気が付きました。


「フィーがいないの。どうしたのかしら?」

「いや、たまには外にでも……?」

「そうかしら?」

「そうなの?」

「実はね、精霊同士なら相手の位置くらい、すぐにわかるのよ。でも、なぜかフィー自らそれを遮断しているのよ。」

「えっと、それってつまり、場所を探られたくない、だよね?」

「そうなの。心配ね。手を貸していただけるかしら?」

「もちろんです!」


 それは、普通に心配です。ただ、風の精霊ってどこにでも自由自在に、だよね? うう……、それでも、心当たりのある場所から順次、探していくことになりました。そこで、俺の勘がさえます。あの大きな湖です。フィーさんが、うつろな表情で眺めていたのがとても印象的だったので、そこかなと、本気で思い付きました!


「シィーさん! あの湖です。」

「湖? ……、この付近にある、あれね。フィーのお気に入りだったわ。」


 お気に入りか。間違いないと、確信に変わるくらいの情報ですね。シィーさんの力で、一気です。ほんと、便利ですよね、この能力。移動が癖になりそうです!


「はい、到着よ。最近は座標ミスもなく、ばっちりね。」

「えっ……、シィーさん……。座標ミスって、なに?」


 なんか今、恐ろしいことを告げられた気が……。


「そのままの意味よ。今回の場合は、そうね……湖の中央に真上から突き落とされるとか、そんな感じかしら。ちなみに、フィーはこういう計算が得意だから、絶対にミスはないけどね。私のは、保証なし、なのよ。スリルがあって、楽しめるでしょう?」

「……。シィーさん……。まったく、楽しめません!」


 次回からは……、確実なフィーさんにお願いしたいと思います!


「まあ、落ち込まないで! 基本、何事も保証なし、よ!」

「……。うん、たしかに保証はないけどさ、それとこれとは……。」

「なにかしら?」

「あっ、いいえ、なんでもございません!」


 ともあれ、無事に到着した湖の周りを歩いていると……いました! フィーさんです。ただ、なぜかお祈りしているようにみえます。ただひたすらに、俺やシィーさんの気配にまったく気が付かないほどに、強く、何かを祈っているのでしょうか?


「シィーさん……、なんだろう、これ。」

「フィーって、こういう概念があったのね。」

「概念って?」

「うん。精霊って、結局、あの神々の側につくしかないからね。わざわざ信仰の対象にはしないのよ。あれだけお祈りしているとなると、まったく、余程のものね。でも、安心したわ。」


 そうなんだ……。精霊って、魔の側にはつかないのか。それにしても、何を安心したのだろうか。


「安心したって?」

「うん。位置を遮断したのではなく、全ての力を、あのお祈りに注いでいるみたい。それで位置情報が辿れなくなったのね。それなら、別に構わないわ。あの子の自由よ。」


 なるほど。それだけ、信仰の対象があるということか。何を、信仰しているのだろうか。ただ、触れてはいけない、ですね。なぜなら、心の奥底に土足で踏み込むようなものですから。


 ただ、何に対してお祈りをしているのだろうか。


「神々に対する信仰ではないなら、フィーさんは、何に対して祈っているのかな?」

「さあ……。なんでしょう。」


 シィーさんすらわからないのか。


「そのうち、戻ってくるわね。では、確認を終えたので、戻りましょうか!」

「……。」

「どうしたの?」

「こ、ここから歩いても、そんなにないよね? たまには運動でもしようかな、と……。」

「……。私を、信用できない、と?」

「いや、その……。座標ミスって、まず、ほとんどないよね?」

「そうね。一割くらいかな。大丈夫、残りの九割ばっちりよ! 安心して!」


 一割も……あるのかい。これは怖いです。そして、まずい雰囲気です。断るのは不可能、逃げるのも不可能。その九割に賭けるしかないです。


「あっ、その……。九割なんだ。」

「そうよ。相場で生き残れる可能性と比べたら、笑ってしまうほど余裕ね!」

「それとこれとは……。」


 俺とシィーさんが騒いでいる、まさにそのときでした。


「ディグさん、そして姉様……。」


 この声……。フィーさん! お助けください!


