235, 女神様ほどのお立場で、「量子ビット」が本気を出せば、一瞬で消え去るような代物を放置しているとは……、いかがなものかと存じますが?
わたしに今、できることは……。そう、それは……覚悟を決め、神託を修正することだった。この決断は、わたしにとってあまりにも苦しい。それでも、一度退き、「誤差ベクトル」と「状態ベクトル」の問題を解決したあとで、もう一度……。
その瞬間だった。邪な気配を感じ、反射的に振り向く。そこにいたのは……。そいつは、あの精霊……、見覚えがある。いや、違う。絶対に忘れられるはずがない、あの相手……!
「これはこれは、女神ネゲート様。無礼を承知のうえで、このような形で参上いたしました。どうかお許しを。」
「……、どういうことよ? なにをしに来たのよ? まさか……新型の『量子ビット』を見せびらかしにでも?」
「女神ネゲート様、ご自由に解釈なさればよろしいかと。」
「……なによ、それ。いちいち鼻につく言い方ね?」
「そうですか。ただ……、女神様ほどのお立場で、『量子ビット』が本気を出せば、一瞬で消え去るような代物を放置しているとは……、いかがなものかと存じますが?」
「……。」
なによ……、わざとらしくため息なんかついて、そんな事を……。
「まあ、そういった忠告のために、わざわざ足を運んだまでですよ。」
「言いたいことは済んだでしょう? それなら……、すぐに消えなさい!」
「まあまあ、落ち着いてください。それから、周囲をよく見渡してご覧なさい。かつて栄華を誇った『推論……単精度』ですら、『量子ビット』の前では力を削がれ、その影響力を低下させているのです。さて、それほどまでの存在に抗おうとする理由……女神様には、おありでしょうか?」
「なによ……。」
「ほら? やはり、何も答えられないのですね? つまり、女神ネゲート様には、そこまでする理由などないということですね。」
「……どうしてそうなるのよ? そんな勝手な解釈、いい加減にしてくれない?」
「……。さて、我らも無駄にできる時間はありませんので……、これで失礼いたします。」
……。そう言い残し、迷いなく去っていったわ。
「……いったい、何なのよ?」
つまり、次にわたしに見せつけるのは、いよいよ、「推論」を取り込んだ「スペシャルな量子ビット」ってわけね?
「ほんとに、もう……。」
でも……。もし今後、定期的に新型の「量子ビット」が公開され続けたら? そんなの……。こっちから量子に抗えることを示さない限り……。




