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228, とにかく急ぎなさい! これでは「どうぞ破ってください」と言っているも同然よ!

 さらに、わたしはとんでもない事実に気がついた。そう、「量子ビット」がそのような力をつけ始めた……その優先順位について。


「その表情……どうやら、やっと気がついたようね。『量子ビット』であっても、探索時の干渉回数は平方根程度にしかならないから、そのままでは演算時間的にまだ厳しく『現実』的ではない。よって、まだまだ二十年、三十年……、数十年くらいは安泰だなんて……、あなたの周りでは、よく出ていた話よね?」

「……。うん。」

「ところが、探索時の干渉回数が平方根になるのと、二つの『量子ビット』による同時作用の適用回数が平方根になるのとでは、決定的な違いがあるのよ? そうよね?」

「そうね……。」


 そう……。二つの「量子ビット」による同時作用の適用回数が平方根になる。これは……量子演算に圧倒的な効率向上をもたらす「領域の変換」に必須となる作用……エラー率が比較的高い二つの「量子ビット」による同時作用の適用回数に、本来なら必要とされていた二乗が外れてしまうということを示しているわ。


 そして、なぜこんな程度のことがチェーンでは大きな問題となってしまうのか。それは、採掘のハッシュはもちろん、鍵や署名に利用されているアドレス空間は比較的大きいため、エラー率が比較的高い二つの「量子ビット」による同時作用を大量に要求されると、非常に厳しくなるのよ。しかも、そういった箇所が中核部分に点在していて、逆にそれが「量子ビット」への耐性につながっていたのよね。


 ところで、そのアドレス空間なんだけど、チェーンの場合は「二百五十六」になるため、その二乗は「六万五千五百三十六」となるわ。よって、本来ならこの膨大な回数を、エラー率が高いのを知りながらも適用しなければならない。ところが、この平方根を使えば、二乗が外れるので、たったの二百五十六回で済んでしまう。つまり、比較的エラー率が高い近年の「量子ビット」ですら……そう、量子演算に圧倒的な効率向上をもたらす「領域の変換」に対応できてしまうなんて……。


 さらに、コンジュ姉から新たに知らされた、衝撃的な事実。


 この手法は……目的となる解に対する誤差は、理論上も一切発生しないのよ。なぜって……それは、この手法で犠牲となるのは「解そのもの」ではなく「確率振幅」……、だった。


 つまり、解については正確に求められるが、その解に定まる確率が低下する。言い換えると、間違った答えは多く出てしまうが、正解もしっかり出る、となるわ。そのため、この手法の制約となっていた、取得した解を「古典ビット」で確実に即座に検証できて、正解かどうかチェックできるものでないと、使えないよ!


 それで、もう……、これって……。そうよね? その主なターゲットは、ハッシュや暗号を破ることに焦点を絞っている気がするわ……。これこそが、その優先順位ってやつ……なのね。


 ハッシュや暗号……鍵や署名というものは、秘密という解を知るために逆方向に解こうとすると、「古典ビット」では時間的制約によって解けないという性質を利用しているわ。つまり、秘密という解さえ取得できれば、その正当性は「古典ビット」で確実に即座にチェックできてしまうのよ! もう……、なんなのよこれ!


 もう……、同じ平方根でも、ここまで違うなんて! もう、平方根なんて! なんなの? どうしてここで平方根が出てくるのよ!? せめて二で割るとか、三で割るとか、それくらいにしなさいよ! なんで、もう!


「……。」

「とにかく急ぎなさい! これでは『どうぞ破ってください』と言っているも同然よ!」


 そうね……。覚悟を決めたわたしでも、さすがにショックだわ。ところが、さらに……コンジュ姉は、まだ何かありそうな表情を浮かべている。……。

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