「フィーさん! 気迫のあるお祈りだったね?」

「はい、なのです。」

「そこで、突然ですみません。お助けください。」

「えっ……? 何かあったのですか?」

「シィーさんの座標ミスが怖くて……。」


 その瞬間、フィーさんから笑みがこぼれました。


「姉様……。まさか、座標ミスをするのですか?」

「フィー? なにもかも完璧にこなそうなんて、心が壊れてしまうわよ?」

「……。姉様……。」


 フィーさんがうつむいたまま、その場を動かなくなりました。


「これは、何か抱えているようね。私はお邪魔かしら? そうね……、売り売りの研究で、ちょっとした興味深い知見を見い出せそうなの。先に戻っているので、ごゆっくり、ね。」


 シィーさんはそう言い残すと、すぐさま戻っていきました。フィーさんが、何かを抱えている……、か。なんだろう。


「フィーさん、脅威が去りました!」

「あっ、そのようですね。」


 フィーさんをよくみると……、疲れ切っているのがよくわかりました。これ以上の力の行使は危ないかもしれませんね。


「そんなに距離もないから、一緒に歩いて帰ろうか?」

「……、はい、なのです。」


 一緒にゆっくりと歩き始めました。ただ、左手で胸元を抑えながら歩く様子が気になります。どこか痛むのでしょうか。心配です。万一の場合は、俺がシィーさんを呼んできますね。


「それにしても、こんな場所で、祈るんだ?」

「はい、なのです。『チェックポイント』を刻むため、祈ります。」


 あっ、ちょっと……。こんな場所で、フィーさんが楽しい時間に言い放つ、よくわからない単語に遭遇してしまうとは。心の準備が……。ああ、はい。でも今日は……、いつものフィーさんで安堵した気持ちの方が大きいです。


「その、チェック何とかって、なに?」

「大切な印、なのです。やっと、やっと『チェックポイント』を刻める日が来るなんて……わたし……。」

「フィーさん?」

「……、あっ、ごめんなさい、なのです。」

「なんか、すごく嬉しそうだね?」

「はい、なのです。『チェックポイント』を刻むと、時の流れが、このポイントを『必ず通過する』必要が生じるのです。」

「それって……?」

「はい、なのです。まず、『時の流れ』からですね。そうですね……、いま見えている光は、実は、ごく一部の側面だけなのです。全体像を捉えようとすると、実は、それには確定できない要因が複雑に絡み合って、一般化はできず、一つには定まらず、自由に揺らいでしまう難点があるのです。」

「そ、そうなんだ……。なるほど。」


 うん、訳がわからん。ここでいつもの可愛らしいフィーさんが始まってしまいました! 疲れ切っていても、フィーさんは、フィーさんですね。本当に油断しました。でも、このようなのんびりとした時間も悪くない。


 それでさ、シィーさんは……、逃げたな。姉妹だもんね、雰囲気からこうなることが予見できたのかな?


「そこで、なのです。その流れは、いつも確定を試みます。そして、確定しようとすると、どうしても『誤差』がでるのです。」

「誤差か……。シィーさんの『座標ミス』みたいなものかな?」

「姉様は、そのようなミスはしないのです。……、姉様らしい嘘ですね。」


 お邪魔になることを見越して、わざと……? シィーさん……、ごめんさない。


「誤差はまずいよね?」

「いいえ、なのです。ここで、その誤差を否定してはいけません。その誤差が、豊かな日常を刻んでいきまして、いま、わたしたちは『ここ』に存在するのです。」

「えっ……?」


 フィーさんの楽しい時間の中で、初めて、興味を持てたかもしれません。


「俺さ、何で生きているのか。あと……、この地に呼ばれた理由とか、未だに、まったくわかりません。」

「……。それらが、同じ『ジェネシス』から始まり、サイコロでは表現できない誤差から生じているなんて、わたしも不思議なのです。」

「ジェネシスか……。」


 ジェネシス……。これに俺、呼ばれたんだよな。きっと、そうだよね。


「そして、この地に召喚したことは、ごめんなさい、なのです。わたしの身勝手な理由で、なんとお詫びしたらよいか……。」

「別に気にしてないよ。こうやって生きているし! この地で満喫するから、大丈夫です。」

「……。うれしいのです。今日は、わたしにとって、最高の日になりそうです。……、話を戻しましょう。」


 最高の日か。うん、俺も久々に和やかな時間を楽しんでいます。


「えっと……、何の話だっけ?」

「はい、なのです。『チェックポイント』です。」

「そうだ、それそれ。」

「では、誤差の話から、なのです。まず、この誤差がどのように出てくるのか、それは、わかりません。」

「わからない……。フィーさんなら簡単に計算しそう、だけど?」

「いいえ、なのです。それはできません。いまこの瞬間、出てきた値……結果を拝見するしかないのです。」

「つまり……、わかってしまうと、それが確定になるの?」

「それ、なのです。そして、それを『チェックポイント』に記録するのが、先ほどの祈りとなります。」

「そうなんだ……、時々、そうやって『別に』記録するの? いま、こうして確定したのに?」

「はい……。いまこの瞬間が起きていますので、これは確定しているのです。しかし、この『時』を進めている『ブロック』を巻き戻すと……。」


 えっ、なに? ここまで、特殊な力を沢山見てきているので、そう簡単には驚きません。しかし、「ブロック」って……。この響き、心の奥底でずっと引っ掛かっています。


「どうなるの?」

「巻き戻した分だけ『時が戻る』のです。つまり、やり直し、なのです。」

「……。それは……、さすがに冗談、だよね?」

「いいえ、なのです。しっかり、戻ります。」


 まあ、本当に戻るんだろうな。フィーさんが、このような場面で冗談……ないない。


「それってさ、失敗しても、やり直しできるってことだよね?」

「はい、なのです。巻き戻したあと、その巻き戻した位置から『再開する』ことができるのです。そして、揺らぎによる誤差は『新しいもの』になりますので、戻したのと同じブロックにはなりません。」

「同じブロックにならない?」

「はい、なのです。戻しても、同じブロックになってしまうなら、同じ瞬間が何度も訪れるだけなのです。同じことを繰り返すだけ、つまり、巻き戻す意味がないのです。しかしです、戻した位置から、揺らぎによる誤差は新しくなりますので、刻まれる瞬間は別のものになるゆえに、巻き戻す意味があるのです。」

「ちょっと待ってよ、フィーさん! それって、過去を……。」


 時を戻して、新しく刻み直せる。過去を変えることができますよね?


「はい、なのです。ただし、戻したブロックの先に、今の記憶は『持っていけません』。」

「えっ……。」


 記憶が持っていけないのなら……。


「俺みたいなアホでは、巻き戻しても、同じ行動を取ってしまうね。つまり、同じブロックになるのかな。逆に安心しました。なぜなら過去改変に対して、あまり良いイメージがないためです。常に現実で勝負、です。うん、それで負けたけどね。再起不能なまでに……。」

「……。なぜディグさんはいつも、自分を低く見積もるのでしょうか?」

「いや、そうは言われても……。」


 それは返答に困ります。だって、俺、ここまでの瞬間で役に立ちましたか? 未だ、満足に犬すら投げられない、未熟者です……。


「ディグさんのおかげで、今日、この瞬間に立ち会えたのです。嬉しくて、わたし……。」

「……。」


 まあ、フィーさんが喜んでいるのなら、全然オーケー。ばっちりです。


「だから、『チェックポイント』なのです。この祈りを捧げると、ブロックを管理する中枢に、揺らぎの結果が書き込まれます。そして、ブロックを辿るときに、その結果に必ずなることが要求されます。つまり、揺らぎによる誤差を認めない唯一の点が、『チェックポイント』になるのです。」

「つまり……?」

「ちょっとわかりにくい、ですね。例えば『チェックポイント』の前までブロックを戻しますと、『チェックポイント』で、そこに記録されている誤差と同一のものが要求されます。そして、どんなに同じ行動を取っても、実際には『僅かに異なる』のです。その程度の違いでも、同じ誤差が出る可能性は『一切ありません』。僅かでも異なると、まったく別物の誤差が出てくるから、なのです。」

「……。」

「つまり、『チェックポイント』に弾かれて、そのまま……『消滅』するのです。」

「消滅するの!?」

「はい、なのです。だから、『チェックポイント』に書き込めば、ブロック……時を戻せても、その『チェックポイント』までとなります。つまりそれは、いまこの瞬間、なのですね。それ以前に戻しても、ここには辿り着かないのです。」

「時を戻して、そこから新たに揺らぐ誤差の内容次第ってことだよね? それ、悪い方向に向かう場合もあるよね? つまり、『この瞬間にならない悪い状況』となる過去改変を防ぐために、祈ったの? 例えば、あの神々が、あの素材を諦めきれずに……。」

「そ、それは……!」


 フィーさんが慌てて俺の口を塞ごうとしたので、しゃべるのをやめました。そのとき、俺が気になっていた胸元を抑えていた左手が、ふと、離れたのです。そして、そこには……。


「フィーさん! どうしたの、それ!」


 手の平に、真っ赤な血のりがべったりと付着しています。これって……。


「こ、これは……、気にしないでください!」

「それは無理だよ。そんな血、いくら精霊でも、そのままって訳にはいかないでしょ?」

「いいえ、なのです。大丈夫です。」

「いま、シィーさんを呼んでくるから、ここで待ってて。いいね?」

「姉様は呼ばないでください!」


 フィーさんが、俺の手を掴んで離さない。……。一旦、落ち着こう。


「わかったよ。まずは落ち着こう。なぜそうなったの?」

「……、これは特に、問題ないのです。祈りとは、そういうもの、なのです。」


 さすがに、それで「はい、そうですか」とはならないぞ。


「どこか悪いの?」

「……、いいえ、なのです。」

「祈るたびに、これなの?」

「……。はい、なのです。身体への負担が大きいので、仕方がないのです。」

「それは違うでしょ?」

「えっ?」

「シィーさん、知らなかったよ? 『チェックポイント』に対する、この祈りについて?」

「……。」

「でも、ここで『また、隠し事?』とは言わないぜ。その代わり、しっかり休んでください。これが、この件をシィーさんに伏せる条件です。これなら、良いよね?」

「ディグさん……。はい、なのです。」


 また重大な「隠し事」みたいですね。しかし、これ以上は触らない方が良いという「直感」が、脳裏をかすめました。このような場合、俺は「直感」を取ります。なつかしいな……、この感覚。


 「隠し事はしない」と心に固く誓っても、避けられない何かが、あるのでしょうか。


「とりあえず覚えられた。『チェックポイント』、ね? ところで、こういうの多いよね?」

「そうですか……。わたしは、これで普通なのですが……。」

「これで、ここまでしか戻せない、か。でも、その……『ブロック』だっけ? そんなもん、戻す輩なんかいるの?」

「……。はい、なのです。なお、簡単ではありません。しかし、精霊がその手法を知れば、戻すことができます。だから、『チェックポイント』が大事、なのです。」

「いきなり、見知らぬ者が、勝手に戻せるってこと?」

「はい、なのです。『ブロック』は、誰のものでもありませんから。みんなのもの、です。」

「どうなるの? それさ? いきなり時間を戻されて……。」

「ディグさん、よく考えてみてください。記憶は戻せません。つまり、『気が付かない』のです。」

「……。ちょっときついね、それは。そうだよね、記憶がないなら、急に数カ月前に戻されてもさ、あっ、またいつもの朝か。これで終わるよね?」

「はい、それで問題ないのです。ただです、揺らぎによる誤差で構成されている弊害でしょうか。まれですが、『一部が失われない揺らぎ』が発生します。そして、ここで『既視感』が出てきます。まず、自分だけの既視感ならば、脳によるただの勘違いなのですが……、みなが揃って『なんかみたことあるね』だった場合は、この揺らぎによる影響で間違いないのです。」

「それ、まじなの? 『なんかみたことあるね』は、ここではなく……、故郷でも、治療などに携わるやばい銘柄とかで多かったよ。それも、誰かが……、時間のブロックを巻き戻して、過去が変わるまで試していたってことかな?」

「ディグさん……、命を救うためのそれらが『危険な銘柄』、だったのですか……。そこは、にわかには信じがたいのです。ただ、そういう銘柄で大きな損失を抱えた場合、この手法を試す者が出てくる確率は……、実は『ない』のです。それらは単に、損失という現実から逃れたい群集心理かもしれません。」

「ただ逃げたい、わかる、その気持ち。それか。大量の身勝手な買いあおりが発生するんだ。」

「売り逃げをするための買いあおりですか……。はい、なのです。」

「でも、フィーさんが『ない』と言い切るなんて、余程のことだよね?」

「はい、なのです。実は、戻す時間の長さに応じて、それなりの力……コストを要求してくるからです。例えば『全体の時間』を司るブロックは『僅かな時間……数秒』でも、要求される力は莫大なのです。とてもとても、損失の穴埋め程度で試せるような代物ではありません。しかし、損失を穴埋めするには、全体を戻す必要があるので……そのブロックを巻き戻すしかありません。」


 それを聞いて一安心です。手法を知っても、ノーコストで時を戻せるわけではない、か。ただ、「全体の時間」って、なんだろう?


「全体の時間って……、色々な種類があるの?」

「はい、なのです。自分だけの時間と、全体の時間を分けて考えると、わかりやすいです。例えば、わたしの好きな甘いもの、です。溶けないように保管するだけなら、『自分だけの時間』で問題ありません。それなら、コストが低く、自由自在に扱うことができるのです。」

「あっ、なんかあったね。それ。ごほうび、だっけ?」

「……。はい、なのです。そして、このコストについては『難易度』と呼ばれています。ちなみに、『全体の時間』の難易度は、途方もない値、なのです。それに対して、『自分だけの時間』なら、一とか五とか、小さな値です。わざわざ『高難易度』にはしないのです。それなのに、あの日は、おかしな難易度が付いていて、なかなかブロックが出ずに、苦戦したのです。」

「それか……、低難易度とか、高難易度とか、そういう意味だったのか。」

「はい、なのです。そして、時を戻すには、ブロックを巻き戻して、チェックポイントを無事通過し……、その難易度を『大幅に超える力』を投入し、『今この瞬間』を『乗っ取る』必要があります。乗っ取りに成功して、初めて、それを仕掛けた者が過去改変した時間になるのです。」

「わかってきた! 乗っ取るのか……。それにコストが必要、か!」

「はい、なのです。乗っ取らないと、それはただの『自分だけの時間』で、意味がないのです。その乗っ取りの抑止策として『高難易度』が存在いたします。そして、その高難易度と同等な力を与えても乗っ取れないから大変なのです。それを遥かに超える力が要求されますから。そして、『今この瞬間』も進みますから、巻き戻す時間が長いほど、その乗っ取りは、大変になるのです。」


 今この瞬間を乗っ取る、か。とんでもない概念……、いや、現実だな。


「なんか……、よくわからなかったものが、ちょっと見えた感じ?」

「今日は、やはり最高の日、なのです。そして今日は、月も日も最高な数でした。すごいです。もう少しで、急に寒くなるのです。いつものこと、なのです。」

「フィーさん……? 念のため、もう一度言うけど、ちゃんと休むんだよ?」

「はい、なのです。」


 今日のフィーさんの楽しい時間は、初めて……、興味が持てました。ただ、あの血……、なんだろう。嫌な予感が心の中を駆け巡ります。


 ただ、悩んでもしょうがない。俺の楽観的な性格が勝って、あとはシィーさんの話で盛り上がりました。あっ! そういや……、フィーさんが精霊だった件、伺うのを忘れていました!


 しかし、大丈夫です。あの神々が急に用意した、あの「旅行キャンペーン」に、参加することになりました。温泉旅行らしいです。というか、温泉が、あるのですね! 楽しみです。


 そこでご機嫌なフィーさんに、精霊だった件を伺います。何事もタイミングです……、俺なんかに言われたくないか。とほほ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